お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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私にいい考えがある

 

「うあー」

 

うめき声と共に、俺は背中からベッドに身を投げ出した。

 

本当はね、うつ伏せに突っ伏したいところだけどね、それなりに豊満なお胸が邪魔だからね。

 

そのまま上に浮かぶコメント欄に視線を向ければ、『お疲れ様』という旨のコメントが一気に流れていた。声ではなく文章だけだけど、こうたくさんの人に労ってもらえるのは本当にありがたいね。

 

ちなみに『お疲れ様』なのは、俺が仕事帰りだからである。例のテイルさん達との仕事だ。

 

グウェンさん達の顔合わせから、すでにはや5日経過している。俺が疲れているのはそれが理由だ。

 

ぶっちゃけ肉体的な疲れはほぼない。

 

なにせ俺がやっている事はただ待つだけだ。現地で待機しているわけではないから監視をする必要すらない。対象が姿を現すまでは俺は何もすることはないのだ。まぁそれは監視魔術は使えないグウェンさんやテイルさんも一緒だけど。

 

ただ、それがつらいんだよな。

 

魔術による監視は3交代制だ。なおかつフルタイム遠隔監視をしておらず一定時間は現地に人を張り付けて監視させているらしいので、それぞれに割り当てられた時間は5~6時間前後だ。仕事時間としてはそれほど長いわけではなく、むしろ感覚的には短い方だと思う。前述の通りする事もないので、肉体的な疲労はほぼない。ないんだけど……

 

それはそれとしてつらいことがあるんだよな。

 

一つは、うん。なんというか、トイレだ。

 

俺の役目は対象が姿を現した時のメンバーの現地への輸送。当然対象を感知したら即座に<<ポイントテレポート>>して現地に駆けつける必要がある。なので基本皆が待機している場所から離れる事ができない。他のメンバーは最悪置いていけばいいが、俺だけはいないとそもそも移動できないので。

 

勿論仕事中なので、基本的にはどこか別の所へ行くという事はない。時間的には間に食事を挟まなくても問題ない位の時間だし、なんなら事前に用意しておけばいい。それ以外は仕事時間中にやることではないので。

 

ただ、生理現象だけはどうにもならないわけで。

 

もちろんね、事前に済ませてはいるんだよ? だけどほら……どうしても行けないときって行きたくなるじゃない?

 

一応待機している施設にはトイレもあるから、小の方ならそこまで時間がかからない。とはいえ、男に比べるとどうしても多少時間はかかってしまう。さすがに気にしすぎかもしれないけど、自分が用を足している間に対象が出現して、かつその場に俺がいなかったせいで取り逃がしたとなると洒落にならん。

 

トイレのせいでとり逃がしたなんて説明できるか。

 

なので早めの時間ならともかく、終了が近い時間ならいつも必死で我慢している。その結果若干具合悪く見えたらしく一度心配された事もあった。そっとしておいて欲しい。

 

……ギリギリまで我慢しすぎて、一度交代して解散した直後にトイレに駆け込もうとした時にカメラの固定を忘れて大変な事になることがあった。トイレに駆け込んで下着を下げようとする前に皆がコメント欄で突っ込んでくれている事にすんでの所で気づき、ギリギリセーフで対処した。危うくとんでもない映像を配信してしまうところだった。

 

尚、その翌日登録者のペースが一時的に加速したタイミングがあったんだけど、その直前でこのシーンの切り抜きがあわつべに上がっていたらしい。

 

おい。

 

まぁハプニングシーンの切り抜きが人気出るってのはよくある話だし、俺の間抜けさが流れただけでアレな姿は映ってないからいいんだけどさー。ただ何かを期待して登録した奴、俺はもうやらかさないからな?

