廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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【前書き】
平素より『廃棄寸前の砂糖水』をお読みくださり、誠にありがとうございます。

10話ほど前から開始させていただいておりました廃水ウルトラスーパー更新イベントにつきまして、今回で一旦区切りとさせていただきます。

理由は、今話より物語の進行上重要な内容が多くなることでより細かな考証・確認の必要性が生じ、高頻度での更新が困難になると考えたためです。

廃水ウルトラスーパー更新イベントを謳いながらも三日以内に更新ができた時は僅かでございましたが、少しでも皆様にお楽しみいただけたのであれば幸甚です。

最後になりましたが、いつもお読みくださり、また評価、感想、ここすき、お気に入り登録などをしてくださり、本当に本当にありがとうございます。
まだまだ未熟な作者ではございますが、今後とも皆様にお楽しみいただけるよう、日々精進させていただきます。




光る月、燃ゆる君

 

 

 二十四歳になり数ヶ月。

 

 火拳のエースが、鬼ヶ島に殴り込みに来た。

 

 鬼ヶ島や百獣海賊団の下っ端はてんやわんやだが、私にしてみれば分かりきっていたこと。慌てる筈もない。

 

 ここでどうにか上手くビブルカードを入手できれば動きやすくなるんだけどなぁ、なんて、この時の私は暢気に考えていた……のだが。

 

 

「“涙音(わかれおと)”!」

「“陽炎(かげろう)”!!」

「ッ“鳴鏑(なりかぶら)”!!」

「“神火(しんか) 不知火(しらぬい)”!!」

 

 “涙音(わかれおと)”で打ち出した氷の礫を“陽炎”で相殺され、その隙を突いて叩き込んだ“鳴鏑”も“神火 不知火”でかき消されて。

 私は思わず深いため息をついた。

 

 火を無効化する私と氷を無効化するエース、互いに相性は最悪とはいえ金棒()を使った戦闘がメインの私の方が有利ではある筈だというのに、全く決着がつかない。

 

 そして、何よりの問題は……。

 

 

「ああもう、しぶといなぁ……!!」

「あ!? そう簡単にやられてやるかよ!」

 

 

 ──戦えば戦うほど、私の苛立ちが募っていくことである。

 

 

「っつーか、お前は何をそんなに苛立ってんだ」

 

 何を?

 ……何を、なのだろう。

 

 自分でもよく分からない。分からないけれど、抑えようもない苛立ちが私を支配していることは否定しようもなくて、私は僅かにエースから目を逸らして。

 

「……さあ。あなたのことが嫌いだからじゃないかな」

「ははっ、奇遇だな。おれもだ」

 

 そう憎まれ口を叩きあった、刹那。

 離れた距離にいた私達は互いに一気に距離を詰め、私の金棒とエースの拳が激しくぶつかり合う。

 そんな鍔迫り合いじみた攻防の中、エースが声を張り上げながら私を睨みつけた。

 

「お前幹部か何かだろ!? さっきから周りを巻き込んでも構わねェって戦い方しやがって……仲間を何だと思ってんだ!!」

「……残念だけど、今は幹部全員、カイドウと遠征中だよ」

 

 そう告げるとエースは一瞬沈黙して、それから「は!?」と困惑した様子で私から飛び退いて距離を取って。

 

「なら、お前は何者だ……!?」

「……あぁ、自己紹介がまだだったね。

 私はヤマト。カイドウの、実の娘だよ」

「…………ちょっと待て、ちょっと待て。情報量が多い」

 

 と、エースに待ったをかけられてしまった。そりゃあ驚くだろうな。

 

「……お前はカイドウの娘なんだよな?」

「そうだね」

「でも、百獣海賊団ではないと」

「うん」

「……それでもなんかこう、もっとあるだろ」

「何が?」

「あー、なんつーか、百獣海賊団のやつらに対する情っつーか……おれがこんだけ好き勝手やってて何か思ったりしねェのかよ」

「……何を?」

「だァから、『よくも!』みたいなことだよ!」

「……?」

 

 ……この男は、一体何を言っているのだろうか。

 

「ぜんぶ、当然の報いなのに?」

「は、」

「散々ワノ国を苦しめて、大した実力もないくせに『四皇カイドウ』の名前に寄生して甘い汁を吸ってきた彼らがその報いを受けただけの話なのに、なんでそれに怒りを抱くの?」

 

 本気で分からなくて首を傾げると、エースは不快げに眉を顰めた。

 

「……お前は、カイドウのやってることをよくは思ってねェってことか?」

 

