「いでで……」
救急箱から包帯を取り出して、ボロ雑巾のようになっているロシナンテの身体にぐるぐると巻きつける。
この怪我はミニオン島で負ったものでも、ましてや己のドジで負ったものでもない。
「主人に手当てなんてさせちまってすまねェ」
「いや何か……寧ろこちらこそごめん」
……まさか、こんなことになるとは。
□■□
話はミニオン島にて、巻き込まれた親子を装い海兵を騙して軍艦に乗り込んだ時まで遡る。
「大丈夫かい? 寒かったら遠慮せず言ってくれ。
あぁ、もし私が怖いようであれば女性の海兵に対応させることもできるが……」
「……ダ、ダイジョウブ…………」
確かに、あの状況下で怪我した動物を治療しようとする人間なんて相当のお人好しだろうと思って罠を張った。張ったけども、まさかここまでの善人が釣れるとは思わないだろう。海軍腐敗気味とか思っててごめん。
物凄く申し訳無い気持ちにはなるが、軍艦の乗っ取りが元々の計画だったのだからここまで来て引き下がるわけには行かない。
……でもこのせいでこの人が処罰されたりとかしたら……い、いや、私は悪人なんだから!! そんなこと知ったこっちゃないから!!! …………でももし処罰されたらごめん……。
善人でなくとも恩を仇で返すことへの罪悪感くらいは持っているのだ。心を痛めるくらい許してほしい。
甲板の上まで連れてこられた私は内心で謝罪しながら彼を気絶させ、次に見聞色で海兵たち全員の大体の強さを把握した上で、一番強い一人を残し全員を覇王色の覇気で気絶させた。
最近カイドウとの稽古をしていない関係で覇王色の覇気を使うのも久々だったので少し不安だったが、上手くいったようで良かった。
今日は予想外やら失敗やらが続いていたこともあり少しウキウキで姿を隠し、連絡役をさせた後で海に沈めてもこちらの心が痛むことのないようなクズだと良いななんて考えながら残した海兵の所へ行って、しかし私はそこで一転して頭を抱えることになった。
「な、なんだお前は……!」
…………とてもドレーク……物凄くドレーク……。
保護扱いの人間が複数いたら同じ軍艦にまとめられるよね、その方が守りやすいもんねそうだよね。だけどドレークがこの軍艦にいる人間で一番強いとは思ってなかったよ。
……でもよくよく思い返してみれば、バレルズに「誰よりも腕っぷしはある癖に」とか言われてた気もするな……。
兎にも角にも今はこの場を乗り切らなければ。
無理矢理思考を切り替え先程書いておいたメモを差し出すと、一瞬ビクついたドレークは恐る恐るといった様子でそれを受け取った。
「『こちらが指示したら、海軍とカイドウにこの船を攻撃しないように伝えろ』……っカイドウ!?」
うんうん、そりゃ驚くよね。まさかあのカイドウがこんな辺境の地にいると思わないもんね、ごめん。
今日何度目かになる心の中での謝罪をしつつその場で新しくメモを書き、ドレークに手渡す。
「……『ついてこい』?」
頷こうとして頷いても見えないのだったとハッとした私は、そのままドレークに背を向けて歩き出した。
□■□
逃げられても困るからとドレークを連れ回した状態で色々と終わらせ無事ミニオン島から出港し、海軍経由でカイドウへの連絡も済んで。
もう後は百獣海賊団の船に戻るだけとなった今、私は
……ドレーク、優秀……ッ!!
出港準備とかやった事なくて不安が大きかったから任せてみたらささっと終わらせてくれるし、海兵の拘束手伝わせても手早いし……助かる……。
変な細工をされても困るからと見張ってはいたが、優秀すぎて途中途中「ほへ〜……」とか間抜けな声を漏らしてしまいそうで危なかった。
こちらの情報を与えないようにと意識していなかったら給金でも渡してしまっていたかもしれない。
これが実の親から何年もこき使われながら培われたものだと考えると色々思うところもあるが、これなら海賊の子供であることを加味しても随分早く昇進できるだろう。
流石にメッセンジャーをさせたことで待遇が悪くなったりはしないだろうし。……しないよね?
