廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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心に空いた穴は貴方の形をしている

 

 あの後も色々──主にロシナンテのドジがまあまあな頻度で──あったが、とりあえずは無事観光やら土産の購入やら本の購入やらを済ませた私達は、夕方頃に無事ワノ国まで戻ってきた。

 

 正規の港の上空を巡回しながら私達を待っていたらしいキングは私達の姿を見留めると、私達の船にやってきて人型に戻って。

 

「帰ったか。怪我はねェな?」

「キングさん、ただいま。二人もいたし大丈夫だよ」

「……そうは言ってもな、特に片方に関しちゃ心配しか──」

 

 とそこまで言いかけてマストにぐるぐる巻きにされたロシナンテに気づいたらしいキングは一瞬言葉を失っていたが、すぐに納得したようにこちらに視線を戻した。

 

「…………少なくとも航海は落ち着いてたようで何よりだ」

「今遠回しにおれが拘束されてた方が落ち着いた航海ができるって言ったな!?」

「なんだ、自覚が無かったのか」

「いや自覚はあるけどよ」

「……それはそれでどうかと思うが」

 

 ……呆れ顔のキングには、ロシナンテのうっかりドボン事件は黙っておこう。反応が怖い。

 

「まぁ今回も一回ドジって船から落ちたからな!」

 

 あっ。

 

「……」

 

 キングが絶句してしまった……。

 

「お前、……あぁそうか、侍が……はぁ…………」

 

 河松が助けたことを理解したのだろう。深いため息をついて再び黙り込んだキングは、数秒経ってからゆっくりと私の方を見た。

 

「ヤマト、その……、なんだ。

 ……今日はしっかり休むといい」

「……うん、ありがとう」

 

 なるほど、キング流の『お疲れ様です』はこういう表現になるらしい。優しいね……。

 

「……あ。そういえば、キングさんはなんで港の上を飛んでたの?」

 

 まあ十中八九私達を待っていたのだろうが、その理由が分からない。

 

 キングの様子を見るに、そう切羽詰まった状況ではなさそうだが……。

 

 なんて考えていると、キングは思い出したように「あぁ、お前を待っていた」と予想通りの返答をくれた。

 

「急ぎの用じゃなさそうだけど……?」

 

 何故キングがわざわざ迎えに来たのか分からずそう問いかけると、キングは「いや」と真顔でこちらを見る。

 

 ……ん? 今「いや」って言った?

 

 

「緊急事態だ。カイドウさんが大変なことになっている」

 

 

 え。

 

 

 

 □■□

 

 

「これはまぁ、確かに……緊急事態だね……」

 

 

 急遽キングに背に乗るよう言われ再び外国へ向かうこととなった私は、眼下の光景を見ながらぽつりと呟いた。

 

 ──キングに連れて来られた先にあったのは獣型でとぐろを巻き、へべれけのままおいおいと泣いているカイドウ、大量の酒、そして、焦土と化した見知らぬ島である。

 

 元は山だったらしいべこべこの地形と、雷に打たれたらしく焼け焦げて裂けた木々。野生動物か何かが暴れていると勘違いしてやって来てしまったのか、海軍の軍艦の残骸もちらほら見える。

 建物の残骸などはなさそうなので、恐らく無人島らしいことは不幸中の幸いだろう。

 ……つまりまぁ、とにかくひどい有様だ。

 

「えっと、キングさん。これはどういう……?」

 

 困惑したままそう問いかける私に、キングは簡潔に説明してくれた。

 

「心配と寂しさが合わさってああなった」

「しんぱいとさびしさ」

 

 心配と寂しさで島の地形変える五十一歳男性って何?

 ……四皇か、そっか……。

 

「……私の記憶が間違ってなかったら、私たちが早朝にワノ国を出てまだ半日程度だよね?」

「そうだ」

「それであれ?」

「そうだ」

「……」

 

 ……今回の外出は『外出』という行為そのものが不自然にならないようにという意図のものだったのだが、図らずもカイドウの慣らし保育みたいになってしまったらしい。

 いやこの場合島を離れているのは私なので、強いて言うなら保育慣らし?

