お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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初めてのお風呂

 

「ふあぁ~」

 

ゆっくりと透き通った湯舟の中に身を沈めてゆく。汚れもなく湯舟は綺麗なものだった。

 

湯舟の側には掘っ建て小屋だが着替えられるところがあったし、もしかしたら近郊に住む猟師か誰かが管理をしてくれているのかもしれない。ありがたい事である。

 

全身をちょうどいい頃合いの湯が包み込んでゆく感触。本当に心地よいそれは、二十日以上ぶりのものだ。ちょっと涙が出そう。

 

『今の声、漫画とかだったら間違いなく最後に❤ついてたよな』

『むしろ俺には❤が聞こえたが?』

『❤が聞こえるってどういう事だよ』

 

流れていくそういうコメントが目に入り、俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 

正直、今のは否定できない。自分でも確かにと思ってしまったので。完全に無意識に、男の頃だったら絶対でないような声が漏れてしまった。俺の体はどうなってしまったのだろう。ちょっと怖い。

 

まぁでも……声が上がっちゃうのは抑えられないよな。

 

体を更に沈め、肩まで浸かる。髪の長さがショートボブなので、これくらいなら襟足が濡れるくらいで済むだろう。

 

いやぁ、実は露天風呂初体験なんだけど、それが異世界になるとは思わなかったねぇ。そもそも異世界に来ること自体想定外なんだけど。

 

あー、でもマジで気持ちいいー。

 

それほど直接的な疲労が溜まっていたわけじゃないけど、異世界に来てからじわじわと溜まっていた見えない疲れがお湯に溶け出している感じがするぅ。

 

『すごい幸せそうな顔してるね、カズサちゃん』

『これまでの配信の中で一番いい顔な気がする』

『ええのんか! そんなに風呂がええのんか!』

「めっちゃいいー……」

 

今の俺は湯着を着ているので、普通に配信画面はそのままにしている。カメラに写っている配信画面は自分でも見れるんだけど、そこに映っている俺の顔は確かに幸せそうだ。とろけそうな感じである。

 

あー、やっぱなー、風呂は重要だよなぁ。パストラの街はしばらく滞在するつもりだから宿住まいじゃなくて部屋を借りる予定なんだけど、その際の選択基準の中に"風呂桶"アリって絶対入れないとなぁ。

 

風呂桶さえあればあとは4000MPを使って<<ボイルウォーター>>を覚えれば、自力で風呂を沸かせるようにできる。毎日風呂に入り放題だ。夢が広がる。

 

MPは今はかなり心許ない数字だけど、あと数日で目的地に着くってのは周知してもらってあるし、更には登録者5000人超え記念として巫女服配信(巫女服モデル準備済み)もする予定だから、ある程度投げ銭はもらえるハズ! いや、視聴者数はともかく登録者はじわじわ順調に伸びているから5000人じゃなくて1万人記念配信になりそうではあるけれど。

 

これまでの傾向から、少なくとも5桁に届くはMPもらえるよな? 取らぬ狸の皮算用じゃないよな?

 

うん、さすがにそれくらいは自信もっていいハズだぞ。俺。

 

MPじゃない現金の方の予算はお陰様でしばらくはなんとかなるし、パストラについたらようやく服とかも増やせるなぁ。それに無駄遣いはできないとはいえ、自宅が出来ればある程度私物も増やしていける。

 

「ふふっ……」

『あ、笑った』

『すごくだらしない顔してるよカズサちゃん』

『涎垂らしそう。垂らしていいよ?』

「垂らしません」

 

風呂に入っているだけで涎垂らすまでいったらさすがに変な人か、或いはお湯の中に怪しい成分が混じってるかのどっちかである。しかし、だらしない表情になっているのも事実だ。湯舟の温かさに、表情筋や心まで保護されてしまったのだろうか?

 

あー、でもこうやって風呂に身を沈めてのんびりするのってサイコー。眠ってしまいたいくらいだなぁ。

 

『あっ』

『あれ?』

『ん、どうした?』

『カズサちゃんの後ろの森の方に何か見えた……あ、人だ!』

『お、マジで人が』

『でも何で森の方から?』

「え、人?」

 

コメント欄の流れに気づき、カメラに映った背後の景色を見ると確かに人影が見える、2人……両方とも男だった。

 

「マジかよ……」

 

せっかくのんびりを堪能していたのに、彼らも風呂が目当てだろうか? 森の方からくるのがちょっと謎だが……

 

「短い天国だった……」

 

さすがにこんな人気のない場所で、男と一緒に風呂に入る気はしない。俺はため息を吐くと湯舟の中から立ち上がる。

 

着替えは……してる間に男たちがこっちに辿り着きそうだな。仕方ない。このまま靴だけ履いて移動して、人気のないところで着替えるしかないか。幸い人通りがあまりない場所だ、少し外れて森の木々に隠れれば問題ないだろう。

 

俺は湯舟のすぐ横に置いてあった荷物から手ぬぐいを取り出し、足を拭って靴を履き──そこで再びコメント欄が焦った様子になっている事に気づいた。

 

『カズサちゃん、街道の方からも男が二人来てる!』

「はえ?」

 

自分がやって来た主街道の方からも、確かに男が二人やってきている。

 

え、これまで温泉誰もいなかったし、来るときも誰ともすれ違わなかったのに、このタイミングで二方向から人が来るって考えられる?

 

……参った、さすがに湯着の恰好で人とすれ違うのはちょっとしたくない。当然下付けてないし、正面は大丈夫でも脇は割と甘い状態になっているので。

 

しゃーない、ちょっと困惑させるかもしれないけど、街道沿いの二人を<<テレポート>>で飛び越すか?

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