「おじさん久しぶり! おばさんはお店の方だよね?」
「ああ。今は忙しい時間だからアリーゼは後でな」
「うん、わかってる」
親し気にそう言葉を交わすテイルさんとゲオルグさん。おじさん等と呼んでいるが、別に血縁関係があるわけではない。
ただ、彼女はここで暮らしたことがあるそうだ。
以前……というか最近、それこそこの宿の話が出た時にその話の流れから彼女の身の上話を聞いた事がある。
彼女はの両親はすでに亡くなっているのだが、両親とも今のテイルさんと同じ探索者だったらしい。
といっても、父親に関しては彼女が幼い頃になくなっており記憶がないそうだ。
その頃には出産を経ていたこともありお母さんは探索者を引退しており、探索者時代の蓄えもかなりあったので街の仕事をこなしつつものんびり暮らしていたんだけど、テイルさんが8歳くらいになったころに蓄えが心元くなってきたと探索者を再開したらしい。
その時にパーティーを組んだのがグウェンさんで、仕事に出ている時にはゲオルグさんのとこにテイルさんを預けていたらしい。ちなみに引退前も一緒にパーティーを組んでいたそうだ。
そうしてしばらくテイルさんはお母さんやグウェンさんと旅をしたり、ゲオルグさんの所に預けられたりして暮らしていた。そして流行病で母親も数年前に亡くして以降もそのままゲオルグさん達が養ってくれていたが、テイルさんが母親と同じ探索者になりたいと願ったことで、今はグウェンさんと一緒に行動をしているということだった。(元々母親が存命の頃から探索者は目指していたから体は鍛えていたし魔術も習っていたらしいけど)
「だからね、ボクにとってゲオルグさん達はもう一人の親みたいな感じなんだよ。グウェンは親戚のおじさん兼先生みたいな感じかな、今はもう仲間だけどね!」
そう言ってにっこりと笑って話を閉じた後に、チャット欄は投げ銭の嵐になった。
その様子を見て「何事!?」と慌てていたテイルさんは可愛いかったけど。ただその投げられたお金って俺の力になっちゃうのよね……これは明らかにテイルさんの身の上に対して投げられたものだったので、この投げられた分は(最早全く使ってないけど)換金の機能を使ってテイルさんに渡そうかって話をしたんだけど、テイルさん曰く「カズサちゃんの力として使ってくれるのが一番嬉しいよ?」と受け取り拒否された。大天使か?
じゃあせめてなんかお礼をと言ったら、「じゃあカズサちゃんのごはんが食べたいかなー」と言われたので(俺なりに)腕によりをかけた料理を作らせてもらいました。向こうの料理を再現しようとした奴のうちうまくいったものとかも出したら滅茶苦茶喜んでもらえました。
まぁそれはさておきとして、要するに今回のテイルさんは里帰りにも近い感覚だったりするんじゅないかと思う。
「まぁとにかく荷物をおいてくるといい。部屋は三階の奥の二つだ。注文通り四人部屋と二人部屋で良かったよな?」
「ああ」
「ほれ、鍵だ。番号で部屋の位置はわかるだろ」
「うん。カズサちゃん、アキラさん、案内するからいこ!」
◇◆
俺達向けに用意されたのはそれなりに広い四人用の部屋だった。旅の途中とかよくある分け方何だけど、グウェンさんが一人部屋、残りが大部屋という分け方だ。まぁ単純に男女で部屋をわけた感じだね。あ。勿論ベッドは別々だけどね? ……たまにアキラさんやテイルさんが潜り込んできたりするけど。
「とりあえずポイント再設定しておくね」
部屋に来て、荷物を置いて最初に行った事は<<ポイントテレポート>>のポイントを設置する。
今回はパストラ側はアキラさんが彼女の自宅に張ってくれてあるので、これでいつでも行き来可能だ。<<インベントリ>>と<<ポイントテレポート>>はマジで本当に便利で、今となっては取得しなかったケースが考えられない。
というか<<ポイントテレポート>>はこれ一つ使えるだけで就職先はいくらでもあるらしいし、<<インベントリ>>に至っては俺しか使う事のできない能力だ。
いや、マジで知られちゃいけないなコレ。世界中から狙われてもおかしくない? 俺。
