「やっぱり作りが立派な建物が多いねぇ」
「この辺りは商業地区だからね。住宅街の方にいくとパストラとそれほど変わらない感じになるよ」
「成程」
きょろきょろと街並みを見回す俺ににこにこしながらテイルさんがそう教えてくれる。ちなみに俺以外の3人は全員王都は経験済みだそうです。テイルさんが「観光地案内できるよー。最近出来た名所とかは知らないけど!」といってくれたので、落ち着いたらお願いしようかなと思う。
その時にリスナーが『へえ、デートかよ』とか言ってきたけど多分みんなで一緒に行くと思うよ。
「ちなみに商店の品ぞろえに関してはパストラがいいわよ。宝石系統とか高級品は王都の方がいいだろうけど、種類は圧倒的にパストラの方が上」
「パストラは流通の中心だもんね」
質はわからないけど、種類の数に関しては圧倒的にパストラが多いのは間違いないと思う。料理とかもね。パストラは割と色々な所から来た人や別の大陸からの船員もいるのでかなり多国籍なんだよね。正直食を求めるなら王国内ではパストラが間違いないと思う。勿論リンヴルムも森から採れる食材を生かした美味しい料理はいろいろあったけど。
グウェンさんもテイルさんもパストラに慣れると王都は少し物足りなさを感じるっていってたしね。
そのかわり建造物とかはパストラにもないような立派な奴とか歴史的なものもあるみたいなので、観光はそっちをメインで行う予定!
「あと王都はファッションの流行とかも結構変化が激しいからね。今の流行をカズサちゃんに着せるのも楽しみ!」
……どうやら俺は着せ替え人形にされる予定もあるらしい。というかテイルさんなんで俺に着せる事だけ考えてるの、自分でも着ようよ。リスナーも喜ぶよ。
ちなみにだけど、普段着って感じの人間が大部分だったパストラとかリンヴルムに比べ、王都を歩いている人はお出掛け着って印象の人は多かった。まぁ俺達が歩いているところがそういうお客向けの店が多いところなのかもしれないけど。結構現代日本にちかい感じの服とかを着てる人もいて逆に新鮮だったり。
『カズサちゃん、テイルちゃんとデートもいいけど俺達ともね?』
「はいはい」
パストラでやっていた疑似デート配信ね。まぁしばらくたってからだなぁ。王都ってパストラより広いらしいから今一人で歩いたら迷子になる気しかしないし。人通りも多いしさぁ。
「とりあえず何をするにもまずは荷物を置いてこないとね」
実は今回、俺達はちゃんと荷物を持ってきている。インベントリがあるのに、と思うかもしれないけどインベントリは他の能力以上に秘密にしているんだよね。というのもMPを集めて魔術を使う能力はチートだけどあくまで使えるのはこの世界で他に使い手がいる(今の所は)能力ばかりだし、ヒロイックサーガは現時点では対霊特化のサエさんの能力しか使えない。それに対してインベントリは俺しか使えないうちに利用価値が高すぎるんだよな。だからこれは本当に最低限の人間にしか教えてなくて、俺達以外で知っているのはアイリーン様を含め数名しかいない……はず。裏で情報回されてたらわからないけどこればっかりはアイリーン様達を信じるしかないし、今の所はインベントリに関しては何も言われていないから約束は守っていてもらえていると思う。
とにかくこれから滞在するのに手ぶらに近い状態なのはさすがにいろいろ疑われそうなので、ダミーじゃないけど手荷物は一応持ってきている訳。まぁある程度長期滞在するには少ない荷物なんだけど、一度宿を決めてしまえば後は「<<ポイントテレポート>>で取ってきました」で通せるからね。
「グウェン、貴方のアテって埋まっているってことはないのよね?」
「ああ、大丈夫だ。こっちに近日中に来るのは解ってたからな、すでに何日も前から連絡を入れて部屋をキープしてもらっている」
