「こんにちは。
……えっと、私が誰かは知ってる?」
そう声をかけて来たのは、日和様とそう歳の変わらないであろう少女だった。
こんなところにいては危険が、などと考えかけるが、見覚えのある容姿や頭部の角からして、いつかおでん様の処刑を中断させた、カイドウの娘に違いないだろう。
「知ってはいるが、カイドウの娘にこのように話しかけられる心当たりはござらんな」
警戒心を隠すつもりもなくそう答えると、少女は檻の側まで寄ってきて、その顔に微笑みを浮かべたままで告げる。
「私の護衛になってほしくて、説得に来たの」
「何かと思えば……馬鹿にしてくれるな。拙者、飢えようと泥を啜ろうと、この心まで折られはせぬ」
「わぁ、侍らしくて立派だね。
……じゃあさ、私が貴方の大切なお姫様の居場所を知ってるって言ったら、どうする?」
その言葉に、拙者は思わず目を見開き立ち上がろうとした。が、繋がれたままではそれすらも叶わず、鎖がガシャンと大きな音をたてるに留まって。
「……姫は、既にカイドウの手に落ちたということか……」
事実を理解し、絶望の苦味を噛みしめるようにそう確かめると、少女はあっけらかんと笑った。
「あはは、違うよ。パパは何にも知らないもん」
「!?」
「でも、私はいつだってパパに教えられるよ。あの子がどこにいて、誰があの子を隠してて、他の赤鞘たちがトキの力でどこに行ったかまで、全部」
微笑みながら、少女は告げる。
絶望にも似た真実をにこやかに、まるで祭事の予定でも話すように。
「──ねぇ、河松さん。
私の護衛に、なってくれるよね?」
拙者に許されていたのは、それにただ頷くことのみであった。
□■□
「じゃあはい、これ着けて。
ワノ国から逃げようとしたり外そうとしたらすぐに爆発するようにできてるし私の好きなタイミングでも爆破できるから、下手なことは考えないでね」
檻から出した男へ、取り繕ったような綺麗すぎる微笑みでそう告げたヤマトは、続けていくつかの条件を口にする。
外に出るときは特注の天蓋を被ること。
自分が許可したもの以外を食べないこと。
必要のないことで自分に話しかけないこと。
眠るときは自分の部屋の横の護衛用の部屋で眠ること。
自分と自分の忍以外には基本必要以上に話しかけないこと。
護衛になった条件やそれに含まれる情報について、決して他言しないこと。
……おれを奴隷にする時には無かった条件ばかり。
中でも特に違和感を覚えたのは、あの男に渡した首輪だ。
天竜人を彷彿とさせるそれは見ていて気分の良いものじゃないが、それ以上に、少女らしくない。
そう長い付き合いというわけではないけれど、少なくともあの少女は権力や暴力にものを言わせて誰かを従わせることに悦を覚える
何より、ここ数ヶ月で多少鍛えられた見聞色の覇気で伝わってくる感情の色が、楽しいとか嬉しいとか、そういうものとは真逆だったから。
おれの覇気はまだ不完全で、そう便利なものでもない。
だから気配とある程度の感情を探ることしかできないが、ヤマトが抱いているのはなにかもっと、罪悪感や決意に近いような──
「ロシナンテさん、もういいよ」
──と、そこまで考えていたところで声をかけられた。
おれは言われるままに“防音壁”を解いてから、静かに口を開く。
「なぁヤマト。お前、なんで……いや。どういうつもりだ」
「……別に。今度は──今度こそは、間違わないようにしてるだけだよ」
……ヤマトの言う“間違い”が何のことなのか、おれには分からない。
けれど、おれにはその『間違わないためのやり方』を間違えてしまっているように思えてならなかった。
□■□
「小紫ちゃん、久しぶり。暫くお稽古に来られなくてごめんね」
「ううん、いいの! ヤマトちゃんは元気だった?」
「うん! ……あ、それとね、パパに護衛を貰ったから、これからはもっと沢山お稽古に来られるようになるよ」
「護衛?」
「うん。本当はあんまり顔を見せちゃ駄目なんだけど、友だちの小紫ちゃんには特別に見せてあげる!」
「──ッ!!」
「……」
驚愕に目を見開く日和の顔も、河松の苦々しい顔も、何も知らないような素振りで、更に口を開く。
「えへへ、なんとあの赤鞘九人男の一人なんだって! いいでしょ?」
「……うん。そう、だね」
「この首輪が条件によって爆発する爆弾になってて、反抗の心配もなくて安心なんだってパパが言ってた! すごいよね!」
「……ばくだん?」
「うん! 首輪を外そうとしたり、ワノ国から出ようとしたり、私に逆らったりすると、爆発するんだ!」
「爆発、……そっ、か……」
「……小紫ちゃん? どうかした?」
「えっ、……あ、いや、何でもないの。
ほら、赤鞘九人男って有名人でしょう? だからちょっと、びっくりして」
日和が僅かに引き攣った顔で、それでも十分すぎるほど上手に私に微笑みかけて、それを苦虫を噛み潰したような顔で河松が見ている。
小紫が日和であることを私が理解していると分かっている河松からすれば私の態度は白々しいことこの上ないだろうから、まぁその表情になるのも仕方がない。
──私は、どうだろう。
顔が引き攣ったりしてないかな。
不自然な笑顔になってないかな。
…………大丈夫。大丈夫だよ。
これでいい筈だから。
今度は間違えていない筈だから。
だから。
憎まれるに相応しく。
嫌われるに相応しく。
“カイドウの娘”に相応しく。
“悪人”に相応しく。
……ちゃんと上手に、笑えてたらいいな。
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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夜中(23時〜5時)
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早朝(5時〜7時)
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朝頃(7時〜12時)
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昼頃(12時〜16時)
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夕方(16時〜19時)
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夜(19時〜23時)