さて、時を少々遡り、キングがロシナンテに戦闘訓練を行っている頃。
ヤマトはというと、暇潰しに縫い物をしながらも、頭の中ではロシナンテ達のことを考えていた。
──キングがロシナンテに修行をつけると言い出したときは驚いたが、今のところは上手くいっているようで本当に良かった。
見込みがないと判断したら……なんて言うものだからはじめこそ心配したが、キングほど戦闘の師に向いた人間もそうはいないのだから、キングが指南役に名乗り出てくれたのは僥倖だったかもしれない。
キングは自分の主な戦闘スタイルとは関係のないものを含め大抵の武器はある程度使えるし、どんな戦い方もある程度知っている。その上パワータイプでもスピードタイプでもスタミナタイプでもあるというのだから……キングの相手ができるようになれば、大抵の敵は全く苦にならずに対処できるようになるだろう。
……いや本当に、訓練三日目くらいに「たまにうっかりで頭から地面に突き刺さるような男だが本当にアレが護衛でいいのか」と真顔で確認された時はどうなることかと思った。よく見込み無しの判断にならなかったよロシナンテ。
と、そこまで考えたその時。
「お嬢、入るぜ」
今では大分聞き慣れた声──現在の
「急に来ちまって悪いな、今大丈夫か?」
「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」
私がクイーンのラボに行くことは多いが、クイーンは私に頼まれた物を届けに来る時くらいしか私の部屋には来ない。
クイーンは意外とカイドウへ、そしてその娘である私へ礼儀を持って接してくるので、恐らくそういう謎の社会人的な良識が原因なのだろう。
だからこそ珍しいと思いつつも用件を訊くと、クイーンはいつも通りの笑顔で答えた。
「遊郭行こうぜ!!」
……。
…………。
………………あっ、そうか。多分聞き間違えたんだろうな、疲れてるのかも。
「ごめん、もう一回言ってもらってもいいかな」
「遊郭、行こうぜ!!」
何言ってんだこいつ。
さっきまで『謎の社会人的な良識が〜』とか色々考えてたの全部撤回したい。
良識ある社会人は絶対に上司の娘を遊郭に誘ったりしない。
いや、しかし。
クイーンにも何か考えがあるのかもしれないと考えた私は、突然クイーンがそんなことを言い出した理由を確認することにした。
「……えっと、どうして遊郭に……?」
「おれが行きたいからっすね」
「クイーンさん??」
もしかして誤って知能が反転する薬でも飲んでしまったのだろうか、なんて考えかけるほど私が動揺しているのに気づいたのだろう。クイーンはけらけらと笑った。
「ムハハハハ!流石にジョーダンっすよォ!
……半分くらいは」
「クイーンさん!?!?」
クイーンも命知らずではないので十中八九カイドウの許可は取ったのだろうが、よくもまぁそのノリでカイドウから許可が取れたなと驚いてしまう。ちょっと寛容すぎるよカイドウ。
「いやァ、お嬢が最近暇してるって聞いたんで、遊郭の女から芸事でも習ったら面白ェんじゃねェかと思って」
それ、遊郭じゃなくても良いんじゃ……。
なんて思いもしたが、口には出さなかった。
ロシナンテが鍛わるまでは外にも出られないし、この頃退屈していたのは事実だ。その上正直なところ芸事にも興味はあったので、下手なことを口にしてこの機会を逃すことは避けたかったのである。
「うん、それじゃあ行こうか」
「よっしゃ!」
あ、スマシ……は、いいか。
案内兼護衛、クイーンだし。
なんて割と軽いノリでやってきた遊郭の奥。
「久方ぶりですな、クイーン殿。
よくぞ参られました」
特徴的なリーゼントの男、傳ジロー──いや、今は狂死郎と呼ぶべきか──はひどく胡散臭い笑みで挨拶をすると、一瞬こちらに視線を向けて、またクイーンの方に視線を戻した。
「……して、そちらのご令嬢が
「あァ」
会話を聞く限り、予めクイーンが狂死郎に話をつけていたのだろうことは予想がつくが…………それにしてもまぁ、随分と巧妙に感情を隠すものだ。
先程私に向けた視線にも、今クイーンに向けている視線にも、敵意や殺意などという感情は微塵も感じられなかった。
……きっと、本当は殺したいほど憎いだろうに。
と、クイーンと共に今回私が芸事を習うにあたっての確認を行っていた狂死郎が不意に気になる発言をしたのを聞き取って、思考に潜っていた私の意識が一気に引き戻された。
「それと、芸事を習う席に
かむろ……?