どうやら王都でグウェンさんが昔パーティーを組んでいた夫婦が宿を営んでいるそうで、今俺達はそこに向かっている。テイルさんも知り合いらしいんだけど、口の堅い信用できる人物とのこと。別段俺の能力とかを伝えるわけじゃないけど、もしなんかのきっかけで能力が見られた時に協力してもらいやすい人物であるに越したことはないからね。
「テイルさん、結構まだ距離ある感じ?」
「んー、もうちょっとって感じ。あ、そこ曲がるよカズサちゃん」
そういってテイルさんがつないだままの手を引く。
尚王城を離れ人通りが多い所に入ってから俺の左手はテイルさんに、右手はアキラさんに握られたままである(グウェンさんは先導で少し前を歩いている)。
人込みで逸れないようにとのことだけど……俺そんな情けなく見られてるの? 子供じゃないんだけど。確かに人通りはかなり多いけどさぁ、こちとら東京でもっと凄まじい人込みも経験しているんだけどなぁ……ということも伝えたんだけど、二人そろって「まぁまぁ」で流された。……少し遊ばれているかもしれない。
グウェンさんの先導に、二人に手をひかれたまま横道に入りそのまま進んでいく。すると少しずつ人が減ってきてほどほどの人通りになってきた。それとともに歩いている客層も変わり、旅装の人間や恐らく近隣の人間だろうという姿が増えてきた。大半の宿は商業区域を外れた場所にあるそうで、この辺りから宿や飲食の店が増えてくるのだろう。
ちなみに人の流れが減ってきた当たりで二人とも手を離してくれた。あ、本当に迷子になるのを心配してたんですね。俺そんなにそそっかしい感じしてます……?
「カズサ、アキラ、見えてきたぞ」
そのまま更に進んで、大分人通りが少なくなってきた当たりで前を歩いていたグウェンさんが足を止め、こちらを振り返った。指さした先にある建物は──
「あれ、食堂ですか?」
グウェンさんの指さした建物は、宿屋という感じではなかった。ここまでの通りでも見た食堂の作りに似ている。
「ああ、その食堂もそうなんだがその奥に3階建ての建物があるだろう? そちらが目的の宿だ」
「ああ成程」
確かに食堂の建物の後ろ側に当たる位置に大きな建物がある。グリッドで長期滞在していた宿などは一階食堂で二階より上が宿だったが、ここは建物自体が別れているようだ。というか元探索者の夫婦がやっていると聞いてもっとこじんまりしたものを想定していたけど、結構立派なのでは……? まぁ三階建てでそこまで敷地が広い感じではないので、部屋数はそこまで多くなさそうだけど。
近寄ってみると、食堂の方はなかなかに繁盛しているようだった。人通りがそれほど多くないのにこれなので、結構地元民とかのリピーターが多い感じなのかな?
「こっちだ」
その食堂には入らす手前の道を曲がる。食堂から宿屋に直接つながっているわけではないのかな? 彼に続けて道を曲がると、前を歩いていたグウェンさんが足を止めた。
「ゲオルグ」
「……おぅ、グウェンか。思ったより早くきたな」
グウェンさんの視線の先、宿屋の入り口の前に一人の男性が立っていた。年のころはグウェンさんと同じくらいだが、体格は比較的細身に見える。尤も半そでの服から伸びる腕にはきっちりと筋肉がついているけど。宿屋を運営しているのもあってから清潔感のある格好をしており、顔つきも優し気だ。正直イメージと大分違った。グウェンさんめちゃくちゃガタイいいので、その仲間の人も勝手に同じような体格だと思ってたんだよね。
その男性──ゲオルグさんは、言葉の後にこちらにも視線を向ける。いや、向けたのは俺向けじゃないな。その左隣、テイルさんに向けて視線を向けると彼は元々優し気な顔なのに更に眉尻を下げて表情を緩ませた。
「テイルちゃんも、会わないウチに大きくなったな」