 その問いかけに、私は見聞色で周りに意識のある人間がいないことを確認して、それからこくりと頷く。

 

「じゃあなんで止めようとしねェんだ」

「がむしゃらに立ち向かうことだけが『止めようとすること』じゃないよ。機を待ってるだけ」

「そうしてる間もワノ国のやつらは苦しんでんだぞ」

「ワノ国の人たちが苦しんでるからって突っ込んで無駄死にして、ワノ国の人達に何の得があるのさ。そんなのただの自己満足だよ」

「ッ、なんで最初っから諦めんだよ! お前くらいの強さがあれば、カイドウを倒せる可能性だってゼロじゃねェだろ!!」

「──、」

 

 その言葉に目を見開いた私は、小さく息を吸うと、金棒を強く握り締めて。

 

「────“雷鳴八卦”」

「かはっ……!?」

 

 そのまま、油断しているエースを殴り飛ばした。

 

「てっめェ、何を……っ!!」

「百獣のカイドウを──光月おでんを愚弄するのも、大概にしろ!!」

 

 怒鳴りつけた私を、エースはぽかんと驚いたような表情で見上げているが、そんな反応で止まることのできるような精神状態ではない。

 

「私如きの実力で倒せる相手なら、光月おでんは負けたりしなかった!! どれだけ卑怯な真似で不意を突かれようとも、不利な状況であろうとも、っあの人は絶対、負けたりなんかしなかった!!

 それを……ッ、カイドウと戦ったこともないくせに、勝手なことばかり口にするな!!!」

 

 あぁ、そうか。

 口に出して、漸く理解した。

 

 私はエースがカイドウの実力を軽く見ていることに……光月おでんという男を無意識に侮辱していることに、腹を立てていたのか。

 

 

 けれどそれを自覚したところで苛立ちが収まってくれるわけもなく、私は口を動かし続ける。

 

「……構えて。驕りも楽観も、完膚無きまでにへし折ってあげるから」

 

 そう告げてエースを睨みつけると、エースは少し黙りこんだ後、ぎゅっと目を瞑って、何かを決めたようにその瞼を開いた。

 

「…………分かった。おれも、勝敗が曖昧なままってのは性に合わねェと思ってたとこだ」

 

 と、いつの間に戻ってきていたのだろうか。

 エースの言葉を聞いていたらしいスペード海賊団の面々が囚われていたワノ国の人々を船の方へと誘導しながら、エースに「先に戻るからな」と声をかけて。

 

 エースはそれに頷いて、再び戦闘の構えを取って私と向き合った。

 

 

 □■□

 

 

 私の金棒とエースの拳が、激しい衝突音をたてながら何度もぶつかり合う。

 金色の竜の像はとうに戦いに巻き込まれて大破していたが、原作と破壊の経緯が違うなんてことを考える余裕などとてもない。

 

 ぶつかり合って、鍔迫り合って、一度地面を強く蹴って距離をおいて、再びエースの方へと金棒を振りかぶって。

 

 ──不意に、息を切らしながらエースが私へと叫ぶ。

 

()()()()()()()、ヤマト!」

「!!」

「そんなに“光月おでん”を慕ってワノ国を想ってんのに、なんたってそうも心を繋がれちまってんだ!?」

「ッ、“私”は、繋がれてなんか……」

「だったら! なんでそんな窮屈そうにしてんだよ!!」

 

 動揺した隙にエースの放った爆炎で体を吹き飛ばされるが、地面に叩きつけられる前に受け身を取った。

 

 繋がれてるなんて、そんなことはない。窮屈だなんて思ったことない。

 私はやりたいように、周囲の迷惑すら顧みず好きにやっている。

 

 ……やっている、筈なのに。

 

 

 ────悪人を名乗るならもっと自分勝手にやらねェか!────

 

 

 そんな言葉が響いて、ガンガンと頭が痛む。

 

 あの人にも、私は窮屈そうに見えていたのだろうか。苦しそうに見えたのだろうか。

 

 否定したいのに、世界で一番自由な男(かいぞくおう)を間近で見てきた男が自由(それ)を間違うとは思えなくて、でも、それでも。

 

「っうるさい!! 私よりよっぽど縛られて生きてるくせに、分かったような口を利くな!!」

「あ゙!? おれのどこが縛られてるっつうんだ!!」

「その捨て身特攻みたいな無鉄砲な戦い方だよ!!」

「なッ!!?」

「無謀と勇敢は全く違う!

 死に際、かの海賊王は夢を遺した!! 光月おでんは希望を遺した!! けど、貴方はどうだ! そんな戦い方で死んで何を遺せる!!

