……おかしい。
絶対におかしい。
「おいお嬢、もっと食わねェと大きくはなれぬぞ」
「お嬢、顔色が悪いがしっかり眠れてるのか」
「お嬢は物覚えがいいし本当に優秀だな。菓子でも買いに行くか?」
何???
これ全部牛マルの言った言葉なんだけど……何??????
朗読会が終わって少し経ったくらいから明らかに態度が違う。なんなら口調も砕けてきた。
いや、おむすびも態度が軟化して結構話しかけてくれるようにはなったけど、牛丸はなんかもっと、……何??????????
分かりやすく甘やかされてる??何で???
アッ、おでんの為に媚売っとこう的な?
取り入って最後には寝返ってやるぜみたいなそういう傳ジロー的な思考??
これが噂のハニートラップですか???
でも残念!私は侍たちに恋愛感情を抱くことはありません!!
しかし
……あまりの状況に混乱してテンションがおかしくなってしまったが、一旦落ち着こう。
だってこの状況は本当におかしいのだ。
再三言ってはいるが私は彼らからすれば彼らの主を人質にしてる悪人で、その上国やら故郷やらを滅茶苦茶にしたトンデモ海賊の娘だ。
そして彼らはしたくもない仕事を無理矢理させられているだけの侍。
この状況でも、まぁ百歩譲って態度が多少軟化するだけなら分かる。原作でのお侍さんたちの天元突破した優しさと格好良さから考えればギリギリあり得る。
でも甘やかすのは意味が分からないしあり得ない。
……となると、やっぱり……。
「──わばっ!?」
突然指で眉間を突かれて、私は素っ頓狂な声をあげながら仰け反った。
「お嬢。そんな風に眉間に
ゥワ顔と声つっっっよ。
まぁヤマトフェイスが愛らしいのは認めるけど、それにしてもこんなことを恥ずかしげもなく言っちゃうのは強すぎる。最早怖い。
「…………あの、牛マルさん。
わたし、べつにおさむらいさんたちのたいどがどうであろうとおでんさんをころしたりしないし、二十年のやくそくはちゃんと守るから、そんな風に、あの、こび……やさしくしてくれなくていいんだよ?」
というか、わざわざハニトラじみた真似をされなくともこちらは既に侍たちのカッコよさに陥落済みなのだ。
正直こんな風に甘やかされては身がもたない。脳味噌がオーバーヒートして爆発する。……いやもしかしてそれが狙いか!?
そんなことを考えていると、今度は両頬を片手で挟まれた。
「ゎぶっ」
「……おぬし、そういうところが……」
「えっ……あ、ご、ごめんなさい。やっぱり、わたしがそんなこと言ってもしんようできないよぬゅっ!?」
冷静に考えてみれば敵から安心しろと言われて出来るわけがないというのに、あまりにもテンパっていてそんなことにも気がつけなかった。そう思い至った私が慌てて謝罪を口にすると、何故か私の両頬がよりむぎゅっとされる。いや何故。
「いいか。拙者はそんな理由でおぬしを甘やかしちゃいねェし、おぬしが約束を
「じゃ、じゃあなんで……」
「拙者が個人的にお主を甘やかしたいだけでござる」
…………????????
……堂々と何言ってんだこの人。
一瞬スペースヤマトになったわ。
「おい牛マル、あまりヤマトを困らせてやるな」
と、助け舟を出してくれたのはおむすびだ。
「おむすびさんどういうことなのこれ」
「あー……おぬし、この間我らの前で狼の姿になったでござろう」
「う、うん。それがどうかした?」
護衛中に急になったらびっくりするかなと思って、つい最近獣型と人獣型を見せたけど……この状況と何の関係が?
「牛マルにはオニ丸という相棒がいてな。オニ丸は狛狐なのだが、大きさや雰囲気におぬしの狼姿と似通った部分があり…………その……こやつの庇護欲に、火がついてしまったのだ」
「????????????」
何言ってんだこの人(二回目)
隣の青髪も何頷いてんだ。
「えっと、……わたしとオニ丸さんを重ねてるってこ」「違う」
否定はっっっや。
そうだね、相棒だもんね。庇護欲とかじゃないよね。なら私への甘やかしは何やねん。
「じゃあ庇護欲っていうのは……?」
「……オニ丸に子がいればこんな風だったかもしれねェと思ったら……」
………………………………親戚のおじさん……?