……とにかく、後はこのまま無事百獣海賊団の船まで到着して、ついでにドレーク達のことも海軍に回収してもらえば万事解決だ。
長かった……。
その場で大の字になって寝転びたい衝動を抑えながらまた遠い目になっていると、百獣海賊団の船の方から何かが飛んでくるのが見えた。
わあ、なんかすっごく見覚えのあるでっかい黒い鳥みたいなのが来る〜。
「ヤマト、無事か」
迷いなく私の方へ降り立ってそう告げたキングに、私は思った。
……滅茶苦茶普通に私の名前呼んだな……。
ドレークの存在に気付かないほど焦っていたのか、聞いた人間は消せばいいと思っているのか。
声を聞かせないようにだとか姿を見せないようにだとか神経を使って動いていたこれまでの行動をぶち壊すようなキングの発言に一瞬言葉を失ってしまったが、まぁ聞いているのはドレークだけだし私も開き直る事にした。
「私は大丈夫だよ、迎えに来てくれてありがとう。キングさん……は、大丈夫そうだけど……カイドウ、さんはどんな感じだった?」
「……あぁ、特に怪我は無さそうだった。あってもかすり傷程度だろう」
流石に“パパ”はマズいだろうと呼び方を変えた私に目を見開いたキングは、しかしすぐにその意図に気が付いたらしい。
他に動揺したような素振りも見せずキングが返してきた言葉に、ボルサリーノと戦ってかすり傷程度ってどういうことだと内心困惑しながらも安心したような声色で「そっか」と返す。
レーザーって人間なら確定で貫通するものだと思ってたんだけどなー……。
「じゃあそろそろ帰ろっか」
「あぁ、分かった。そいつを消したらすぐにな」
「待って?!」
やはりドレークに気付いてはいたが「後で消すから良いだろう」のノリで私と気軽に話していたらしい。流石はカイドウの右腕である。
……じゃなくて!!
「別にその人は消さなくて良いよ。たかだか保護されただけの人間一人が私の声について海軍に何か伝えた所で、声を変えてるだけだったり嘘の証言だったりっていう可能性もあるんだから、私の正体について予想はできたとしても確証には至れない。
どうせ海軍はそんな不確かな憶測では動かないし、そもそも動けないでしょ?」
「…………フン、命拾いしたな」
そう言ってドレークを睨むキングに、内心で首を傾げる。問答無用で殺すかもしれないとすら思っていたのだが……まぁカイドウも何故か最近私の前で殺しをしないようにしているようだし、恐らくそれに準じているとかだろう。
疲れた頭ではキングの行動の理由を真面目に考えることすら面倒で、私は半ば無理矢理自分を納得させ、甲板に放置していたロシナンテの方へと歩を進めた。
……見た感じ、ロシナンテはまだ目覚めそうにはない。運ばれている最中に起きて暴れられでもしたらと心配していたが、とりあえずそこは大丈夫そうだ。
「このコート……ファー? に隠れていくから、このお兄さんごと私のことを運んでもらってもいいかな」
「それは構わねェがお前、こいつはさっきの、……はァ……。カイドウさんからの許可は取れよ」
「えへへ、ありがとう!」
そう告げてロシナンテとファーの間に潜り込もうとして、しかし呆然とこちらを見ているドレークの事がやはり気にかかり彼の方を振り返る。
……先程の手腕や彼の実力ならば心配は不要だろうが、それにしたって彼の今後に不安要素を増やしてしまったことは間違いないのだ。海賊の子どもというだけでも肩身が狭い想いをすることもあるだろうに……。
「……巻き込んで、ごめんね」
自己満足でしかないと分かっていて抑えられなかった謝罪の言葉を彼に伝えて、私は今度こそ黒いファーに身を隠すのだった。
□■□
それから無事キングに船まで運んでもらった、のだが。
「ダメだ」
未だ眠っているロシナンテを背後に寝かせたまま、この男を護衛にしたいとカイドウに伝えた結果はこれである。
「そいつァ見たところ訳アリだろう。傘下にすんならそんなモンは気にしねェが……お前の護衛なら話は別だ。そいつのせいでお前が厄介事に巻き込まれでもしたらどうする」
「で、でもワノ国から出なければ……」
「何より、弱すぎだ。そいつじゃキング相手に五分も持たねぇぞ」
「う」
カイドウの言う通りだ。
確かに作中で『腕は立つ』と言われてはいたが、それはあくまでも北の海でそう言われる程度の実力。素の戦闘能力もグランドライン未満の上覇気も使えないなんて、間違いなく新世界では通用しないだろう。
それでも一般人より余程強いのだから構わないと思ったのだが……予想外にもカイドウは許可をくれそうにない。
「……どうしても、ダメ……?」
「ぐッッ、……分かっ………………ダメなモンはダメだ!!」
珍しくも強情なカイドウだが、こちらとてロシナンテ以外に護衛にできそうな候補がいないのだから折れるわけにはいかないわけで。
