廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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※名前の分からないキャラの名前を捏造しています。




覚悟と祈り、そして

 

 

 ドフラミンゴが、この島に来る。

 

 大将センゴクの指示によりスワロー島に配備された海軍たちは、張り詰めた空気の中警戒を続けていた。

 情報の出所は全くもって不明だが、センゴクは不確かな情報を精査もせず動く男ではない。あの男が命じたからには、何か確かな情報源があるのだ。

 

 つるがそう考えながらもスワロー島の周囲に目を光らせていると、不意に刺すような気配を感じ取った。

 ドフラミンゴ……いや、違う。牙を剥き出しにした野生動物のような荒々しい気配はさながら威嚇のようで、自分たちに見つかりたくないだろうドフラミンゴがそんなことをするとは思えない。

 

 ……何より。

 

「──マズいね」

 

 これは、北の海にいる筈のないレベルの実力の持ち主でなければ発することの出来ない重さのプレッシャーだ。

 ……正直なところ、自分でも勝てるかどうか……。

 

「サルカ! 二時から三時の方角に船は見えるかい!」

 

 見聞色の覇気を頼りにサルカ──見張り台から望遠鏡で周囲を監視している海兵にそう問いかけると、彼女は指示した方向を暫くじっと見つめて、それから驚いたように声をあげた。

 

「……わっ?! 見えます!! 

 大分遠いですが、大型の海賊船らしき船が近づいてきています!」

 

 どうしてお分かりになったんですか!? と驚いたように訊いてくるサルカはまだ見聞色を使えない。気が付かなかったのも無理はないだろう。

 

「海賊旗は!」

「はっ、はい! 海賊旗は、──ッ!?」

 

 カシャン!! 

 

 聞こえた音は、恐らくサルカが望遠鏡を落とした音だ。

 

「ッお、おつる中将!!」

 

 大きな声で慌てたようにそう叫んだサルカは、今にも乱れそうな呼吸を一度整えるように言葉を止めて、しかしそれも大して意味を為さなかったらしい。

 震えた声で、彼女は告げる。

 

「あの船は、百獣海賊団の船です!!」

「なんだって……!!?」

 

 報告されたまさかの名を、つるは脳内で最悪の可能性と結びつけた。結びつけてしまった。

 

「……サルカ。百獣海賊団の航路がどの方角に向かっているか分かるかい」

 

 そう大きくはない代わりに重くなった声は、確かにサルカの耳に届いたらしい。

 

「は、はい!」

 

 落とした望遠鏡を拾い上げ数秒。

 船がどちらに進んでいるのか注意深く確認したサルカが告げた「恐らく、北西かと……」という声はどこか安心したような声だったが、つるの血の気は引くばかりだ。

 

「オカメ、ルーベック島からミニオン島までが問題なく収まってる程度に縮尺の小さい海図を持ってきておくれ」

「それならちょうどこちらに!」

「ありがとう」

 

 部下であるオカメに手渡された海図は確かに丁度良い縮尺の海図だった。

 あの望遠鏡で見て遠いと表現される位置にいるのならば……と大体の向こうの現在地だと思われる場所に印をつけ、そのまま北西に直線を伸ばして……今度こそつるは絶句した。

 

 直線の先にあったのはルーベック島。

 数日後、オペオペの実の取引が行われる予定の場所だ。

 

 …………つまり、カイドウの目的は。

 

「オカメ、急いで本部に連絡をおし。

 ……カイドウは恐らく、オペオペの実を狙っているとね」

 

 もしカイドウが噂に聞く『不老手術』を受けてしまえば、世界は間違いなく大海賊時代の幕開けかそれ以上の混乱に包まれることになる。

 それをここで確実に防ぐには複数人の中将──いや、大将クラスの実力者の応援が不可欠だ。

 

 ……その到着までは、何としてでも自分が。

 

 つるは己の背を冷や汗が伝っていくのを感じながら、ギュッと拳を握り締めた。

 

「援軍を急いどくれよ、センゴク……!」

 

 残念ながら、政府からの戦闘許可を待つ時間はありそうにない。

 

 

 

 □■□

 

 

 

 来るなら来いと殺気マシマシ戦る気満々のカイドウとそこに撃ち込まれた海軍の砲弾。

 

 ……どうしてこうなった。

 