正月に久々に会った親戚の子ども甘やかすタイプの親戚のおじさん……???
因みに牛マルの言葉に私は「……そっか……?」としか言えなかったし、その話をおでんにしたら爆笑されたのでチョップしておいた。
□■□
おでんの日誌の朗読会が正式に終了した日。
少し父親と水入らずで出かけてくると言って出ていったヤマトに取り残された部屋の中で、おむすびが我ら二人に「話がある」と告げてきた。
どうやらここ数日の朗読会を経て思うところがあったらしく、おむすびは自身の気づきを一つ一つ我らに伝え、最後にこう問いかけた。
「拙者はどうにもあやつを悪人とは思えぬ。
……だからこそ訊くが、おぬしらの目から見て、あやつはどのように映っている?」
その言葉に、拙者は自然と護衛として過ごしてきたこの数日間を思い起こす。
毎日三食欠かさずおでんに食事を運び。
「パパがお菓子買ってきてくれたんだ」と言いながら手ずから我らに菓子を準備し。
トキ御付きの女中について(無意識なのだろうが)「誰に任せれば……確実に守れる人……いやでも…………」などと呟きながらも真剣に悩み。
…………そんな様子を見ていると、この間頭を過った可能性を切り捨てられなくなるだけでなく……どうにも……。
「…………正直に言おう」
言いづらい。
これ以上ないほどに言いづらいので一旦そこで区切ったが、拙者は腹を決めてどうにかもう一度口を開いた。
「………………健気な孫がいたら、あんな風なのかと思うことがある」
「……正気か??」
信じられないものを見る目でこちらを見ながらそう言ったのはおむすびだ。
拙者とてはじめは自身が操られているのではないかと疑った程なのだからまぁ仕方がない。
「時々無性にヤマトを甘やかしたくなることを除けば正気だ」
「それは正気ではないと思うが」
「実際に行動に移していない分まだ正気だろう」
「…………そうか……。
と、ところで、天ぷらはヤマトについてどのように考えているのだ?」
おむすびが焦ったように天ぷらに話を振った。
何故こやつが拙者と目を合わせようとしないのか甚だ疑問である。
おい、こっちを向け。
と、天ぷらは仏頂面でポツリと呟いた。
「……拙者から言えることはない」
…………それは珍しくも、付き合いの長い我らですら何を考えているのか分からぬような、複雑な表情だった。
「それは、」どういう。
そう問いかけようとしたその瞬間、覚えのある気配が部屋に近付いてきて拙者は口をつぐんだ。
「ただいま」
そう呟くように言ってからふぅと一つ息をついたヤマトは、一度下を向いたかと思うとすぐまっすぐにこちらを見た。
「えっと、今日は今から、わたしのことについておさむらいさんたちにせつめいしておこうと思って」
……説明?
はて、一体どのようなことを。と首を傾げた牛マルはまだ知らない。
この後見るヤマトの獣型が相棒に似ていると感じてしまい、相棒に子がいたならこのような子だったかもしれねェと庇護欲が爆発してしまうことも。
父親に甘やかされ慣れている筈なのに、甘やかすと普段の大人びた姿が嘘のようにわたわたし始めるヤマトに気付いてもっと甘やかしたくなってしまうことも。
今はまだ、知らない。
──余談だが、獣型を見る前から牛マルが庇護欲を煽られていたことをヤマトに伝えなかったのは、おむすびなりの優しさである。
ハーメルンを最もよく開くのは大体何時頃ですか?(投稿時間の参考にするための質問です)
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夜中(23時〜5時)
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早朝(5時〜7時)
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朝頃(7時〜12時)
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昼頃(12時〜16時)
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夕方(16時〜19時)
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夜(19時〜23時)