そういや、今回テイルさん達には企画配信の事は話してないんだよあなぁ。
皆なかなか忙しくしてたっぽいし、アキラさんとグウェンさんはともかく同じアパートメントに住んでいるテイルさんは手伝うって言ってくれそうだったからさ……テイルさん人が良すぎるし。それに、
「テイルさん、今日は帰ってこれなかったんじゃ……」
「お仕事早めに片付いたんだよ~! ねっ、ねっ、もっとちゃんと見せてもらっていい?」
「それは構わないけど……とりあえず部屋の中に」
さすがにこの状態で話していると他の住人とかも来ちゃいそうなので……俺がなんでこんな格好しているか説明できるテイルさんはともかくとして、他の住人にこんな格好を見られるのは避けたい。説明がしづらいので。
部屋の中に移動すると、テイルさんは俺の周りをぐるぐる回って俺の事を観察しだす。
「うっわー、いろいろ凝ってるねぇ。特に背中とか凄い……貴族とかでもここまで凝ったデザインの服なんて持ってないんじゃないかな? カズサちゃんの世界って、普段からこんな格好してるの」
「さすがに普段からではないですね、基本的に」
リアルだとさすがにこんな洗濯しづらい服は常用しづらいだろう。リアルでこんな服着ている人がいるのはそれこそ、ビッグサ〇トとかそういった場所くらいじゃなかろうか。
「ほんとすごいや……」
「なんなら今度テイルさんも着てみます?」
興味津々にあちこみ見てまわっているテイルさんにそう聞いてみる。
一度作成したモデルを複製できないクソ仕様のせいで一からモデリングしなおす必要があるので今すぐはむりだけど、一度作成したモデルではあるからもう一回同じようなものを作る事は可能だ。作ったばっかりだからまだいろいろ覚えているしな。サイズの調整とかも必要ではあるけど、すでに企画用の衣装を何度か作っているので、その辺は問題ないし。
「んー、ボクはいいかな。こーいったヒラヒラしたのが多い服はボクには向いてない気がするよ」
『むしろ動き的にはテイルちゃんが一番近い動きしているんだけどね』
『まぁテイルちゃんのあの動きこの格好でやったら大変なことにはなりそうだけど』
ヒラヒラした部分が多いからな……こういったのはアニメやマンガだから大丈夫なのであって、実際に動き回ったら絡まりまくって大変だろう。
「それに、この服ってカズサちゃんの能力でMP使って作る奴でしょ? 今は節約しようよ」
「……まぁ、そうですね。でも着たくなったらいってくださいね」
「うん。でもボクとしてはこういった服は着るよりカズサちゃんが着てるの見る方がいいかな」
確かにテイルさんは普段から動きやすそうな服を中心に来ている。勿論年頃の女の子らしく見た目にも気を遣っているようだけど、あんまりこういったフリフリな感じの服は着たいという願望はないようで、俺が来ていても今回のようにかわいいと目を輝かせることはあっても、羨ましそうな眼を向けられたことはあんまりない。
リスナーは明らかに着てもらいたがっている気配はあるけどな。
「ところでカズサちゃん」
「なに?」
「さっき普段着じゃないっていってたけど、これって正装用の服なの?」
「正装?」
「王族とかと謁見用に作ったのかなって」
「違うよ!?」
製作途中もリスナーに言われたけど、断固拒否させて頂きたい。今後王増と会う可能性はあるんだけど、こちらがあまり存在を公にしたくないこともあり正式な謁見ではなく内々的なものになるとカシュナート様も言っていたので、そこまでがっつりしたものはいらないだろう。そもそも俺ら貴族じゃないし一般人だから、その範囲での正装でいいはず。
「違うの?」
即答した俺に、テイルさんはコテン、と首を傾げる。可愛い。ではなく、
「えっと……これリスナーのリクエストで。リンヴルムでみんなが手を貸してくれたお礼」
「成程」
