お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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ハイスピード

 

『てか、これ連続で使えば移動超楽じゃない?』

『一回の距離はそこまで長くないけど、それでも数百メートルを一瞬で移動だもんな』

「あー、それは無理」

 

コメント欄に流れた案を、俺は即座に否定する。

 

俺も、それは考えたのだ。これを使えば一気にパストラまで移動できるんじゃね? と。

 

だが世の中そんなに甘いわけないのである。

 

そもそも<<テレポート>>の獲得コストは50000だった。確かにお高めではあるけど……20万の<<ピュリファイ・スピリット>>に比べれば全然少ない。

 

獲得MPのコストの高さは、調べた限りは術の難易度とあとは適正のレアさが影響しているように見える。そしてテレポートはさすがにそこまで簡易な術ではないっぽい。ということは、必要適正はそれほどレアでないのは間違いない。

 

恐らくではあるが、訓練すればそこそこの人間が獲得できそうな術。なのに、"テレポート便"のようなものは聞いた限り存在していない。

 

ということは、そういった使い方は出来ないということだ。

 

そして、その理由は実際使ってみると、いやでもわかる。

 

『もしかしてクールタイムがくっそ長いとか』

『使用回数制限があるとか?』

「クールタイムはそれなりに長いけど、何十分とかじゃないからそっちは影響ないかな。使用回数制限の方は近いかも」

 

ゲームみたいに具体的に使用回数が設定されているわけではない。が、実質的な使用可能回数はある感じだ。なぜなら、

 

「術を使った後、体から力が抜ける感じがあったんだよね。それも<<ピュリファイ・スピリット>>の時よりも少し強く」

 

<<ピュリファイ・スピリット>>の時も使用時はちょっとした興奮状態にあったため直ぐには気づかなかったが、使用した後には脱力感があった。そしてあの時<<ピュリファイ・スピリット>>は2桁に届かない程度の使用回数だったけど、終わった後は結構な脱力感だった。ついでにいうと、倦怠感は翌日も残ってたのだから回復しきっていなかっただろう。魔法力的なアレが。

 

「消耗結構ありそうだから、徒歩移動のちょっとした時間短縮くらいにしか使えないかなぁ」

 

ちょっとだけ使われ方を調べてみたんだけど、概ね緊急回避や奇襲攻撃等に使われているということだった。

 

『そっかー、残念。連続で使えたなら行動範囲一気に広がったんだけどね』

『それこそ城塞都市だっけ? の周辺でモンスターウォッチングもできたかもねぇ』

「術のクールタイムが1分近くと長いから、怖くて無理」

 

テレポートした先に別の怪物がいたら詰むし、動きの速い怪物がいたらすぐに追いつかれる。せめてkm単位の移動ができないと安心できない。

 

というか、だ。

 

「そもそも対人相手だと<<テレポート>>だけじゃ心許ないから、<<ハイスピード>>も覚えたんだから」

 

お陰でMPがすっからかんに近くなった。今は現金の手持ちがあるからこそできる選択である。

 

『移動速度上昇の能力だっけ?』

「そそ。ただこっちはどれだけの効果が出るかわからないんだよなー」

『とりあえず使ってみようよ』

「勿論。<<ハイスピード>>!」

 

術を使用する。──が、<<テレポート>>のように即座に効果が出るわけではない。というか体に何の変化も感じないんだけど……とにかく、とりあえず走ってみようか。

 

俺は腰を少し落とし、スタートの体勢をとって駆けだした……のだが。

 

「うっ……わっ!?」

 

そのわずか2歩目で、俺は前方に大きくバランスを崩し、地面に滑り込むように転倒した。

 

「いっ……たぁ」

 

ギリギリ腕を前に出せたので顔面から地面に突っ込む事は回避できたけど、代わりに肘やら膝をしたたかに打ってしまった。痛い。草の生えた野原で地面が柔らかかったのが幸いしたな。下手に踏み固められた道路とかでやってたらもっとダメージ受けてた。

 

『カズサちゃん大丈夫!?』

『怪我してない!?』

 

言われて、俺は体を確認する。打ち付けた所は痛いは痛いけど、下が土だったし酷い打ち身になっているとかそんな感じはない。捲って確認したけど肘も膝もすりむいている感じはなかった。セーフ。

 

まだ<<ヒーリング>>は覚えてないから、怪我は気を付けんとなぁ。

 

そう思いつつ改めてコメント欄を確認すると、(〃∇〃)とか(〃ノдノ)とか『エッッッッ』とか流れまくっていた。

 

「いや、なんだお前ら」

『カズサちゃん、そんな無防備に……』

『かがやく ふともも』

『誘惑だな!? 俺たちを誘惑してるんだな!?』

 

何言ってんだこいつらと一瞬思ってから、何を思ってるのか感づいて俺はカメラに向けてジト目を向ける。すりむいてないか確認のためにスカート捲ったことを言ってるんだろうけど、きわどい所まで捲ったならともかく、せいぜい膝のちょっと上くらいだ。セーラー服のスカートの長さと大差ない。足を見せたらはしたないって時代の人間でもあるまいし。

 

もしかして変な所まで見えたかと思い出してみたけど、カメラの位置的にそれも

 

「この程度で反応するって、お前ら思春期か?」

『永遠の思春期だが何か?』

『カズサちゃんは解っていない』

『美少女が自分でスカートをたくし上げる破壊力を理解しろ』

 

出来ねぇよ。際どい所まで持ち上げたら俺も興奮するだろうが、この程度で興奮はない。まぁでも人数多いし興奮する奴もいるんだろうな。その反応を無理にやめさせる気は特にないので、俺は立ち上がり服や袖についた土を叩き落とす。

 

『しかしカズサさんにドジっ子属性があったとは』

「ねぇよ」

 

別にドジだからつまずいて転んだわけではない。

 

「一歩で思った以上に体が前に進んだせいで、バランスを崩したんだよ」

 

踏み出したら、バネでも踏んだかのような勢いで体が前に進んだ。そのせいで感覚的に覚えている普段の体の動きと違いすぎて、体勢を崩してしまったのだ。

 

『あー、イメージと違ったのか』

『どういう事?』

『普通の人間が、いきなり世界最高峰のスプリンターの体に入ってもすぐには最速では走れない、みたいな感じじゃない? その体を扱うための感覚や技術がないから』

「あー、そういう事なのかも」

 

自分が思う体の動きと、実際の体の動きが紐づいてない感じがするのだ。

 

「これは……練習あるのみだろうなぁ」

『でも事前に確認しておいて良かったね。これ本番で使ったら下手すると逃げるのの邪魔になってたでしょ』

「だなぁ」

 

ゲームや物語みたいに強力な能力を手に入れても、それをすぐに使いこなすことは出来ないってことだ。

 

……街を出るまでには最速は無理にしてもある程度までは感覚を掴んでおかないと。ああ、筋肉痛になりそう。

 

 

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