「引っ越そう!」
『突然どうしたのカズサちゃん』
『情緒不安定?』
『なんか悩み事? お兄ちゃん達に相談してみて?』
思わず衝動的に発した言葉に、コメント欄から困惑込みでそんなコメントが流れる。
うん、まぁ外出から帰って部屋に戻って何の脈絡もなくそんな事言い出したら、反応もそうなりますよね。ただお兄ちゃんはやめて欲しい。こないだの事を思い出す。俺は妹キャラで行く気は全くない。
──その妹RPをさせられた日からは3日、レイスの襲撃から数えれば4日がすでに経過している。
その間、特に目新しい事はしていない。これまで通り、昼は街を散策、夜は宿で雑談、という感じだ。
そう、そこに変化はないんだけど……状況に変化がありすぎた。
街を歩いた時の注目度がありすぎる。
元々、多少は視線を集めていた。この世界の美的感覚は元の世界と変わらないから美少女な外見の俺は当然男の目を引くし、特に一張羅を着ているときは珍しい恰好のため目を向けられる。
でも、あくまで多少だ。誰もが俺に視線を向けてくるわけじゃないし、街を何度も歩いていればそれだけ視線のカは減っていく。それに店の呼び込み以外で早々声を掛けられる事もなかった。出来るだけ人通りが多くて治安の良さそうな所選んでたから、変な奴に絡まれる事もなかったしな。
なんだけど。
こないだの一件以降、一気に注目度が上がってしまった。
襲撃の時、腰を抜かしていたとはいえ、あの場に長々と留まってしまったのがまずかったようだ。
あの時結構な数の町人に顔を見られ、それ以降は街を歩くたびに声をかけられ──そして更に声を掛けられる事によって更に俺が街を救った術士だと知れ渡るという悪循環。ほんの数日で、俺は街の中心部では殆どの人間に顔を知られているという状況になってしまった。
勿論、声を掛けられるにしろ視線を向けられるにしろ、そこに悪意はない。あるのは純粋な好意と好奇心だろう。
「でもここまで注目されると流石になぁ」
『カズサちゃんみたいな配信者は注目される事が仕事では?』
「配信で注目されるのとリアルで注目されるのは違うだろ」
しかも日本側で注目されるならともかく、こっちで注目されても配信に関してはなんのメリットがない。
というか、デメリットがあるんだよなぁ……
「あのさ、このまま行くと、俺外では皆の相手できなくなるぞ? 今日だって殆どコメ欄に反応できなかったし」
『あー、そういやそうか』
『確かに今日はカズサちゃん、こっちに向けては話掛けてこなかったね』
「他の人と会話したりしているときに、そっち向けて話しかけたら明らかにおかしいからな。コメント欄とかカメラは俺以外には見えていないんだから」
最初の一日目はともかく、二日、三日目と日がたつに連れて俺に話しかけてくる相手は増えてきてるから、コメント欄に話を振れるタイミングはどんどん減ってきてる。後話しかけられてなくとも注目されてるとやっぱり話しかけづらい。別の意味で注目されてしまう。
「やっぱりこの状況、長く続くのは良くないだろ」
配信中なので、リスナーをあまり長い間放っておくのは好ましくない。しかも何か面白い事をやっているならともかく、ただの町人との雑談である。特に新規で見にきてくれた人にはなんじゃこりゃと思われてしまうだろう。それに、
「あと普通に注目浴びすぎるのはしんどい!」
『そっちが本音じゃね?』
『今貴女2000人近くに見られてますよ』
「だから配信とリアルでは違うって!」
配信は向こう側にいる人数の多さを感じるのはコメントの数と視聴者数の表示だけだけど、こっちだと視線をもろに感じるんだよ! どこを向いても大抵誰かと視線が合う状況って大概だぞ!
勿論、もう少ししたらこの注目度は大分落ち着いてくると思うけど、それでもこの街限定で俺の注目度は結構続く気がする。
──それに引っ越し自体は、元々既定路線ではあるのだ。
<<テレポート>>が獲得できそうなので街の周囲で配信に向きそうな所がないか一応調べてみたんだけど、この辺りは割と平坦な場所で配信で映えそうな場所が少なくとも日帰りでいけそうな場所には殆ど見当たらないのである。
そうなると、例え注目度が下がっても多分その頃には街の中で見て回れる場所とか殆ど残っていない事になるのだ。