ロシナンテが忍になることが決まって早三ヶ月半。
珍しくもぱたぱたと慌てたようにおれの部屋に駆け込んできたヤマトは、楽しそうな表情でおれを呼んだ。
「パパ!」
「……相変わらず知ってほしくねェ情報ほど早く仕入れてくるな、お前は」
ヤマトが何を話しに来たかは大方予想がついている。
露骨に渋い顔をするおれを見ても笑みを崩さないヤマトに、おれは更に言葉を重ねた。
「ダメだぞ」
「……まだ何も言ってないよ」
言いつつも、察せられているのが分かっているのだろう。
ヤマトは目を泳がせながら小さな声で、むくれたようにそう言って。
「どうせこの間捕らえたアレを護衛として宛がおうってんだろ。ダメだ」
「ゔ。……お話しだけでもしてきちゃだめ?」
「ダメだ」
アレの人間性は明らかにヤマトが好む類いのものだ。
“お話し”させたが最後、ヤマトはアレを気に入って、説得させてほしいと駄々を捏ね始めるに決まっている。そしておれはヤマトの駄々に勝てた試しがない。
つまり駄々を捏ねられる前に考え直させる必要があるわけである。
「……あの三人のことがあったから今回も説得できると思ってるのかもしれねェが、あの時とは状況が全く違う。
おでんを処分したことも含めてな」
「!」
「今のお前にァ、あいつの説得は──」
「──できるよ」
と、今まで聞いたこともないほど冷たいヤマトの声に驚いて、思わず目を見開いた。
……ヤマトは、いつものにこにこ顔が嘘のような無表情でおれを見つめている。
見慣れた相手の見慣れない姿に動揺して黙り込んでいると、ヤマトは違和感を増長させるような平坦な声色で、言った。
「おでんさんがいなくても、一人でできる。……できるから、捨てたの」
「…………そうか。
……はァ、まあ仕方ねェ。そんなに気になるならいっぺん試して来い」
そう告げると、ヤマトはぽかんと目を見開いて「いいの?」なんて問うてくる。
馬鹿げた問いだ。
おれが最終的にお前の望みを叶えなかったことなんて、ただの一度も無いだろうに。
「間違っても檻の中に入ったり、アレを憐れんで食い物を与えたりするんじゃねェぞ」
「……うん。ありがとう、パパ」
──わがままを言ったことに対するものだろう罪悪感と、おれへのあたたかい感情の混じった笑顔。
おれは、ヤマトのこの笑顔に弱かった。
おれに対して罪悪感を向けてくる人間なんざいない。当然だ。
『鬼』を騙すのに罪悪感など不要なのだから。
だから罪悪感の混じったような笑顔に、その笑顔で告げられる「だいすき」に何と返すのが“正しい”のか、おれには分からないのだ。
……ヤマトとおでん達の間に何があったのか、おれは知らない。
それどころか、おでん達とヤマトが普段何を話していたかすら知らないのだ。何があったのかだけ詳しく知っている方がおかしな話だろう。
ヤマトは『
ヤマトを信用していないからではない。
あの侍たちが“悪口”と形容されるようなことを今更になってヤマトに告げるとは思えなかったからというのもあるが、それも一番の理由ではない。
ヤマトがそんな風に他者を即座に断ち切れる程淡白な人間でないことは、おれが──生まれた頃から見てきた
「なァ、ヤマト」
「? どうしたの?」
部屋から去っていこうとするヤマトの背中に声をかけると、ヤマトはくるりと振り返っておれを見上げる。
「……いや。怪我はするなよ」
「もー、大丈夫だよ。パパってば心配性なんだから」
そう笑って、今度こそヤマトは去っていって。
……忍を殺したあの時のことが、ヤマトの精神にデカい影響を及ぼしたのは分かっている。
恐らく侍たちを捨てるに至った理由の根底もそこにあるのだろうということも。
けれど、それだけだ。
……ヤマトとおでん達の間に本当は何があったか、気にならないわけではない。
おでん達とのことについてを気に病んでいるのは分かるが、それが『捨てた』ことに対してなのか、おれの知らないことについてなのか、今のヤマトが苦しんでいる理由が分からないのだ。
本当は問いただしたい。
知りたくないわけがない。
そうしたらあいつを慰めてやることも、その過去に一緒に怒ってやることもできる。
何も分からず何もできないことがどれだけもどかしいか。
──だがそれは、あくまでもおれの感情に過ぎない。
『“おれが”もどかしいからヤマトを問いただす』など、単なる自己満足だろう。
それにたとえあいつの話を聞いておれが何か結論を出したとしても、それは“おれの”結論。ヤマトの結論じゃないし、ヤマトの結論にしてしまうべきでもない。
何より、助けを求められているわけではないのだ。
あいつが抱えると決めたモノにおれや周囲が勝手に手を伸ばすのは、あいつの成長を、心を、踏みにじる行為にもなりかねない。
だからどれだけ気になっても、踏み込みすぎないようにということにだけは細心の注意を払っていた。
おれはヤマトではないし、ヤマトはおれではないし、
「……難しいもんだな、子育てってのは」
部屋で一人、ぽつりと呟く。
……キングの時は良かった。
おれもあいつも、最初から『普通』ではなかった。
だから特に気負うこともなく、知っていることをすれば良いだけで。
だが、ヤマトは違う。
『普通』だの『愛』だの『優しさ』だの『罪悪感』だの、おれの知らないことばかりをどこかで学んで、それをそのままおれに向けるのだ。
……だから親として、おれも──鬼も鬼なりに、『普通』にあいつのことを愛してやりたい……なんて。
自分が『普通』になれないこともあいつを『普通』にしてやれないこともおれが一番よく知っているのだから、これこそが一番の自己満足なのだろうけれど。それでも。
「鬼だろうが、親は親……か」
せめてあいつが幸せであればいいなんていう平凡な願いを、おれは今日も捨てられないでいる。
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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夜中(23時〜5時)
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早朝(5時〜7時)
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朝頃(7時〜12時)
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夕方(16時〜19時)
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夜(19時〜23時)