 貴方のその戦い方は、貴方に希望を、期待を、夢を託した人々を、バカにするやり方だ!!」

 

「貴方こそ、一体何に縛られている!?」

 

 トドメとばかりに言い放った言葉で、エースは目を見開き動きを鈍らせる。

 

 エースの事情を知っていながらこんな言い方をするのが卑怯だということは重々承知していたが、この戦いだけは、絶対に負けるわけにはいかなかったから。

 

 だから私は、エースのその一瞬の隙をついて渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「ッ“雷鳴八卦”!!!!!」

「ぐぁああッ!!!!?」

 

 金棒を振り抜いて、は、は、と息を整えて。

 

 力の入れ過ぎで痺れかけの手を金棒から離さないまま振り向いた先では、エースが倒れ伏している。

 

 ……勝っ、た……?

 

 そう考えて、ぐらぐらと揺れる視界を堪えながら金棒から手を離そうとした、直後だった。

 

「はぁ、っはァ……」

「!」

 

 もう意識はないだろうと思っていたエースが、息を切らしながらも立ち上がったのだ。

 

 ……大丈夫、まだやれる。

 まだ、戦える。

 

 エースの動きを注視しながら私が再度金棒を強く握り締めて戦闘態勢を取ると、両手で両膝のあたりを掴みながら呼吸を整え終えたらしいエースは上半身を持ち上げ、射抜くように私を見た。

 

「……」

「……」

 

 そして緊迫した空気に私が息を呑んだ、その時。

 

「──ごめん!!!」

「…………へ?」

 

 大きな声で謝罪を口にしながら頭を下げたエースに、私は思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 このタイミングで謝罪を口にされるなど誰が予想できるというのだ。

 

「おれァ“おでん”ってヤツについて詳しく知らねェけどよ、お前が尊敬してるすげェヤツだってのは分かった。

 今もまだ、おれやお前がカイドウに勝てる可能性が無いとは思っちゃいねェが……それでも、何も知らないままそんなことを言うのは、そいつをバカにしてると思われても仕方ねェことだったよな。ごめん」

「……え、あ、えと、うん。……私の方こそ、ごめん……?」

「あ? 何に謝ってんだ」

「いやだって、私だって貴方のこと何も知らないのに、知ったような口きいたし……」

「構わねェよ。……縛られてるってのも、間違いじゃねーんだろうしな」

 

 エースは目を逸らして呟くようにそう告げたが、すぐに私の方へと視線を戻した。

 

「で、どうする? まだやるか?」

「ううん、いいよ。毒気抜かれちゃったし……何より、これ以上やったら貴方の意識がもたないでしょ?」

「まださっきの根に持ってんな!? 『毒気抜かれた』とかどの口で言ってんだ!」

「この口」

「よーし、そんなに延長戦がしてぇってんならとことん付き合ってやるよ……!」

「あはは、ごめんごめん。冗談だよ。

 正直、私ももう限界」

「はぁ……」

 

 呆れたような表情でため息をつくエースに、私はスッと目を逸らす。

 ……うんまぁ、確かにまだ全然根にはもっている。

 

「……まぁいいか。じゃあヤマト、呑むぞ!」

「なんで??」

「戦いが終わったら宴するモンだろ」

「えー……」

 

 なんだその考え方。ルフィか。

 ……いや兄なのだし似ていても不思議はないか。

 

「私、そろそろ部屋に戻らないと護衛に心配されるんだけど……」

 

 今回、河松とロシナンテについては部屋に待機するよう命じて置いてきたのである。

 立場的には一応“奴隷”である手前、文句を言ったりはしてこないが……こういう時のロシナンテはあからさまに心配してくるので、あまり長く放っておくのは些か気が引ける。

 あと目を離してる内に何かやらかしているかもしれないと思うと本当に不安。河松がいるから大丈夫だろうとは思うけれども。

 

「じゃあそいつらも呼ぼうぜ!」

「え〜、でもなぁ……」

「頼むって! お前が好きな“光月おでん”ってヤツの話も、いくらだって聞いてやるからよ!」

「えっ」

「ん?」

「ほ、ほんとに…………?」

「……お、おう! 男に二言はねェ!」

「ならやろう!! 宴!!!」

 

 

 ──後にエースは語った。

 

 「やっぱ二言(にごん)あったわ」、と──。

 

 

 □■□

 

 

 満足するまで呑んで話して、いよいよエースの帰る時がやってきた。

 私は河松とロシナンテを下がらせてから、原作通りエースに彼自身の“命の紙(ビブルカード)”を手渡す。一部は貰っておいたし、これでインペルダウンからマリンフォードへエースが護送されるタイミングなんかも把握しやすくなった筈だ。

 

「……なあ、ヤマト」

「?」

 

 と、不意にエースが私へ声をかけてきた。

 こんなタイミングで声をかけてくる展開、原作にあったっけ……? 

