感情シンタイプ   作:小沼高希

20 / 100
7月下旬、塾、一人で

駄目です、調子に乗っていました。共通テストってこんな奥が深かったんですね。過去問を解いたことはあったが、その間違えた理由をここまで深く考えたことはなかったしたまたま合っていたり半ば勘で当てていたものをちゃんと言語化できたのはいい。

 

「とはいえ頭が痛いな……」

 

いつもは週に二回ぐらい行って英語をやっている塾で、今日からは理系科目全般を含む共通テスト対策をやる夏期講習である。知らない分野?知るか、問題に出てきた範囲を学べばいいんだよ!とばかりに鞄には参考書を詰め込んでいる。

 

初手から向こうはそれなりに難しい内容を出してきたようだが、思ったよりなんとかなっているので絶望的と言うほどではない。ふっふー、生物の進化の話は得意分野だぞ?普通の学生なら電子伝達系の獲得の過程なんて前提知識がないから難しいかもしれないけどね。

 

この塾はビルの中にあって、あまり使われていない階段でのんびりと時間を過ごすこともできる。昼休みに近くのコンビニで買ったパックのコーヒー牛乳をちびちびと飲んでカフェインを頭に回していく。今後お盆休みを除いて八月末まで平日はこういうふうに朝から夜までお勉強だ。

 

前提として、これは今の鹿染さんがそのまま勉強を続けた場合の話だからね

 

少し心が落ち着いたので、前に守森先生から送られた僕の定期試験の講評を読んでいく。かなりの量になっているはずだ。

 

全体的に計算が苦手な印象を受ける。問題のパターンだけ暗記して本質を見てない。実際、化学の計算なんて大半は比の計算なんだから落ち着いて問題の文章を整理すれば問題ないはず

 

もちろんそうじゃないものもあるけどね

 

まあそうやっておよそ一時間、守森先生は僕の定期試験の結果を分析してくれたのだった。全部正論だったので僕の心のダメージは大きく、全てを飲み込むのに数日かかった。というわけで今になってやっとちゃんと目を通すことができるのだ。

 

どの大学に行くかが人生じゃないとか、そういう話は落ちた後でもいくらでもできるので

 

今は

受験勉強

しろ!

 

一日八時間程度じゃ死なない死なない!

 

なんかブラックなことを言われている気がするが、まあいいか。実際今は頑張るべき時だし、背中を押してもらっていると思おう。

 

とはいえ、やっぱり辛いものはつらいですね

 

まあでも休日があるし。たまには遊びなよ

 

相変わらず守森先生の返信は早いときには一瞬だ。

 

守森先生はそう言うが、正直遊ぶって何をどこで、となってしまう。最近やった「遊び」となると、守森先生と前に行った書店になってしまうぐらいだ。なおその前は博物館。

 

あれ、となるとここしばらく遊んだのは守森先生と一緒になるのか。

 

守森先生と、ですか?

 

勉強とカフェインでテンションが少し上っていたのだろう。いつもならやらないようなメッセージを送ってしまう。いや、そもそもいつもなんてないけど。

 

……納倉さんから話を聞いた?

 

ええ

 

納倉がどこまで守森先生の情報を聞いているかは聞けずに夏休みに入ってしまった。もちろん連絡先は知っているのでメッセージは送れるが、そういうことをするのはなんとなく気が引ける。

 

いいの?

 

守森先生なら

 

言葉の裏の真意を完全に読めているとは思えないし、たぶんすれ違いとかもあるのだろう。けれども、この返答についてはどう解釈されてもいいと思っていた。

 

私の家、来る?

 

いや、先生も飛ばし過ぎじゃないか?

 

変なふうに解釈しますけど?

 

鹿染さんなら

 

それは気遣いですか?それとも相手に投げているんですか?

 

先に投げたのは鹿染さんだよ

 

はい……

 

守森先生は怠け者なところがある。僕と同じだ。

 

本当に行っていいんですか?

 

一緒にゲームするぐらいならできるよ

 

面白そうですね

 

実はあまりゲームというものを遊んだことがない。毎日デイリーだったかをこなさないといけないやつをちゃんとできる気はしなかったし。あ、でも納倉はたまにシンプルな感じのパズルで遊んでいるのは見るな。

 

なら、私の家ここだから

 

そう言って送られてくるのは住所と地図へのURL。

 

いいんですか?

 

僕だってこういう個人情報を送るのがセキュリティ上とか色々な問題を起こしかねないことは知っている。僕が厄介な守森先生のストーカーになるかもしれないし。正直言って、こうなる可能性を否定できない自分がいるのだが。

 

いや、こうやっておけば明日の私が掃除してくれるかなって

 

部屋の中、汚いんですか?

 

ちゃんとゴミは指定の日に出しているよ!

 

守森先生は非常に社会性のあるえらい人だということがわかった。僕の部屋のゴミ箱はたぶん数ヶ月ぐらい袋を交換していない。

 

そういうことを思っていると昼休みがそろそろ終わる時間になる。慌ててコーヒー牛乳を吸い上げて、口の中のパンを流し込む。

 

今度、行っていいですか?

 

私が休みの日なら、基本的に断ることはないよ

 

なら今週の土曜日で

 

わかった。頑張って掃除する

 

別に僕は守森先生と会えればそれでいいんですけど

 

なんか送信してから変な気分になる。まあいい、今は集中して午後の化学の授業に挑もう。チャイムが鳴るまでもうすぐだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。