これで私も悪人ね。
さて、三人を護衛にして数日が経過した。
彼らのことは滅多にしない外出の時だけつれ回す予定だったのだが、部屋にいる時だろうと側に置いておくようにカイドウに言われてしまった。まぁ忍もいる国だ、城の中だろうと安全とは限らない。その上ついこの間私の部屋の家具の搬入も終わったらしいので、これからはカイドウとは別の部屋で過ごすことになる。
考えてみれば、部屋が一緒だったこともありこれまではおでんのところに行く時以外はほぼ確実にカイドウが側にいた気がするが、部屋が別だと流石にそうもいかなくなるのだろう。
因みに護衛三人の部屋は襖で隔てられた私の部屋の隣だ。
私は彼らがおでんを見捨てることはないと確信しているので身の危険は一切感じないが、カイドウもそれは同じらしく、この提案をしてきたのもカイドウである。
閑話休題。
つまるところ何が言いたいかというと。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
気が。
全く。
休まらない。
四六時中警戒モードの侍三人に囲まれてなおかつ全員無言って。しかも空気がお通夜。
「別にきらわれてるのは気にならないんだけど、四六時中きらってる相手といっしょにいる向こうの胃がしんぱいなんだよね」
近頃長く取るようになった癒しタイム……またの名をおでんとのお話し時間中にそう告げた。
この時間だけは彼らは私と離れ地下への入口で待機することになるので、向こうにとってちょうど良い休憩時間になると思い時間を延ばしているのだ。
相も変わらず詳しいことは話さないままぼやいた言葉に、いつもならほぼ無反応でリハビリに励んでいるおでんは珍しくこちらを向いた。
「どうして嫌われてると思ってんだ。何か言われたのか?」
「言われてはないけど……その人たちって、わたしがおでんさんのことをたてにして無理矢理ごえいにしたおさむらいさんたちだもん。あるじをたてにして従わせてくるてきなんて、好きになる人いないよ」
反応されたことに内心少し喜びながらそう返すと、おでんは眉根を寄せた。
「確かに好きではないかもしれねェが、だからと言って嫌いだと決まるわけじゃあねェだろ。相手が侍なら尚更だ。
……それともお前は、おれを人質扱いしたこと以外にそいつらに何かをしたのか?」
「…………それだけで充分な罪だよ」
当然だ。私は、散り様を汚しただけでは飽きたらず戦えなくなった状態で閉じ込め飼い殺すような真似を彼らの主人に対して行い、挙げ句の果てにその主人の命を自分の為に盾にした。
おでんが彼らにとって、国にとってどれだけ大切か理解した上で……いや、理解しているからこそそういう行動に出たのだ。恨まれる覚悟はとうに出来ていたし、私はそうされるにふさわしい悪役だ。
──しかし、おでんは私を怒鳴り付けた。
「見くびるな!!
それは侍として、主君として戦わねばならぬ身で、負けて足手まといになったおれの罪だ!!おれはまだ、自分の罪をガキに背負わせる程落ちぶれちゃいねェぞ!!!」
おでんの剣幕に思わず一瞬だけ体が震えたが、おでんの言っていることを肯定するわけにはいかない。
私は手のひらをぐっと握り締め震えを抑え込んでおでんを睨んだ。
「せ、せおわせるも何も、あなたの体がそんなじょうたいになるようなことをしたのはわたしの父親で、あなたの意思を無視して生かしたのはわたしだ!!」
「あァ!?死に場所を選べねェのはおれが弱かったからだろうが!
何より、ガキが一丁前に親の罪を背負おうなんぞ考えてんじゃねェよ!!親の罪は親の罪!どこの誰に肩代わりが出来るってんだ!!」
「でも父親のおんけいにあやかってるわたしには、そのせきにんがある!」
「おんけいにあやかるゥ??この大馬鹿野郎が!!ガキの世話すんのが親の役割だ!!育てたことを恩に着せて自分の責任をガキに押し付ける親なんぞ、親じゃねェ!!!」
「っぱ、パパはべつに、わたしにせきにんを押しつけてるわけじゃ……」
「だったら尚更、ガキが勝手に親の罪を背負おうとしてんじゃねェよ!!」
「!!!」
先に言い返せなくなったのは、私だった。
慣れない口喧嘩で勝ち目なんてあるわけがなかったのだろうかと考えながらも、しかしどうしてもおでんの言い分に納得はできない。
私に罪はない?
