お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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危機感不足

 

本当は着替えたいけどさすがにそれは無理そうだ。濡れた体を拭いて、それから着替えている間に彼らが到着してしまえば非常にまずい。彼らが普通に風呂に入りに来たとして、それでも小屋の中に半裸の美少女がいたら不埒な行動に出る可能性がある。

 

……とりあえず靴だけ履いておこう。

 

足元を拭って、ソックスは穿かず靴だけ履く。……拭いたけど、そっから上はそのままだしそもそも湯着からお湯が滴りまくってるので無駄ですね! 速攻でべちゃべちゃである。……いやだなぁ、この後これで歩くの。さっきまでは天国に上る気分だったのに、一気にテンションダウンだよ。

 

まぁこれで移動はできる。一応はだけたら困るので腰紐は締めなおして、と。

 

そんな事をしている間にも、男たちはこちらに向けて歩いてくる。向こうからもこっちの存在は認識できていると思うけど特に何も変化する気配がないので、単純に風呂に入りに来ただけかな。残り50m程度。顔も判別できる距離になってきたけど、全員20代くらいっぽい風体だった。

 

さて、一応不埒な考えを持ってる連中である事を考えて、<<テレポート>>した後の距離が出来るだけ離れるように近づいてくるのをまってたけど……そろそろ<<テレポート>>しちゃっていいかな。

 

『カズサちゃん、<<テレポート>>したらすぐに<<ハイスピード>>使った方がいいかも』

 

ん?

 

『あいつら、昨日カズサちゃんが夕食食べてた店にいた連中だ。カズサちゃんの後ろの方にいたから、カズサちゃんは覚えてないかもしれないけど』

『え、てことはつけられてた?』

『そういや、温泉の話聞いたのあの食堂だったよね……』

『カズサちゃん話聞いたときにめっちゃ弾んだ声だしてたからなぁ……行くと思われるよなぁ……』

『偶然の可能性はあるけど……つけられてたとしたら不味くない?』

 

不味いよ!

 

コメントが間違いないなら、4人組がわざわざ分かれて二方向から向かってきている事になる。この辺は別に他は何もないから、わざわざ別れて移動する理由などないのだ。となると……逃げにくいように挟み撃ちかコレ!?

 

そう思った瞬間、体に力が入る。同時、残り30M程度の距離で男たちが突然速度を上げた!

 

『カズサちゃん、<<テレポート>>!』

 

解ってる!

 

視線を街道側に向ける。その途中、森の方から走ってくる男がこちらに向けて手を向けてくるのが見えた。それが視界に入った瞬間、なぜか悪寒が走った。

 

なんか不味い気がする!

 

「<<テレポート>>!」

「<<バイン……」

 

こちらに手を向けた男と俺が同時に声を上げる。ほぼわずかに俺の方が先だったため途中で男の声は聞こえなくなり、俺は目標と定めた地点へと移動した。

 

振り返れば、先ほどまで俺がいた位置辺りに緑色の何かが広がっているのが見えた。もしかして何かの術を使われた? 何の術だかわからないけど、どうやら間一髪だったらしい。

 

だけど、これでとにかく距離は稼げた。後は<<ハイスピード>>で街道まで逃げれば、この辺りの街道なら対象やら他の旅人の姿があるからあいつらも手出ししてこないハズ。

 

向こうにいる3人はこっちに向かってこようとしているが、距離は数百Mある。<<ハイスピード>>を使えば逃げ切れるはず──って、3人?

 

もう1人どこ行った?

 

そう思った瞬間、前から足音が聞こえた。向きなおせば──男がすでにすぐ側におり、こちらに歩み寄ってきていた。

 

え、なんで、どうして? <<テレポート>>で移動したのに……って、そうだ<<テレポート>>だ!

 

馬鹿か俺は! <<テレポート>>は多少コストが張ったといっても5万MPだ、<<ピュリファイ・スピリット>>程取得難易度が高いわけではない。そして俺の覚えられる能力は極一部を除けば基本的にこちらの世界の住人が覚えられる能力だ。

 

俺を追跡する相手が<<テレポート>>を使えてもおかしくないのだ。

 

そんな当然の事が完全に抜け落ちていた。<<テレポート>>で逃げれば万事安全……なんて事欠片もなかったのである。くっそ、考えが浅すぎる……!

 

いや、今はそんな事を悔やんでいる場合ではない。とにかく逃げないと。

 

俺に対して何かの術を使い、更に<<テレポート>>で追ってきた。更に今前にいる男は下卑た笑いを浮かべている。これで、自分に対して不埒な事を考えていないなんて全く思えない。

 

このままではエロ同人展開待ったなしだ、シャレにならない。

 

最悪なのは進行方向に男が位置している事だ。逆方向からは3人の男が立っているから逃げられない。森の方向に逃げるという案もあるが、俺はまだ<<ハイスピード>>を扱いきれていない。森の木々の中では木に突っ込みかねない。

 

となれば、男の横を何とか抜けていくしかない。<<ハイスピード>>を使ってなんとかあいつの横を抜けて、必死で走る。もう一度<<テレポート>>を使えるくらいまでの時間逃げきれれば、多分なんとかなる。

 

よし。

 

男がぴくっと体を動かした。……こっちが身構えたのが解ったのか。でも相対距離は後わずか、もう猶予はない。

 

「<<ハイスピード>>!」

 

俺は能力を叫ぶと同時、駆けだした。目指すのは男の右横、そこを駆け抜けて一気に逃げる!

 

距離感はギリギリ、だがなんとか抜けられる……そう思ったのが不味かったか。ちょうど男の横を駆け抜け、駆ける方向を変えようとした瞬間、俺はつまずきかけてしまった。

 

バランスが崩れる。傾いた体を押しとどめるために必死に前足を踏み出せば、なんとか踏みとどまることが出来た。だが、とどまってしまった。

 

致命的だった。

 

まだ湯に濡れたままのむき出しの二の腕が、男に掴まれる。男は獲物を捕らえた事を確信したのだろう、だらしない笑みを浮かべていた。

 

「ひっ」

 

その舌なめずりしていそうな顔に、思わず口から声が漏れた。背筋に寒気が走る。いや、絶対いやだ、なんとか振り払って逃げないと──

 

そう思った瞬間だった。目の前に更に人影が現れたのは。

 

銀色を纏うその人影は、菫色の瞳でこちらを一瞥した後、男の方に手を伸ばし無造作に触れた。

 

「<<ショック>>」

 

 

 

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