廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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臆病なひとりぼっち

 

 

 ヤマトの忍となってから約三年半。

 今でもキングによる訓練は続いているが、基礎戦闘能力だけでなく、見聞色と武装色の覇気も随分と強化できてきた。

 ……とはいえ、河松との組手で勝てたことは一度もないが。

 

 因みに何十回目かの敗戦の後「おれも刀使ってみるかな……」とボヤいたらキングに真顔で「自殺願望でもあるのか?」と言われた。

 ので、今は鞘付きのダガーと拳銃、それから小道具を色々と使いつつ戦闘を行っている。

 

 ヤマトはというと、十八になったものの、三年半前とあまり生活スタイルを変えていない。

 稽古ごとをして、カイドウと修行をして、たまに河松を連れて外出に行く。それだけだ。

 

 しかしそんなある日、ヤマトは珍しくもそれ以外の行動に出た。

 

「掃除ィ?」

 

 おれと河松を連れて、“地下”とやらの掃除に行くと言い出したのである。

 

「うん。いつもは私一人で週に一回くらいやってるんだけど、たまには人数揃えて大掃除もいいかなって」

「人数揃えてって……おれと河松含めても三人しかいねェけどな」

「……まあ、それでもいつもよりは多いし」

 

 そんな会話をしながら河松と共に連れて行かれたのは、カイドウの部屋を通った先、いくつかの通路や部屋を抜けた先にある座敷牢だった。

 

「こんな場所があったのか……」

 

 ひんやりとした空気ではあるものの湿気は少ないし埃っぽさもない座敷牢は、どうやら相当しっかりと換気や掃除を行っているらしい。

 ……何故、牢屋のためにそんなことを?

 

 疑問に思っていると、ヤマトがおれに箒を、河松に布巾を手渡してきて。

 

「いくつか部屋はあるけど、まずはこの大部屋から掃除してくれる? 畳と格子を綺麗にしてほしいんだ。

 格子に関しては私が外側から綺麗にするから、河松さんは中から作業してね」

 

 その指示に頷くと、おれと河松はヤマトに促されるままに座敷牢の中に入った。

 

 瞬間。

 

 

 ──かしゃん。

 

 

 金属の音に驚いて振り向いた先で、ヤマトが牢の鍵を閉めていた。

 

「……は?」

「ごめんね。用が済んだら出してあげるし、ちゃんとご飯は持ってくるから」

 

 それだけ言って去ろうとするヤマトを引き止めようと格子を掴むが、その瞬間体から力が抜けて。

 

 クソ、海楼石製か……!!

 

「待て、ッおい、ヤマト……!!」

 

 

 檻に入れと命じればよかった筈だ。少なくとも、わざわざこんな騙しうちのような真似をする必要はなかった。

 

 だというのにこんなことをするのはつまり、おれたちに何一つ悟らせたくなかったか……或いは、余程ヤマトに余裕が無かったか。

 

 どちらにせよ、嫌な予感がする。

 あの子どもがひとりぼっちで苦しむことになる選択をさせてしまったような、そんな予感が。

 

 

 ──なぁヤマト。

 絶望に似た決意なんざ抱えて、お前は一体、何を。

 

 

 □■□

 

 

「光月家の支持者らしいやつらが、ここのところ怪しい動きを見せてるそうだ。暫くは外出禁止になるが……構わねェな?」

 

 朝カイドウに会ったときそんなことを言われたから、ロシナンテと河松を地下に幽閉した。

 地下なんてもう何年も使っていなかったけれど、掃除だけはきちんとしておいてよかった。

 

 ……“アレ”は、ロシナンテと河松に知られるべきではないだろうから。

 

「お嬢」

「……あれ」

 

 屋上からぼんやりと鬼ヶ島の入口を眺める私に話しかけてきたジャックの方を、ゆっくりと見上げる。

 

「前線、出なくていいの?」

「前線は下っ端に任せておれたちは城内にいろと言われたが……それに加えて、ヤマトが見当たらねェから探してこいとカイドウさんに言われてな」

「あぁ、そっか。パパに何も言わずにここにいるから……」

 

 どうやら心配させてしまったらしい。

 この状況じゃ当たり前か。

 

「わざわざこんなところにいなくても、シェルターに避難していればいいだろう」

「ううん。……戦場、見ていたいから」

 

 喊声が聞こえる。

 怒号が聞こえる。

 悲鳴が聞こえる。

 

 動物系特有の発達した五感が、鍛えた見聞色が、攻め入ってきた侍たち(かれら)の苦しみをありありと伝えてくる。

 

 ……けれど、目を逸らすことは許されない。焼き付けなければならない。

 

 ──この光景は、私の罪そのものだ。

 

「死にそうな(ツラ)して、よく言う」

 

 ジャックは、私の方を見つめながら顔を顰めた。

 

「……そんな酷い?」

「ああ。前におれに魚人のことを色々と訊いてきた時よりよっぽど酷いな」

 

 ジャックと初めて話した時──つまり、河松の待遇の参考として色々と質問した時のことを言っているのだろうが……そうか、そんなに酷いのか。

 

「…………パパたちには内緒ね」

「……それは戦場を見てたことか? その(ツラ)のことか?」

「……、ぜんぶ」

 

 そう言って、私はまた戦場の方へと視線を戻す。

 

 

『カッパの河松ってヤツがいてな。あいつはたまごが好きで──』

『ずっと思ってたけど、なんで仲間の(はなし)するとき毎回好物……っていうか好きなおでんの具から入るの?』

『あ? 良いところを話したら止まらなくなるだろ。その前に話してるだけだ』

『……確かに、おでんさんの仲間のお侍さんたちって面白くて格好いいヒトたちばっかりだもんね』

『わはは、そりゃ当然だろ。おれの侍たちだぞ?』

『なんか説得力があって悔しい』

『なんでだよ!』

『まぁでも、私はお侍さんたちはみんな好きだよ。もちろんおでんさんの仲間のお侍さんたちの方が好きだけど』

『奇遇だな、おれもだ』

『あはは!』

 

 

 ……あぁ、嫌だなぁ。

 本当に嫌だ。

 

 こんな時におでんのことを思い出して。

 「こんな状況でも何もしない私を見てもまだ『一緒に罪を背負う』と言ってくれるのかな」とか考えて。

 

 一人でも大丈夫だと散々自分に言い聞かせておきながら、今も心のどこかでおでんに(すが)りたくなっている自分に嫌気が差す。

 

 

「……そう言うなら、バレねェ内に帰れよ」

「……うん、ありがと」

 

 そう礼を言って笑うと、ジャックは「ンな顔になるくらいなら笑わねェ方がマシだ」とため息をついて去っていった。

 

 

 「捨名知(スナッチ)」と叫びながら駆ける侍たちの声が、一つ一つ減っていく。消えていく。喪われていく。

 

 

 ……私にも、“名”を捨てる覚悟があれば。勇気があれば、何かを変えられたのかな。

 

 

 なんて、考えても仕方がないのだろうけれど。

 

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
  • 夜(19時〜23時)
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