この世界では、書物はほどほどに貴重なものだ。
そう、あくまでほどほどであって、まったく手に入らないというものではない。
製紙技術は普通にある。現実社会ほどに安価ではないにしろ、民間で普通に購入できるレベルだ。
ちゃんと調べたわけではないけど、問題なのは多分印刷技術の方だろうとは思う。さすがに現代的な印刷機みたいなのはないだろうし、せいぜい活版印刷くらいしかないんじゃないのかな? 手書きで書き写したものも多い。実際今俺が読んでるのもすごい手書きっぽいし。
探索者組合での事務手続きを終えた俺は、当初の予定通り図書館へとやってきていた。理由は勿論情報収集の為だ。このパストラではあくまで一般的な書物だけだが(レア度の高い書籍は王立の図書館にしかないらしい。そりゃそうだよね)こちとらそもそもその一般的な情報ですら不足している。これまでの入手情報はほぼ口頭で聞いただけだからね。なので事前の街でその存在を聞いていた俺は、早速足を運んだわけである。
なにせ、本日は記念配信の日。リスナーの皆に告知もお願いしたので、ここ最近では一番人が集まるはず。集まるよな? 集まってくれるよな?
……まぁそこは本番を楽しみにするとして、その場では今後の配信の方針について改めて皆に相談する気だった。
いろいろ調べたいことはある。例えばリスナーの一人が『過去にカズサちゃんと同じような人間がいたとか調べてみたいよね』って言っていたけど、すごく同意だ。もしかしたら日本に帰る方法があるかもしれない。砂漠の中で落とし物を見つけ出す可能性かもしれないけど。
だけど、とりあえずそういった調べ物は後回しだ。時間も限られているので、今日はちゃんと調べるものは絞ってきている。
能力についてと、パストラについてだ。
前者に関しては、今後獲得する能力の判断の基準にするため。取得画面で一応説明はあるんだけど、簡単な物だからね……できればもう少し細かく確認しておきたい。
後者に関しては、言わずと知れた今後の配信ポイント探しだけど、能力獲得に関わるところでもある。例えば近郊で名所になりそうな場所がある場合、そこに行くのに必要な能力を獲得するって事も考えられるしね。例えば高所にあるから飛行系の能力獲得するとか。
とにかくそういった情報を入手するために、片っ端からそれっぽい本を読み漁ってるんだけど。
『うーん、黒髪美少女が静かな図書館で本に視線を落としている姿は絵になるなぁ』
『美少女なら大抵何しても絵になるのでは?』
『転んだ時も絵になっていたしなぁ』
……集中しづらいなぁ!
図書館の中だからあんまり口を開くわけにもいかないし、読んでいる本も日本語じゃないから映しても仕方ないので俺を映してるんだけど、さっきから好き勝手コメントされている。
『今カズサちゃんが俺達との疑似デートコース探しているって考えるとドキドキしちゃうよね』
『疑似を付けているのに慎ましさを感じる』
『あ、ぴくって反応した。可愛い』
……残念! 今読んでいるのは能力の方だ! まぁあえてわざわざ伝えないけど。突っ込んでいると調べ物進まないし……
コメント欄から視線を外し、ペらりとページをめくる。今読んでいる本はなかなかの当たりで、ページ毎に様々な術の説明が記載されている。有効な使い道とか、攻撃魔法とかだとどこのダンジョンで役に立つとかまで書いてあって非常にありがたい。ダンジョン名は殆ど知らないものだったけど、いくつかはこの旅の途中で聞いたのもあった。パストラの近隣のものもある。
それに、能力──というか魔術に関する基礎知識も書いてあったのでそこも目を通しておいた。
MPさえあればいかなる能力も取得できる俺には不要なものかと思われるかもしれないが、今後能力を使って活動していくなら、その基礎を知らないと疑われる事が出てくるかもしれない。覚えておいた方がいいだろう。
──そうして目を通したところによると、どうやらこの世界の能力は呪文を唱えれば即行使できるものではないらしい。普通の人間が術を使うには、まず己の体の中で魔力を決まった形に練り上げ、最後に呪文名を唱える事でその術を発動させるのだそうだ。ようは呪文名は発射のキーワードということなのだろう。なのでこの世界の住人の術は当然俺にようにボタン一つで術を覚えられるわけではなく、この練り方を覚える事が呪文を習得するということになるらしい。
また、魔力を練り上げるという工程が必要になるため、術を使おうと思ったら(熟練度にもよるが)ある程度のタイムラグを必要とするようだ。
どうやら能力に関して、俺は習得だけではなく発動に関してもチート能力を得ていたらしい。
……本当になんなんだろうな、この能力。ゲームっぽい感じがするのは確かだけど、こんなゲームは俺は知らないし、リスナー達も見たことがないと話していた。
この辺も、調べてみたら解ったりするのかな。あくまで落ち着いてきてからの話にはなりそうだけど、さっきの件もあるしやっぱり過去の事例とか調べたい所だけど……まぁとにかく今は今夜の必要情報を集めよう。
それから夕方まで俺は図書館で本を読み漁り、暗くなる前に帰路に着いた。
さぁ、ご飯を食べた後は記念配信の時間だ。