 

 キングかクイーンの説得か、はたまたカイドウの理性が働いたのか。何にせよカイドウが鬼ヶ島やワノ国で暴れなかったのは唯一の救いだろう。

 

 けれどそんな救いも、この状態で帰還されてしまえば全て台無しだ。

 このまま帰られようものならカイドウは絶対に暴れる。山の一つや二つや三つ吹き飛ばす。そして私の胃も吹き飛ぶ。

 

 だからキングも私を待っていたのだろうが…………はぁ………………。

 

「……分かった。ちょっと、お父様とお話ししてくるね」

 

 私はそう一言伝えてからキングの背を降り、上空からすとんと地面に着地してカイドウを見やった。

 カイドウはというとどうやら相当に参っているらしく、私の気配にも気付けないまま相変わらずぺしょぺしょになって泣いている。

 

 言うまでもなく私の数百倍はあるサイズでそんな泣き方されても普通は恐いだけの筈なのに、あの姿を見て少し申し訳なく思ってしまう自分が怖い。これが慣れ──いや、慣らされ保育か。

 

 それにしても、カイドウがとぐろを巻いていてくれてよかった。

 突然クソデカドラゴンが寝返りをうってぺちゃんこに……などという心配をしなくて済むことに安心しながら、私はカイドウの体の上へと跳躍し、中心の方で酒を抱えてべそをかいているカイドウの頭の近くにまで到着した。

 

「うぃ〜……ヒック……! やってらんねぇよぉ〜……」

 

 落込上戸に陥っているらしいカイドウは、やはり私に気付かない。

 ……体によじ登られても気付かないって、どれだけ落ち込んでどれだけ呑んだんだ……。

 

「お父様」

 

 若干呆れながら、私はカイドウの頭の上からカイドウを呼ぶ。

 

「あ? ……おれァもうダメだ、遂に幻聴まで聞こえてきやがった」

「おとーさま」

「あぁクソ、まだ聞こえてきやがる。ヤマトがこんなとこにいるハズもねェってのに……」

「──パパ!!!」

「ッ!? は!?」

 

 どうやらカイドウは漸く私の存在に気が付いてくれたらしい。

 と、何故か途端にわたわたと慌てだしてしまって。

 

「ッち、違うぞヤマト!!

 これはだな、その、酔い潰れてたとかじゃなくてだな……!!」

 

 ??

 ……あぁ。そういえば、カイドウは私の前でそんなに深酒をしたことがなかったっけ。

 だから恐らくカイドウは、私がカイドウのこういう姿を知らないとでも思っているのだろうが……正直『ワンピース』を読んでいた私にとっては、深酒したカイドウなど見慣れたものである。

 

 まあ何にしても、酔いを醒ます手間が省けて何よりだ。

 

 私はカイドウの頭から鼻先へと降りて、カイドウの目を見ながら口を開いた。

 

「お父様、寂しかったの?」

「……何言ってやがる。おれを誰だと──」

「──私は寂しかったよ」

「!」

「お父様は、寂しくなかった?」

「…………そう見えるか?」

「ううん、全然」

「……ならまぁ、そういうことだ」

「えへへ、お揃いだね」

 

 そう言って笑うと、カイドウは一瞬沈黙して、頭を高く持ち上げて、それからポンと人型に戻った。

 

「っへ、わぶっ! わわわわわッ!?」

 

 突然足場がなくなり落下していく私を、カイドウはひょいと抱えて腕に乗せて。かと思えばそのまま私の頭をわしわしと撫でた。

 

「怪我はねェな?」

「う、うん。大丈夫」

「はァ……ついこの間までおれの小指ほどしかなかったガキが、一人前に航海してきやがって……」

「お父様ってば……私、もうとっくに身長二・五メートル超えてるんだよ?」

 

 感慨深さ半分、寂しさ半分といった様子のカイドウに呆れ半分でそう告げると、カイドウはくしゃりと顔のパーツを中央に寄せて呟いた。

 

「ガキの成長は早ェな……」

「────……」

「……? ヤマト、どうかしたのか」

「いや、その……お父様の発言がおじさんみたいで、ちょっと……」

「!!?」

 

 『ガビーン!!』という効果音でもついていそうな様子でショックを受けるカイドウを見て、私は笑った。

 

 

 ──ついこの間まで『仲良くなり方が分からない』とか悩んでたガキが成長したもンだ──

 

 

 ……蛇をまた一尾呑み込んで、何でもないような顔で、笑った。

 

 

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
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