 

「呑んでる時も散々誘ったが……やっぱりお前、おれと海に出ねェか」

「え」

 

 ああ、そうか。私は“ヤマト”と違って爆弾の手錠がついていないから……。

 

「おれには約束がある。だから必ずここに戻ってきて、カイドウの首を取る! 

 ……だが、その時までお前がこの場所に縛られ続けてる必要はねェハズだ。

 “その時”まででもいい。おれの船に乗らねェか」

 

 エースの言っていることは、何もおかしくない。

 きっと本来の“ヤマト”なら、手錠さえなければエースのこの誘いに乗っていただろう。……けれど。

 

「……だめだよ、エース」

 

 私はこの誘いには乗れない。

 乗っちゃ、いけない。

 

「見届けなきゃ。

 何もできないから、せめて目を逸らさずにいたいんだ」

 

 私が今傍観を決め込んでいることを間違っているとは思わない。向こう見ずに行動してカイドウや周囲の反感を買うくらいなら、気に入られたままの方ができることも多いのが事実だ。

 

 ……けれど。

 

『そうしてる間もワノ国のやつらは苦しんでんだぞ』

 

 昨日エースが発したその言葉もまた事実だから。

 だからせめて、今起きている悲劇から……私の罪から、目を逸らしたくなかった。

 たとえそれが自己満足だったとしても。

 

 エースがまっすぐに私の目を見る。

 見定めるように、確かめるように。何も言わずただ、私の目を見つめる。

 私もまた、静かにエースを見つめ返して。

 

 永遠にも感じる数秒間の後、エースは諦めたように息を吐いた。

 

「説得されてくれる気はねェらしいな」

「え」

「あ? なんだよ、その反応は」

「いや、思ったよりすんなり分かってくれたなって……」

 

『断るのを断る!』とか言い出す主人公の兄なのだし、もっと粘ってくるかと思っていた。いや別に粘られたかったわけではないが。

 

「昨日話した弟がとんでもなく頑固でよ。言っても聞かねェやつの目は見りゃわかんだ」

 

 なるほど、寧ろあの弟がいるからこそのこの対応らしい。

 

 ……え? 

 私今暗にあのレベルで頑固って言われた? 

 

「私はそこまで頑固じゃない」

「嘘つけ」

「エースだって人のこと言えた口じゃないくせに」

「お前にゃ負けるね」

 

 何を言っても子ども扱いでもするように返されるのはかなり癪だが、これ以上言い返すのは逆効果な気がして、私は納得できない気持ちのまま口を閉じた。

 

「まあ、なんだ。

 ワノ国のことが全部解決してよ、お前の背負ってるモンが少しでも軽くなったら……その時はまた、おれの船に誘わせてくれよ」

「……ありがとう」

 

 その気持ちに礼を言った裏で、可否を濁したことに気がついたのだろう。

 エースは呆れたように、またため息をついて去っていった。

 

 戦闘回避どころか大喧嘩になった時はどうしようかと思ったものだが、何とかなってよかった。

 後は予定通り頂上戦争でエースを救うだけだ。

 いやまぁ、その『だけ』のためには海軍最高戦力だの海軍元帥だの英雄だのを乗り越えなければならないわけだが。

 

 ……改めて羅列すると難易度エグいな。

 というかそもそもそれを乗り越える前に四皇(パパ)をどう誤魔化すかも考えないといけないし……。

 

 まあ時間だけはあるし、しっかり時間をかけて計画しよう。

 

 そう思いながら、私はロシナンテ達の元へと戻ったのだった。が。

 

 

 

 その数日後。

 

 

「ヤマト、正直に言え」

 

 私の目の前には覇王色の覇気全開のカイドウ。言うまでもなくブチギレの。

 

 カイドウだけではない。

 キングやクイーンなんかもかなり訝しむような目でこちらを見ている。

 

 

 ──これはちょっとかなり、やばい、かも。

 

 

 

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

  • 夜中(23時〜5時)
  • 早朝(5時〜7時)
  • 朝頃(7時〜12時)
  • 昼頃(12時〜16時)
  • 夕方(16時〜19時)
  • 夜(19時〜23時)
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