 いやどうしてかは分かりきっている。

 ほぼ間違いなく、カイドウがオペオペの実を狙っているのだと勘違いされているのである。そりゃあ取引が行われるルーベック島に向かっているのだ、このタイミングでそれを見られれば勘違いされても仕方がないだろうし、元よりそう勘違いさせることで戦いを誘発するつもりではあったが……。

 

 勃発する海戦に私は頭を抱えた。

 

 可哀想なヤマト……ひとえに自分で立てた作戦がガバガバだったせいだが……。

 

 ……落ち着こう、カイドウのセリフで雑コラしている場合ではない。思考を回さなければ。

 計算外の事が起きた時こそ、冷静であることが大切なのだから。

 

 要は今から軌道修正ができればまだ当初の計画通りに事を進められるわけで。

 完全に新しい計画を練ることもできなくはないが、急拵えになればなるほど穴は出来る。ならばそれよりはアクシデントへの対応しやすい分、元々の計画に沿って進めた方がまだマシというものだ。

 

 ではどうやって軌道修正を図るかだが……。

 

 まず現状を整理しよう。

 

 遭遇地点とタイミングこそ全くの予想外だったものの、頭の中が余程のお花畑でもない限り、オペオペの実の取引を数日後に控えての四皇の出現を偶然だと思う海兵などいない。

 海軍側に四皇と戦わなければならない理由を与えることが出来た以上『カイドウと海軍をぶつける』という点においては当初の予定通りなわけで、今回のミスで発生した問題は『いつ、どうやってカイドウにバレないようにこの場から離脱するか』ということだけだ。

 

 それが大問題なのだと言われれば返す言葉もないが、この点さえどうにか出来れば──! 

 とそこまで考えて、ふと、海軍からの攻撃に対応する為に(・・・・・・・・・・・・・・)進路を変更してスワロー島に向かうカイドウに視線を向ける。

 

 ────あ、そうか。

 

 そのカイドウの様子を見て、私はこの場を切り抜ける方法を思いついた。

 

 

 そもそも、四皇を相手に中将の編成が多いわけでもない軍艦たった二隻では力不足なのは明白だ。

 その上恐らくあの中で一番の実力者はつる。

 あくまで推測の域を出ないが、『海賊を洗濯し洗濯バサミで留めて干す』という描写を見るに、つるの戦闘スタイルは近接がメインだろう。

 対してカイドウは近距離は勿論、中距離だろうと遠距離だろうと問題なく戦える上、ウォシュウォシュの実の『ペラペラにして干す』だとか『悪の心を洗う』だとかいう力も覇気で弾ける可能性が高い。

 よって相性は勿論、現在の位置関係も最悪だ。

 

 だというのに、カイドウはひどくやりにくそうにしている。

 

 それは恐らく私の気の所為ではないし、その理由についても大方予想がついた。

 

 まず一つ目は、私がここにいること。

 何故かはよく分からないが、カイドウは私を連れて外国に行く時は私の前で殺しを行わないようにしているようで。殺せない……つまり思い切り攻撃が出来ないこの状況では、どうしたってやりにくいだろう。

 

 そして二つ目は、軍艦の停泊地がスワロー島であること。

 そもそも今回ルーベック島に向かっていたのは「ツバメの形をした島が見てみたい」という私のおねだりが理由である。使う技次第でそんな景観など容易に破壊出来てしまうことはカイドウとて理解している筈だ。

 

 これらの予想が間違っている可能性も当然ある。

 しかしもし全くのお門違いだったなら、カイドウがはじめ海軍を無視してそのままルーベック島に突っ切ろうとしたことへの説明がつかない。

 本来であれば、相手に気付いた瞬間に先手を打って龍化し熱息(ボロブレス)を放てば流石のつるたちも対処できなかった筈なのだ。

 それをわざわざ威嚇するように殺気を放ち、相手が攻撃してきたからと反撃し、……何ともまどろっこしい、カイドウらしくないやり方に他ならない。

 

 長々とした説明が何を意味するかというと、つまり、私がこの場を離れるのがカイドウからしても好都合である以上、あえてバレないようにミニオン島に行く必要は無いわけだ。

 

 私から「足手まといにならないように他の島に避難するね」とでも言って、それが承諾されれば全て解決する。

 しかしこれまで散々見てきた親バカ具合から言って、恐らくここでそんな主旨の話をしたところでカイドウは聞く耳を持たないだろう。

 