……駄目だ。
それは、罷り通らない。
「……でも」
「あァ!?」
「…………わたし、知ってた。
あなたが苦しむことになることも。カイドウやオロチがしようとしてたことも。
なのに、止められる可能性はあったのに、誰も傷付けずに済んだ可能性はあったのに、全部見捨てて、ただ見てただけだった」
そしてそれは、これからもきっと変わらない。
主人公の、この世界の結末を変えることに怯えて、きっと私はこれからの二十年間沢山の命を見捨てる。
助けられるもの全てから目をそらして、だというのに自分がその現実から逃避できるだけの幸福な世界を作り続けていくのだろう。
それはきっと、利己的で、醜くて──
「……本当にひつようなことは何一つ出来ないくせにつごうの良い時だけ相手の命をしばりつけるわたしは、どうしたって悪人だよ」
──どこまでも、悪人らしい行動だ。
と、暫く黙っていたおでんが口を開いた。
「…………ハァ~~~~~~~~~…………。
お前、父親そっくりだな……」
「……自分勝手だってことはとっくに──」
「そうじゃねぇよ!その変なとこ馬鹿真面目で頑固なとこがそっくりだっつってんだ!」
「…………?」
いや、変なところも何もごく通常の倫理観では……?
「…………お前が見捨ててきたやつらは、お前に助けを求めたのか?」
「え、いや、求めてはいないけど……」
「じゃあそれは見捨てたとは言わねェな。
いいか、お前は神でも何でもねェ、ただのガキだ。全部助ける責任も義務もてめェにはねェし、その自責はあまりにも傲慢だ」
「……おでんさんにごうまんって言われても」
「おれのは身の丈に合った自責だからいいんだよ」
子どものような理論につい笑ってしまうと、つられたようにおでんも笑う。やっぱり私は自分に罪がないとは思えないけど、それでもいくらか心が軽くなった気がした。
……これがとんでもカリスマ持ちの将軍おでんか……。
「……よし。らしくもなく見定めるのにえらく長ェ時間をかけちまったが、おれも腹を決めたぜ」
……ん?
「おれはお前が嫌いじゃねェ!」
…………え??
いやなんで!?!?幽閉してる本人嫌いじゃねェナンデ!?!?
「んで、お前はどうせおれの言ったことに納得しちゃいねェだろ」
「う、うん……」
驚きすぎて頷くことしか出来ない私を見て、おでんは笑った。
悪戯っ子のような、悪童という言葉が似合うような、だというのに安心できるような顔で、笑った。
「それじゃあお前が自分を許せるその日まで、お前の罪はおれが一緒に背負おう!」
「………………えっ。
…………いやいやいやいや、おかしいよ。おでんさんがわたしの罪をいっしょにせおういわれは……」
「お前だって勝手に他人の罪を背負おうとすんだから同じじゃねェか」
「いや、それは他人の罪じゃなくて……」
「だァ~~~!!!ゴチャゴチャうるせェ!!!
黙って手伝われとけ!!!!!」
横暴だし我儘だし諸々おかしいし意味が分からない。
何故そんなゴリ押しで押し通せると思ってしまったのだろう。
そう思うのに、何言ってんだと言ってやりたかったのに、私は気がつくと涙を流しながら頷いていた。
──あぁもう。
やっぱり私は、この憧れから逃れられないらしい。
□■□
馬鹿な小娘だ。と、思った。
だってそうだろう。
小娘は自身がいかに罪を背負っているのか、いかに悪人であるのかを、まだ拙い滑舌で懸命に語るのだ。自分がどれだけ
──この小娘は、悪人を自称するにはあまりにも善性が強すぎた。
本当の“悪人”ならば目もくれないだろう罪悪感を背負い込み、救える命を拾い上げ、しかしそれが必ずしも相手の救いにならないと知っているから、また更に罪悪感を抱え込む。
要は、真面目で頑固な上に不器用で色々とヘタクソなのだ。
だから潰れかけて悲鳴をあげている自分の心にも気が付けぬまま“悪人”を名乗る。
それはきっと小娘にとっては自衛行為なのだろうが、実際は自傷行為にもなっているというのだからまったくもって笑えない。
──だから、一緒に背負ってやることにした。
戦闘能力を失い人質程度の使いようしかなくなってしまったおれに、小娘は毎日会いに来た。
返事も碌にせず目も合わせようとしなかったおれに、小娘は毎日話をした。
そんな小娘に絆されたことを話せばトキには呆れられてしまうかもしれないけれど、けれども。
戦えなくなったこの身でも、目の前の子どもに肩を貸すくらいのことはしてやりたいと思ったから。
「……これでおれも、悪人の仲間入りだな」
小さな声で、おれも小娘と同じように悪人のレッテルを掲げて、ほんの少しだけ笑った。
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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夜中(23時〜5時)
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早朝(5時〜7時)
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朝頃(7時〜12時)
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昼頃(12時〜16時)
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夕方(16時〜19時)
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夜(19時〜23時)