 

 

ただここまで話しておいてなんだが、こっちはそこまで疲れる理由になったわけじゃない。メインの疲れた理由は、ストラダ夫妻の奥さん……アンナさんだ。

 

いやね、別に悪い人じゃないんですよ。むしろ温厚で気さく、付き合いやすい相手だと思う。

 

そこが問題だった。

 

なにせこの任務退屈だ。いざ何かあった時皆バラバラだと現場に即駆けつけられないので、俺程ではないにしろ他のメンバーも待機場所からあまり動き出すわけにはいかない。

 

比較的寡黙な人──例えばグウェンさんなんかは待機時間はあまり苦にならないらしく装備品の手入れをしたり本を読んでいたりして時間を潰していたが、アンナさんはあまり沈黙は好みではないらしくいろいろ話を振ってくる。テイルさんも人懐っこくてその話に乗るから、その結果もう一人の女……俺も話の中に引き込まれる。

 

別に俺は話す事は嫌いなわけじゃない。そんなだったら元々あわつべで雑談配信なんかしてないし。

 

問題は内容だ。任務の話や最近の話、パストラに関する話とかは別に何の問題ない。ただ話していると当然出身の話になるわけで。

 

俺がこちらの世界に来てからわずか2か月前後。直接見たこの世界はグリッドとパストラ、それにその間にあった宿場町しかない。一応そういった質問を受けた時の為にパストラに来てから図書館に通って術や能力の研究の片手間だけどグリッド方面の一部地域の情報を叩き込んだので、ある程度の受け答えはできるけど……所詮は文字だけで仕入れた知識だ、細かく突っ込まれるとボロがでる。なのでそういった話になった時は当たり障りのない、不用意な発言をしないように注意していたのである。そのせいで疲労してしまったのだ。

 

後はこれもちょっとだけだけど。

 

「皆、あんまり相手できなくてごめんなー」

『お仕事中だから仕方ないね』

『カズサちゃんが画面に映ってるだけでOKよ』

『気にしないでー』

 

これである。

 

待機中は他の人の目があるから、コメント欄の皆を相手するわけにはいかない。これまでは寝てるときを除けばこれだけ長時間全くコメント欄の皆を相手にしなかったことはなかった。

 

しかも対象が仕掛けてくるとしたら人目の少ない夜だろうということで、俺達が監視する時間夕方から早朝にかけてなんだよね。──配信のピークタイムである。それでもまぁ深夜──早朝帯にしたかったんだけど、諸々の理由によりこちらの担当は夕方からになった。夜~深夜じゃないだけましだったかもしれないけど……時間的に帰ってくると夜遅くなっちゃうからどうしても軽い雑談だけの配信になっちゃうんだよなぁ。日常生活配信だから常に面白い事をやれるわけじゃないけど、このスケジュールだと夜は殆ど大した事ができないから申し訳ないことこの上なくて、ちょっと心労になっている節がある。

 

「この仕事終わったらがっつりなんかやるからさー。見捨てないでね?」

『見捨てるなんてとんでもない!』

『期待して待ってる』

『無理しないでねー』

 

多分ご新規さんだと思うけど一部不満を示すような発言も見られる。そりゃそうだろう、全く反応しめさなさいし映像も屋内だから目新しい物はない。いい点は美少女が映っているということだけだ。ご新規さんの不満は理解できる。

 

だけど大半はこんな感じのセリフだ。正直あったけぇと感じる。……まぁでもこれに甘えすぎてもよくない。

 

『とにかく、早く片付いて欲しいよねこの依頼』

「だなー。早く犯人に動いて欲しいよ」

 

今の所犯人が姿を現す気配は全くない。仕事が続く分だけこっちも報酬が入ってくるので悪くはないんだが、ずっとこの状況が続くのは前述の通り個人的には芳しくない。

 

『もしかしてさ、監視魔術、感知できてるんじゃない? 犯人』

「その可能性が高いかもな……」

 

俺達が監視を始めるまでは人の目がない時はほぼ確実に盗みに入った形跡があったのに、俺達が監視を始めてからは一切動きがない。現地に人の目がない場所があるにも関わらずだ。そう考えられてもおかしくない。

 

『でも、そうなるとお手上げじゃない? ずっとこうやって監視を続けていく事も無理だろうし』

 

それは勘弁して欲しいなぁ。それに依頼者側としてもずっと警備を増加させたままではいかないだろう。グリッドもこのままだったら多額の費用を払っても国の方に依頼をするかもと予想していた。

 

そうすると、俺達に払われる予定の成功報酬もなくなるからなぁ。出来れば俺達の手で解決したいんだけど。

 

「なんかいい手ないかねぇ?」

 

なんとはなしに、そう口にしたところ。コメント欄にこんなセリフが流れた。

 

『ふっふっふ。私にいい考えがある』

 

いやそれ駄目な奴じゃない?

 

 

 

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