内心で舌を打ちこうなれば泣き落とすしかないかと考えかけた、その時。
「ならこういうのはどうだ」
言葉を発したのは、先程まで傍観を決め込んでいたキングだった。
「一ヶ月だけおれがあいつを全力で鍛え上げて、その間に見込みがあると判断できれば、そのまま鍛え続けてあいつをヤマトの護衛として採用する」
「キング、てめェ何を勝手に──」
「──ただし、おれが“全力で”鍛え上げるんだ。それであいつがくたばろうが、それはあいつの実力不足だったとして受け入れると約束すること」
「!」
それなら納得できるだろうという風にキングがカイドウを見遣ると、カイドウは「それなら構わねェ」と頷いた。
「ヤマト、お前は」
「…………私は構わないけど、その人がどうかは……」
「そうか。
お前がそう言うなら、そろそろそいつの狸寝入りも終いにさせよう」
「……気付いてたのか」
キングがロシナンテを睨みつけると、観念したようにロシナンテがゆっくりと上体を起こした。
……全く気付かなかった。いつから起きていたのだろうか。
「悪かったな、ドジって起きるタイミングを逃しちまってよ」
気まずそうに頬を掻くロシナンテを見るに、恐らくは私とカイドウが話している辺りで目が覚めたのだろう。
いや。いつ目覚めたかなんて今は大した問題ではないが……この状況は、マズい。
ここでもし万が一ロシナンテが条件を呑めないとでも言えば、二人はほぼ確実にロシナンテを消そうとする筈だ。
仮に傘下として生かされたとして、ロシナンテのことだ。ワノ国の惨状を見ればどこかで海軍に連絡を取ろうとするだろうが、それがバレればやはり消される。
だがあんな条件をロシナンテが呑むとは考えにくいし、どうにか一旦話を逸らしてロシナンテかカイドウたちのどちらかを説得するのが得策か。
しかしこの状況でどうやって自然に話を逸らせば……!
必死に頭を回すも何も話題を思いつかないまま、ロシナンテが更に口を開いた。
「それと、さっき言ってた条件についてだが──」
しまっ、
「おれもそれで構わねェ」
……え?
「まァ約束のこともあるが……何より、おれは多分お前に助けられたんだろ?
恩を返すのに実力が足りねェってんなら、その条件はむしろ願ってもない話だ」
「なら決まりだな。傷が癒えたら鍛え始めてやる、覚悟していろ」
……あの、え、えぇ?
もしかしなくてもロシナンテ、私が自分とローを助けたって信じてるの……?
いや間違いでは無いんだけど、この状況だったら普通なんかこう、実は全部仕組まれてたんじゃないかとか勘繰って約束を無かったことにしようとしてもおかしくないと思ってたのに。
ロシナンテの返答に呆気に取られる私をよそに話はトントン拍子で進んでいき、結局ロシナンテは本当にキングによる
□■□
スワロー島から鬼ヶ島に帰還した日の晩。
おれは、酒を持ってカイドウさんの部屋に来ていた。
「悪ィなキング、手間をかけさせる」
「気にしないでくれ。
ヤマトはもうあの男を気に入りかけてたみてェだし、手を汚すならあんたよりおれの方が良い」
「ウォロロロ、ヤマトはその程度の事でてめェを嫌うやつじゃねェさ」
「……そうだな、あいつはあんたに似て身内に甘い」
そう言いながら酒を呷ると、カイドウさんは少し表情を曇らせる。
「おれに似てってのは余計だが……甘ェからこそ、喪えば今度こそ耐えられねェだろう」
「……あァ」
……やはり、カイドウさんはそのことについて懸念していたらしい。
そもそもヤマトはたかが見ず知らずの忍の死程度を酷く気に病んでいた。恐らくその影響で前の護衛たちを捨てたのだろうことを考えれば、自分から新たな護衛を欲したのは精神が回復してきた証拠だとも言えるのだから、喜ばしいことですらある。
が、そうやって自分の意志で護衛たちを捨てた時ですらあれほど分かりやすく弱り果てていたのだ。もしも心を許した相手が目の前で、それも自身を守る為に命を落としでもしたら?
……きっともう、ヤマトは戻ってこられない。
そうなるくらいなら、情が深まる前におれの手であの男を消そう。
たとえそれがヤマトを傷つけることになろうと、ヤマトが完全に折れてしまうより余程良い。
「…………」
「? どうした、急に黙りこくりやがって」
「……いや、ヤマトが弱ってる時のあんたの消沈ぶりを思い出してた」
「……あいつがメシも碌に食わなかったんだ、仕方ねェだろうが」
「あァ。見てられない有様だったな、親子揃って」
「ウォロロロロ、耳が痛ェなァ!」
──あぁ、嫌われようが憎まれようが本望だ。
だっておれが泥を被るだけで、大切な人間を二人も守れるのだから。
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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