廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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脛はもう一回蹴っておいた

 

 

 光月派の侍たちの討ち入りの後、結局私はロシナンテと河松を数ヶ月幽閉し続けた。

 

 というのも、討ち入ってきた侍たちにより鬼ヶ島のそこかしこが破壊され、百獣海賊団の負傷者も多数出た上、侍たちの討ち入りに関する話が暫くの間絶えなかったのである。

 

 お陰でロシナンテたちを閉じこめていた分私も外出が減って退屈で仕方がなかったが……唯一の救いは、ロシナンテも河松も私に何も訊いてこなかったことだ。

 まぁ私も答えるつもりは毛頭なかったし、二人もそれを察していたのだろう。

 

 そんなこんなで時は過ぎ、私も二十歳になり数ヶ月。

 

 

 

 ──今は、カイドウを伴わずに外国にいた。

 

 

 □■□

 

 

 私とロシナンテ、それから河松の三人で、三人しかいない割には豪華な小型の帆船に揺られながら海上を進む。

 目的は洋菓子のレシピ本──というのはもちろん建前で、(きた)る頂上戦争のとき、カイドウなしでも怪しまれず外出できるように今の内から適度に外出する習慣を作ろうと思ったのだ。

 

 因みに渋っていたカイドウはというと「パパ、お願い♡」の一言で撃沈した。

 二十歳になってから『パパ』ではなく『お父様』と呼ぶようになっていたのが思っていたより(こた)えていたのだろうが、あまりにもチョロさがすごくてびっくりしてしまった。それでいいのか四皇。

 

「にしても、“あれ”本当に便利だよなァ」

 

 と、ロシナンテ(マストに縛り付けられたすがた)が、船首から紐で繋がれたまま浮いている氷の人形(ひとがた)を見ながらそう告げる。

 

「うん。あれのお陰で記録指針(ログポース)とか永久指針(エターナルポース)無しでも航海できるんだから、悪魔の実様様だよね」

 

 私の技の一つである“闇無人(みちしるべ)”は、場所に限り割と少ない情報量で細かい位置が特定できるようになっている。

 今回のように本や新聞で紹介されている島に向かうにはもってこいの技だ。

 

 本なんかで学んだ航海術だけでどうにか航海できているのはこの技の力が八割と言っても過言ではない。

 

「……ところでヤマト、そろそろコレ外してくれねェか?」

「ドジで海に落ちたり船を燃やしたり荷を爆発させたりしない自信があるならいいよ」

 

 ロシナンテの訴えにそう返すと、ロシナンテは黙り込んでしまった。

 まぁ、自分のドジさ加減に自覚的なのは良いことか……。

 

 などと考えていたその時、不意に遠方から近づいてくる気配に気が付いた。

 

 ……まあまあ遠いし、絡まれなければいいか。

 

 とか思ってたのにめちゃくちゃこっちに向かってくる。えぇ……。

 

「ヤマト殿、如何(いかが)いたすか」

「ん、まぁ、食材分けてほしいとかかもだし……」

「あ〜、ヤマト。残念だが、そういうわけでもなさそうだ」

 

 うへぇ、という顔でロシナンテがそう告げる。ということは、割としっかりとこちらに悪意があるということか。

 

 私は仕方なくロシナンテの拘束を解くと、もう大分距離が近づいてきていた海賊船を見上げる。

 接触させられて壊されたりしても嫌だし、先手を打たせてもらうとしよう。

 

 

「二人とも。

 全員、海でいいからね」

 

 

 □■□

 

 

 少ない乗組員。小さい割にしっかりとしたつくりの船。

 あの様子なら、食料も金銭もそれなり以上にあるだろう。

 

 つまり、いいカモだと思ったのだ。

 

 だから部下たちに命じてあの船へと近づいたのに、あと少しで乗り込めるという距離になった直後に深い霧が立ち込めて。

 

 甲板の数歩先すら視認できない霧に船員たちの動揺の声が聞こえるが、その船員たちすら霧で姿が見えないこの状況では下手に動くのも危険だろう。

 

 新世界特有の異常気象だろうが、折角いいカモが現れたところで──と舌打ちをした瞬間、反応する間もなく首筋にひやりとした何かが柔く押し当てられた。

 

「動かないで」

 

 聞こえたのは、まだ幼さの残る少女のような声だ。

 しかしどこか不似合いな迫力のあるそれにつうと冷や汗が垂れるのを感じながら、おれは一旦言われた通りにする。

 