テイルさんはコクリと頷いてから、カメラの方へ向き直った。
「ごめんね、みんな。邪魔しちゃって」
『全然OK』
『最近あまりテイルちゃん見れてなかったので嬉しい』
『俺らはテイルちゃんとカズサちゃんが仲良くしているのを見ているだけで幸せになれるんで!』
「こんな感じなのみーんな好きだもんね!」
コメントににやりと笑って、テイルさんがぎゅっと抱き着いてくる──あ、先にお風呂入って来たんだ、いい匂いするしちょっとポカポカしている気がする……ではなく。
「ちょっとテイルさん!?」
「んふー、みんな羨ましいでしょ。カズサちゃん柔らかくて抱き心地いいんだよー?」
『くっ、羨ましい……両方に対して!』
『アキラさんもテイルちゃんも本当にノリが良くて大好き』
『間に挟まりたい……』
『そしていまだに急に抱き着かれるとどぎまぎしちゃうカズサちゃんの反応好き』
可愛い女の子に急に抱き着かれたらどぎまぎするだろうよ。さすがにそこは慣れねぇよ。
「まぁ衣装しわになっちゃうかもだし、これくらいにしとこっか」
コメント欄が湧いているのをみつつ、テイルさんが体を離す。テイルさんこれ配信向けに意識してやってくれてるよなー。アキラさんは結構こっちを揶揄っている気配を感じるんだけど、テイルさんは完全に厚意だけでやってくれてる感じがするんだよな。正直ありがたい。かといってあんまりこっち方面を売りにすると一部リスナーがエスカレートしそうだし二人にも迷惑かかりそうなので俺の方からする気はないけど。別に自分から行く度胸がないわけではない。決してない。
「あ、ところでテイルさん。何か、俺に用件があったんですか?」
扉を開けた瞬間テイルさんが俺の格好に反応したため忘れてたけど、それほど早い時間でもないこの時間に俺の部屋を訪ねてきたってことは何か用事があったのでは? と問いかけると、テイルさんは「そうだった」と思い出したようにして頷き、その要件を口にした。
「今日ね、仕事の関係で探索者ギルドの方に寄ったんだけど、丁度今日アイリーン様の方からボク達向けに連絡が届いていたみたい」
「連絡っていうと……やっぱり?」
「うん。王都の方に来て欲しいって」
思ったより早かったなー。もう少し時間がかかると思ったんだけど……それだけあちらさんも俺達の存在を重要視してるんだろうか。
「王都の図書館の利用許可とかもとってくれたみたいよ」
「アイリーン様有能すぎない?」
今回俺達が王都からの召喚に応じた理由は、リンヴルムでの様々な動きに関わってしまった(他国まで関わっている)ことからさすがに俺達がそのまま姿をくらますとカシュナート様やアイリーン様の立場が面倒なことになるっていうのもあるんだけど、もう一つの理由としては情報収集のためだ。
今回冴さんの力を借りた"ヒロイックサーガ"に関して、冴さん以外にも対象がいることは明らかだ。今後を考えるとその召喚対象を解放できるならしておくに越したことはないわけだけど、多分これは推測だけど解放の為にはその英雄が深く関わった場所に行く必要があると考えられる。(冴さんの場合はゼノギアとの決戦の場だったと思う)。だけど英雄は数百年、或いは千年超えの存在であり正直な所詳細な情報は民間で集めるのがかなり困難である。なのでアイリーン様達に交換条件として情報収集に協力してもらえないかお願いしてたんだけど……行動が早すぎる。
「さすがにすぐは無理だろうけど、数日のうちには王都に来て欲しいだってさ」
「てんぽはっや。というか、数日は無理じゃない? パストラから王都迄リンヴルム程ではないけど距離があるよね?」
「パストラには王都との連携用の<<ポイントテレポート>>要員がいるから、その利用許可も出すって」
「こっわ。Vip対応すぎてこっわ」
これは俺達を逃がす気は全くない感じですねぇ……今更逃げる気もないけど。