 が、『カイドウと海軍をぶつける』という部分が成功している以上、時間さえかければ必ず海軍側に援軍が来る。援軍次第では戦闘は激化し、カイドウも戦いにくさが増してくる。

 

 私が離脱するチャンスはそこだ。

 

 ……しかし、その『援軍』もまた問題だろう。

 来るのが遅ければロシナンテは死ぬ。かと言って中途半端な実力の援軍が来たところで何の意味もない。

 

 半分賭けにはなるが、ここまで来てしまってはもう仕方がない。

 私に出来ることは出来る限りカイドウの側に居て時間を稼ぐことだけだ。

 

 深呼吸をして空を見る。

 ロシナンテがいつ死ぬかは分からないが、原作での時間帯が夜だったことは確かである。

 

 

 太陽が沈むまで、残りおよそ一時間。

 

 

 私は、太陽を睨みつけながら祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 □■□

 

 

 

 その頃海軍本部では、二人の男が沈痛な面持ちで話し合っていた。

 

「まさか、あのカイドウが取引の情報を嗅ぎつけてくるとはな……」

 

 大将であるセンゴクからの報告に頭を抱えたのは元帥であるコングだ。

 

 元より北の海に四皇クラスの海賊の相手を出来るような海兵など配備しているわけもなく。

 大体が支部の少将クラス、良くて本部大佐クラスしか居ない中で「今すぐにスワロー島へ救援に向かえ」なんて命令を下すのは、実質部下に死ねと言っているようなものだ。

 かと言って凪の帯を挟んだ新世界の支部の面々でもスワロー島への到着は二日以上かかる。

 

 しかし、このままではスワロー島の海兵たちの命が……! 

 

 どうにか策を講じなければと思考を巡らせていると、不意にセンゴクが口を開いた。

 

「この任務は元々私の管轄です。私がスワロー島へ向かいます」

「バカを言うな。ここからスワロー島までどれだけ早くても二週間はかかるんだぞ」

「しかし早い段階でスワロー島へ向かうことの出来る海兵たちや新世界の支部の海兵たちに一斉にスワロー島へ向かわせれば、どうにか時間稼ぎは出来るでしょう」

 

 こちらを見つめながらそう告げるセンゴクが冷静ではないことに、コングはすぐに気が付いた。

 

「お前、自分が今何を言っているのか分かってるか……! その“時間稼ぎ”で、どれだけの犠牲が出ると思ってる!」

「ですが相手は四皇、オペオペの実が奪われればそれ以上の犠牲者が出ることになります!!」

「黙って見ていろとは言っとらんだろうこの愚か者が!!」

 

 コングとてセンゴクの焦りは痛い程に理解できる。

 カイドウがオペオペの実を手に入れ、あまつさえ不老手術を受けたら世界がどうなってしまうかなど考えたくもない。その上現在最前線で戦っているのはセンゴクの同期のつるであり、並行してドフラミンゴのこともあり……。

 

 だがだからこそ、今この場で彼よりは冷静な自分が、上司としてセンゴクを諌めてやらねばならない。

 

「他にやり方があるだろう!!」

「現状その『他のやり方』が無いから私が向かうと言っているのでしょうッ!!」

「策が思い付かんからと無意味な犠牲を増やす奴があるか!!」

「ッしかし──」

 

 ────と、その時。

 コングの執務机の上に積まれていた書類が一枚、強者たちの重圧に耐えかねてセンゴクの足元に落ちた。

 突然の事象でほんの僅かに頭の冷えたセンゴクは、しかし言い争いにより荒くなった呼吸を落ち着ける余裕はないままに拾い上げた紙を見て、思わず目を見開いた。

 

 そこに書いてあったのは、とある部隊が任務を完了させたため現在海軍本部へ帰還しているという主旨の報告で。

 

「………………申し訳ない。私が、冷静さを欠いていました」

 

 先程の態度から打って変わって落ち着いたセンゴクは、しかし諦めた様子ではない。

 それどころか、今は先程の焦りに満ちた目とは違うまっすぐな瞳でこちらを見ている。

 

「何か思いついたらしいな」

「はい。カイドウを相手に勝てるとは言いませんが……この男なら新世界の支部からの応援が駆けつけるまでの間、カイドウを足止め出来る筈です」

 

 そう言いながら見せられた報告書に、コングも先程のセンゴクと同じように目を見開いた。

 

「──なるほど……! 

 確かに、その男であれば……!!」

 

 

 

 

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
  • 夜(19時〜23時)
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