廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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※いつにも増して捏造がすごいです。






吐いてはいけない腹の蛇

 

 侍たちを模した人形を捨てに行った後、私はいよいよ自室からほとんど出なくなった。

 何をしていても身が入らなくて、ぼんやりしてしまって、カイドウにも暫く稽古は休みにすると言われてしまう始末だ。

 

 キングがカイドウに伝えてくれておいたようで、護衛たちのことについては何も聞かれなかったのは幸いだろう。……多分、今護衛たちのことについて訊かれたら人目も憚らず泣いてしまうし。

 

 ──皆、元気にしてるかなぁ。

 

 実は時渡りの前におでんの体を後遺症ごと全回復させておいたのだが、未来で暴れてはいないだろうか。

 ……私からすれば未来のことだし今考えたところで仕方がないのだが、どうしてもそういうことを思考の隅で考えてしまう。

 

 と、その時だった。

 

「ヤマト」

 

 私の部屋の外から聞こえてきた声はキングのものだ。恐らく今日も食事を運んできてくれたのだろうと予想をたてて、私は「どうぞ」と返事をする。

 しかし中に入ってきたキングは食事などは持ってきていない様子で。

 

「……? えっと、どうしたの?」

「カイドウさんが呼んでる」

 

 なるほど、カイドウに頼まれて呼びに来てくれたらしい。

 すぐに行く、と伝えて立ち上がる私をじっと見つめていたキングに疑問符を浮かべた所で、キングが口を開いた。

 

「……もう二週間だぞ。あまりカイドウさんを心配させてやるな」

 

 二週間? なんて首を傾げそうになったが、そういえば部屋からほぼ出なくなってもうそんなに経ったのか。

 

「カイドウさんだけじゃない。クイーンのクズも、お前がよく食事を受け取りに行っていたコックも、……他のやつらも、お前のことを心配してる」

「…………うん」

 

 重々しいが決して冷たくはない声でそんなことを言われて、私は静かに頷いて微笑んだ。

 

「ごめんなさい、早く元気になるね」

「馬鹿野郎」

「あでっ」

 

 なんで急にデコピンを……!? 

 意味が分からなくておでこを押さえながら目を白黒させていると、キングはため息をついた。

 

「無理をしろとは言ってねェ。ただ、ずっと部屋に篭っていても気が滅入るだけだって話だ」

「え、あ、」

「せめて届けたメシは残さず食え。毎食届けた半分も食わずにこんな生活を続けていたら体を壊すぞ」

「で、でも、」

「言い訳を聞く気はない。元々量を減らした状態の物を届けているのにそれの半分も食わず運動もせず……病気にでもなったらどうする」

「あ、えと、……はい、ごめんなさい……?」

「よし。さっさとカイドウさんの所に行くぞ」

 

 そう言って私を先導するキングの後ろを歩きながら、捲し立てるように言われた言葉の数々をゆっくりと脳内で咀嚼して、漸く気が付いた。

 

「もしかして、キングさんも心配してくれてたの?」

「……赤ン坊の頃から成長を見続けてる相手の心配をしないほど、おれは薄情じゃねェ」

 

 不貞腐れたような返事を聞いた私は久し振りに、少しだけ笑った。

 

 

 □■□

 

 

「おぉヤマト! 来たか!」

 

 部屋に着くと、数日ぶりに会うカイドウが嬉しそうな表情でそう言った。

 

「……あー……まぁその、何だ。ここ最近は、調子が悪そうだったろ」

 

 やはり心配させてしまっていたのだろう。珍しくも言葉に気を付けながらそう言ったカイドウは、背後から何かを取り出して言葉を続けた。

 

「気分転換にコイツでも一緒にどうかと思ってな」

 

 コイツとは、思いながらそちらを見ると、カイドウが取り出したのは分厚めの本だった。

 

 ……か、カイドウが、本……!!? 

 

「お前は昔から本が好きだったからなァ」

 

 似合わな! と思いながら困惑しているところにそう付け足されて、あぁなるほどと納得した。

 

 確かに、まだ護衛たちがいない時。文字が読めてはおかしい頃は、よくカイドウに本の読み聞かせをねだっていたっけ。

 そろそろ文字を読めてもおかしく思われないかなと思ってからも暇潰しとしてよく本を読んでいたし。

 

「ありがとう」

 

 笑顔でそう返事をしていつも通りカイドウの膝に座り、さて何の本だろうかとカイドウが見せてきた本の表紙に目を向けた先に書かれたタイトルに私はぽかんと目を見開いた。

 

『世界の神様図鑑 〜伝承から逸話まで〜』

 

 ……何故このチョイス……? 

 

「えっと、これは……」

「おれが見つけて買ってきたんだぜ? 