「別に敵対したいわけじゃないよ。だからこのままどこかに去ってくれるなら見逃すけど……どうする?」

 

 内容からして、恐らくこの声はおれたちが狙っていた船にいた女のものだろう。

 

 ……いくら霧が深いとはいえ視界が悪いのはお互い同じだろうし、人数差は歴然。この脅しもどうせハッタリだ。

 

 何より。

 

「ナメられたまま引き下がれるかッ!」

 

 首筋に押し当てられたものから離れるように素早く振り向きながら腰に差された剣を振り抜く。が、そこにはもう誰もいなかった。

 

「そっか、残念」

 

 どこからか聞こえた声に歯を食いしばりながら剣を構えるものの、こうも霧が深いままでは防戦一方になってしまう。

 攻撃前の音でどうにか判断するしか……とそこまで考えて、ふと強烈な違和感に気が付いた。

 

 ……音が、異様なまでに少ないのである。

 

 敵の靴音が聞こえないのはまだ分かる。この状況では警戒して音をたてないようにするのは当たり前だろう。

 

 けれど、おれの部下の靴音も声も、衣擦れの音すらも聞こえないのは明らかに異常だ。

 

 なんだこれは。

 まるで、おれ以外の船員が船の上から消えたような……。

 

 ぞわりと寒気がして「状況を報告しろ」と叫ぼうと口を開き、しかし直後に自分の声が出ないことに気がついて。

 ……いや、違う。声だけではない。

 靴音も、呼吸音も、何一つおれからは発せられていなかった。

 

 なんだこれは。一体、何が──

 

 

 

 

 

 

「────ばいばい」

 

 

 □■□

 

 

 こちらに乗り込まれる前に霧を発生させ、私たちと私たちの船をナギらせた上で錨を向こうの甲板へと引っ掛けてからその鎖を伝って海賊船へ。

 そして船長らしき人物と私の周りに“防音壁”を張ってもらい、こちらの問いかけへの回答を聞いた上で海賊船にある全てのものをナギらせてから全員を海へ突き落とす。

 

 ──という作戦だったのだが、思ったより上手くいってよかった。

 

 まぁ見聞色持ちがいたら通常戦闘になっただろうが、見聞色で見た感じ大して実力のある海賊団でもなかった(比較対象:カイドウ)ので、万が一そうなっても問題はなかっただろう。

 

 念の為全員私たちの船とは逆方向に、骨が数本折れる程度の打撃で海へ吹き飛ばすようにも言っておいたし、よしんば敵に『“北の海(ノースブルー)”の極寒港育ち』みたいなのがいたとしても、海中戦で魚人(かわまつ)に敵うわけもなし。

 

 でも多分能力者メインの海賊団だったんだろうなぁなんてぼんやり考えながら霧を解除して、しかし甲板にロシナンテがいないことに気が付いた。

 

「かっ、河松さん、ロシナンテさんは!?」

「いや、別行動であったゆえ拙者も見ておらず……!」

 

 まさか自分をナギったまま海に落ちたんじゃ……なんて二人で血の気を引かせた瞬間、バタンと大きな音をたてて船室の扉が開いた。

 

「ヤマト、河松! 見てくれよこれ! 食料と宝が大漁だ!」

「…………」

「…………」

「……あれ? どうした?」

 

 そういえば、ロシナンテってこういうやつだったな……。

 

 海賊時代の血が騒いだのか知らないが、まぁとにかく無事でよかった。

 

 でもほくほく顔のロシナンテに苛立ちはしたので軽く蹴っておいた。脛を。

 

「いでェ゙ッ!!? なんで!?」

「今のは流石にお主が悪い」

「エッ!?」

 

 河松も呆れ顔である。そりゃそうだ。

 

「はぁ……まぁお父様たちへのお土産ができてよかったけどさ……。

 とりあえず一旦それ置いて、私たちの船をもう少し近づけてから運び込もうか」

「おう、分かったぜ!」

 

 そう言って戦利品を甲板に置いたロシナンテは、そのまま私たちの船の方へと歩き出した。

 

「船のことは河松さんにやってもらうからロシナンテさんは行かなくても──」

「えっ、あ」

 

 ガッ! ゴロンゴロンゴロン! バシャーン!!

 

 ……。

 …………。

 

「河松さんッッ!!!!!」

「馬鹿者ーーッッッ!!!!!!」

 

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
  • 夜(19時〜23時)
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