廃棄寸前の砂糖水   作:とくめ一

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吐き出せない苦い味

 あれから数日。私は無事元大名の三人を私の護衛にすることに成功した。

 おでんと完全に対面させて色々と外の情報を伝えられては困るので私とおでんが話しているのを陰から見させただけだが、どうやらそれだけで十分あのおでんが偽物ではないことが伝わったらしい。

 これであのおでんは偽物だとか言われたらどうしたものかと思っていたので一安心だ。

 

「えーと……じゃあ一応三人とも自己紹介してもらってもいいかな?」

 

 一応知ってはいるけど間違えて覚えていたら困るのが半分。

 そして原作になかったこの三人の名乗りを聞いてみたいというのが残りの半分だ。……いや、実際は後者の割合が八割くらいかも。

 

「負けた侍の名など、と言いてェところではあるが……一時的とはいえ自身の主に名乗らぬなど、それこそ武士の名折れか。

 拙者は霜月(しもつき)牛マル」

「風月おむすびでござる」

「……雨月天ぷら」

「我ら三人。これより二十年間、貴殿を護る刃となろう」

 

 ……ア~~~~~…………。

 侍の名乗り格好良いなぁ…………。

 

 と内心で感動してはいるが、それを表に出すわけにはいかない。

 彼らの立場からすれば主人を幽閉している私なんかに憧れられるなど迷惑でしかない筈だ。しかも心根が優しいものだから、ないとは思うのだが、憧れを全力で出してしまえばもしかしてもしかすると私に対しての情が湧きかねない。

 そうなれば、きっと彼らは感情の板挟みに苦しむことになるだろうから。……それだけは、避けなければならないと思った。

 

 ……それが、それだけが。

 本来の主人を利用してその椅子に座った私に出来る、せめてもの償いだった。

 

「……あぁそうだ。伝え忘れてたけど、おでんにはもう元々のような戦闘能力はないからね。

 釜茹での刑のせいで走るのがやっとの状態だよ。

 ……後出しみたいになっちゃったし、これを聞いて私の護衛になる気をなくしたなら──」

「──生きてくれているだけで、十分にござる」

「戦う力が失われていたとして、五年間たった一人で全てを守り続けた男をどうして見捨てることが出来る。侍を名乗る者にそのような恩知らずはおらぬ」

「何より、我らはあの男を御旗(みはた)として救おうとしているわけではない。

 ただ我らがあの男を人として好いておるから、守りたいのだ」

 

 牛マルが、天ぷらが、おむすびが、まっすぐな目でそう告げる。

 

 ……将軍でも強者でもなくなったおでんを、彼らはこんなにまっすぐに慕い続けている。

 仲間だと、友だと、大切な存在だと想い続けている。

 

 それがキラキラと綺麗にまばゆく輝いて見えて。

 

「……そっか、よかった」

 

 ──いいなぁ。

 なんて、思った。

 

 

 例えば私がカイドウの娘じゃなかったら、カイドウの部下たちは私を大切にしようと思うだろうか。

 ……例えば私がカイドウの娘じゃなかったら、カイドウは私を──…………。

 

 

 最後まで考えかけて、やめる。

 だって考えるまでもなく、どちらも答えはノーなのだから。

 

 

 

□■□

 

 

 

 カイドウの娘である少女の護衛となった次の日。

 

「わたしのごえいとしてそばにつくときは、必ずその天がいをかぶってね」

 

 そう言って少女は天蓋──つまり虚無僧(こむそう)が被っているようなタイプの深編み笠を我々に手渡してきた。

 まさかの行動に虚を()かれ思わず言葉を失ってしまっている内に、一番に我に返ったらしいおむすびが少女へと問いかける。

 

「……何故このような物を?」

 

 その問いに、少女は不思議そうに、そして当たり前のことを言うかのように答えた。

 

「ないとあなたたちは困るでしょ?」

 

 確かに元大名の我らがカイドウの娘の護衛をしていると知られれば、民は間違いなく(いか)るだろう。

 しかしおでんの命と引き換えに己を守らせるような娘だ。てっきりそれすら折り込み済みで、我らの面目も矜持も潰すつもりで護衛を任せてきたと思っていた。

 だからこそ、たとえ民にどのような目で見られようと、石を投げられることになろうと、おでんを守り抜こうと覚悟を決めていたのだ。

 

 ……だというのに、少女はそんなつもりは全くなかったらしい目で天蓋を差し出してくる。

 通常の深編み笠でなく敢えて天蓋を選択したのは、護衛という立場柄動くことが多いからと気を遣ったのだろうか。

 

 それでは、まるで。

 

「…………ありがたく頂戴しよう」

 

 頭に浮かんだ思考を一旦押し込めて、少女から天蓋を受け取る。……その瞬間、ほんの一瞬だけ少女が安心したような顔になったように見えて。

 

 この天蓋を受け取らなかった所で、きっとこの少女は困らない。困るのは我らだけだ。

 であれば、この少女の安堵したような表情の理由は?

 

 ……もし。

 もしも他意なく我らのことを思っての気遣いならば。

 もしもこの少女に、我らやおでんを害するつもりがないならば。

 それはまるで────

 

 

「……?

 牛マルさんさっきからずっとこっちを見てるけど、どうかしたの?」

「……いや、何も」

 

 

 

 

 ────まるで、ただ純粋に我らが少女に救われ、守られているようではないか。

 

 

 

 

 







苦いばかりのそれの名は、きっと羨望だ。

ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)

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