 おれもお前も口にしたのは神の名を冠する悪魔の実だ、何か新しいことが知れるかもしれねェと思ってな」

 

 なるほど、どうせ二人で読むなら自分も興味があるものにしようってことか。

 でも……カイドウ……書店…………似合わないなぁ。……絶対自分では本屋に興味ないのに、買ってきてくれたんだろうなぁ。

 

 ……あぁ、もう。

 思わず口に出しそうになった言葉を飲み込んで、私は努めていつも通りに微笑んだ。

 

「でもパパ、流石に大口真神は載ってないんじゃないかな」

「載ってるぞ」

「載ってるの!?」

 

 確認して買ってきた、と当たり前のように言うカイドウは、そのまま覚えているらしいページ数をパッと開いて音読し始めた。

 

 ……そういえば大口真神の情報なんてワンピースに出てきた内容と浅く調べた情報くらいしか知らないなと思いながら聞いていると、どうやら大口真神は厄除けや火難除け、盗難除けの力が強いそうだ。

 

 原作のヤマトが使っていた氷系の技はもしかして火難除けから来ているのかな〜なんてぼんやり考えていると、直後父親の口からとんでもない続きが飛び出した。

 

「『大口真神はまだ己が白いワノオオカミだった頃、霧により道に迷う旅人に出会った。旅人を憐れに思いよく利く鼻で道を案内してやると、実は神であった旅人がその礼にと三つの神器の一つである鏡と大口真神という名を狼に与えた』」

 

 ん?? 

 大口真神について詳しくはないけど、私の知ってる大口真神と違うような……そんなことないか。もう少し聞いてみよう。

 

「『神器と名を与えたことで大口真神を神として()らせた旅人はそのまま大口真神と別れ旅を続けようとしたが、己と行動を共にしようとする大口真神に絆され二柱(ふたり)で旅を続けることにした。

 二柱(ふたり)は旅をしながら国中の厄災を祓って回ったが、ある時に邪悪な大蛇の(あやかし)相見(あいまみ)えることとなる。

 八つの首を持つ大蛇に苦戦する二柱(ふたり)だったが、途中で旅人が大口真神を庇い負傷してしまう。しかし旅人が大口真神に己の力の全てを差し出したことにより、最後には大口真神が大蛇の首を噛みちぎり大蛇を討伐。名実ともに、ワノ国の守り神として認められるようになったのだった。

 火難を除けてくれることからも、一部地域では大口真神が氷の神として扱われることもある。

 また一説には──』」

 

 待って絶対違う。この話色んな別の人と混ざってない? というか旅人は最後どうなったの? 

 ……この本出版した人、よく怒られなかったなぁ。

 

 ……あ、……いや。

 もしかして、ワンピース世界で伝わっている話としては本当にこれで正しいとか……? 

 

 冷静に考えてみれば前世で気になってほんの少し調べた時、確か大口真神が日本を代表する守り神だとされた記述は無かった。

 前世の世界に『ニカ』という名の太陽神がいなかったように、作中の『大口真神』と現実の『大口真神』が大きく乖離していた可能性もある……ってことになるのか。……とすると……。

 

「──ってことらしい」

「全然知らなかった、ありがとう! ……次はパパの方のページが見たいな!」

「ウォロロロロロ、仕方のねェやつだ!」

 

 青龍についての説明も何か違うかもしれない。

 そう考えながら急かすようにに青龍のページの読み聞かせをおねだりしてみる、が。

 

「『天を司る四神の内の一柱。東方を守護し、春を司ると言われている。悪運、厄災から人々を守るだけでなく、運気の上昇や人運・金運の好転、勝利や成功のご利益があるともされている。

 神話において青龍は──』」

 

 つらつらと読み上げられる内容を大人しく聞くが、どれだけ聞いても大口真神のようにあからさまにおかしな部分は出てこない。

 青龍についても詳しいわけではないので、多少差異はあるのかもしれないが……それにしたって大口真神に関する記述が異常だ。

 

 ぐるぐると頭の中で悩んでいると、読み終わったらしいカイドウが「どうだ、面白かったか?」と言いながら私の顔を覗き込む。

 

 あぁ、いけない。

 私は混乱を呑み込んで、またすぐさま笑顔を作った。

 

「うん! 勉強になったし、これでもっとパパの助けになれるね!」

 

 いつもならばその言葉に嬉しそうにする筈のカイドウは、しかしひどく不愉快そうに眉根を寄せる。

 

 ……あれ? 

 カイドウのこんな顔を見たことなどほとんど無かった私はもしや何かやらかしたのかと不安に駆られたが、直後カイドウが私の名を呼んだ。

 

「ヤマト」

「どうしたの?」

 

 こてん、と首を傾げる私に、珍しくも真剣な声色のカイドウは続ける。

 

「──助けになんざ、ならなくていい」

「……え?」

「お前はこれからも、どう足掻こうとカイドウの娘って血筋からは……鬼の子であることからは、逃げられねェ。

 友情は上っ面、みんながお前を恐れる。人間とは仲良くなれねェだろう。そういう“運命”だ。

 ……だからおれが必ず、死ぬまでお前を守り抜く。

 おれの助けになんざならなくたって構わねェ。……ただお前が傷付かずにここにいてくれりゃァ、おれは満足だ」

 

 そう言って、カイドウは私の頭を撫でた。

 ……それほどまでに私を愛し、信用してくれているのだ。

 私に対しては優しい父親に抱きついて、「えへへ、パパ大好き」と心から、しかし静かに告げる。

 …………運命、か。

 

 ぐるぐる、ぞわぞわと。カイドウに隠していることの全てが蛇のように胃の中を這い回り、同時に胃の下の方に溜まったような重さを感じさせながら(うごめ)いた。

 

 

 

 ──あはは、吐きそう。

 

 

 

 

 

 

いっそ、全部吐き出してしまえれば良かったのに。

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
  • 夜(19時〜23時)
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