「どうしたの、カズサちゃん。急に震えて。トイレかしら? 我慢は体によくないわよ?」
「違いますよ?」
王様と謁見中に催したら困るとか思ってきっちりパストラを出る前にトイレは済ませているので、別に今はもよおしていないです。ちょっと今更ながら自分のポジションを考えたら怖くなっただけ。零細男配信者がなんでこんなことになったんやろうなぁ……あの時変なワールドにJOINしなかったらとか思うけど、JOINしなかったらアキラさん達と会えてないのよね。うーん。
しかし最初の頃は殆どやれることもなくて、服とか下着を出したり水を出したりくらいがせいぜいだったのに、成長したなぁ……俺。
今後はもっと自分の行動に気を付けていかないとな。特に今回の件で俺の関与した内容をある程度しっている王国の上層部には目を付けられた訳で。
ただ逆に情報収集とか、今後の事を考えると国とか大きな組織とかと全く関わらないってわけにもいかなそうだし……難しいところだ。
まぁいい、この件はアキラさん達とちゃんと相談して決めていこう。こっちに来て長いとはいえ、まだこっちの世界に関して知らない事なんていくらでもあるしな。
それよりも、だ。
「テイルさん」
「ん? 何、カズサちゃん」
「この宿って、お風呂ってあるんですかね?」
『え、カズサちゃんまさか』
『も、漏ら……』
『大丈夫、俺達は黙っているから! 気に病まないで』
「ちげーーーーーーーーよ!」
「ひゃっ! 何、カズサちゃん!?」
「あっ、ごめんなさいごめんなさい。コメント欄のアホ共にいったんです」
コメント欄の反応が余りにひどかったので思わず反射して強く突っ込みを入れてしまった俺の声に、ベッドに座ったテイルさんがビクッと体を跳ねさせた。そんな彼女に平謝りしてから俺はコメント欄をじろりとみる。
『ごめんなさい』
『あ、ジト目っ……』
『でも今の流れだとそう連想するのも仕方なくない?』
確かにアキラさんの言葉からのお風呂発言はちょっと流れとしてはアレだったけどな!?
「さすがに自重しろな?」
基本セクハラ的な発言も(俺に対してだったら)許容しているが、お漏らし扱いはライン超えである。
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
素直でよろしい……んだけど、綺麗にコメント欄がごめんなさいで埋まるとちょっと怖いな。まあそれはいいとして、と。
「全く」
「カズサちゃんって本当に綺麗好きだよねぇ」
ベッドに腰を降ろすと、テイルさんがそう声を掛けてくる。こっちの世界ではそれ用の魔術もあることもありちゃんとお風呂に浸かる文化も入るが、さすがに一般庶民レベルであれば毎日入る人間は珍しいらしい。パストラで俺が暮らしているアパートメントだって俺が済むまでは毎日風呂を沸かすなんてことはしてなかったし。
テイルさんとかアキラさんもあまり動いていない時は体を拭くくらいで湯あみをするようなことはしてないし。そもそも旅の途中で野宿の時とかはそもそも無理だしね。
でも入れるときは入りたくなるのが俺である。お風呂大好き日本人なので。最近は風呂キャン界隈とかが流行っているらしいけど、俺には縁がない話である。湯舟に身を沈めるあの時間は至高の時間だ。
一応過去の経験上、このくらいの規模の宿屋なら湯舟があると思うんだけど…・…
「えっとね、お風呂はちゃんとあるよ。おじさんもおばさんも<<クリエイトウォーター>>も<<ボイル>>も使えるしね」
完璧。
「ただそこまで広くないから、宿の利用者が多かったら毎日使うのは微妙かも」
う……。確かに客が少なければ使えるかもしれないけど、この宿は結構人気があるみたいだしなぁ。ちょっとだけしょぼーんとしかけた俺に、テイルさんはにんまりと笑って言葉を続けた。
「でも安心だよ、カズサちゃん。この近くにね、大きい浴場があるの! 一緒に入りに行こ!」
「ふえ!?」
前回残MP:2390
今回増減:
スパチャ +2772540(前回からの増減分含む)
残MP:2774930