「おれァ
発言を促すようにこちらを見るクイーンに、私は浮かんだままに疑問をぶつけた。
「クイーンさん、かむろって何……?」
「あー……簡単に言うと遊女見習いっすね。
遊女になる前の勉強期間中のガキのことを“禿”っつーんすよ」
「なるほど」
……んん……??
なんか違和感というか……狂死郎の性格的にカイドウに溺愛されてると分かってる筈の娘の前に、粗相をする可能性の消しきれない禿を同席させるとは思えないんだよね。
……十中八九、何か計画があるんだろうなぁ。
「それなら別にいいよ」
ま、変に断って警戒されるのは避けた方が良いか。
なんて考えは、連れて来られた禿を見て一瞬で吹き飛んだ。
「小紫と申します。
先日こちらに拾われたばかりでまだまだ未熟な身ではございますが、よろしくお願いいたします」
……警戒された方が断然マシだったかもしれない。
だってこれ絶対私から情報を引き出せればって可能性にかけて今から距離を縮めようとしてるやつだもん。
しかも私がオロチの関係者ならともかく、実際はより危険度の高いカイドウの関係者。狂死郎は日和を──おでんの娘をそんな危険な賭けに出すようなことは避けたがるだろうし……これは多分、お転婆姫の献身、言い方を変えればワガママの一端なのだろう。
というか、六メートル超えのクイーンにガン見されながら実の両親殺害ドラゴンの娘に対してこんな落ち着いて挨拶できるのすごいな。
……それだけ覚悟が決まってるってことなんだろうけど。
「…………私はヤマト。よろしくね」
「今回の稽古がお気に召すようであれば、ヤマト殿は今後度々芸事の稽古に御一緒なさる予定だそうだ」
「えっ」
「え?」
何それ知らんと言わんばかりの声を漏らしたのは、日和ではなく私だ。言うまでもないが。
狂死郎が『なんで本人が驚いてるんだ』みたいな感じでクエスチョンマーク浮かべてるのがまた気まずい。
「く、クイーンさん……??」
そんな話聞いてないんですけどという意図を込めてクイーンの方を見ると、「だってアイツの訓練もう暫くは続きそうじゃないっすか」とにこにこと返されてしまって。
「まぁ気が乗らなきゃ断りゃいいだけの話だからよ」
「……まぁ、そうか……」
このタイミングで知り合うことになるとは思ってなかったし、なんかイレギュラーが起こりそうで怖いなぁ……。
「では、折角ですから初回はお着物を召替えましょう!」
「へ」
□■□
そんなこんなで花魁っぽい服に着替えさせられて、クイーンに警護されながら稽古をさせられて、今は
日和が一緒に稽古することになる以上今後の稽古は断る一択だというのに、この稽古が意外と楽しくて困る。……鬼ヶ島でロシナンテを待ってる時間が退屈すぎるのが悪いよ……。
でも流石に、下手に日和と交流を深めるのは……うーん……。
なんて考えていたら、『バキッ!!』という破壊音と共に襖からロシナンテが生えた。
比喩表現ではなく、本当に上半身が襖からにょきっと生えたのだ。信じられないかもしれないが私もできれば信じたくない。幻覚?
仮に幻覚でなかったとしたら遊郭にいるのも含めて色々ツッコミどころしかないけど。いやロシナンテは現在進行系で襖にツッコんでいるわけだがそういうことではなく。
とか思いつつもどうにか一旦ロシナンテが無事か確認しようと声をかけると、ロシナンテは元気すぎる勢いで私の名を呼んだ──直後。
ロシナンテの生えている襖の隣の襖が、ボウリングの球に当たったピンみたいな勢いで吹き飛んだ。
「……………………あァ、なるほどな。
てめェに生かしておく価値がねェってのはよく理解した」
………………?
……。
………………。
…………………………なるほど。
つまりキングはロシナンテと遊びに来たんだ。うん、そうに違いない。
前世の世界でも男の人が上司とキャバクラ行ったりするって話聞いたことあったし、キングもそういう気分だったんだよきっと。
だってそうでもなきゃこれ、このキングの怒り具合は、まるで私が遊郭に来てることを知らなかった、みたいな。
「やべ、バレた」
クイーーーーーーーーン!!!?!!!?!?
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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