感情シンタイプ   作:小沼高希

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8月上旬、自宅、納倉と

『で、その先はどうなったんだ?』

 

電話越しにでも納倉がニヤニヤしているんだろうなという見当はつく。

 

「いや、楽しく落ちものパズルをして暗くなる前に帰ったが」

 

自分の部屋のベッドに座りながら僕は言う。

 

『……あのなぁ』

 

呆れた声。なんだい、別にそう面白いことはしてないぞ。

 

『詩明せんせとこう……もっとすること、ないのか?』

 

「ゲームやるために行ったんだよ?」

 

『……口実だって考えなかったのか?』

 

「……守森先生がどこまで僕をそういう目で見ているかわからないし、ハグ以上を求めてこなかったんだから僕からは動けないって」

 

『ああ、そこらへんは難しいよな。ウチだって雰囲気を読み取れとか言われてもわからないし』

 

「こういう相談できるの、僕には納倉ぐらいしかいないからさ。ごめん」

 

『いいって、どうせ詩明せんせからも惚気話を聞かされるんだ』

 

「惚気話ってなんだよ、それと守森先生も納倉にこういう話を?」

 

結局、守森さんという呼び方は慣れなかったのでゲーム中に忘れられていた。これについては守森先生だって僕のことを鹿染くんって呼ばなくなったしおあいこだ。

 

『ああ、色々と聞くよ?』

 

「具体的には?」

 

『守秘義務があるからな、言えない』

 

「僕の話、守森先生にしてる?」

 

『しないが?』

 

「……ありがとう」

 

『そのくらいの分別はあるさ』

 

納倉はいいやつなんだよな。とはいえ恋人とかができる性格かと言われればちょっと別だ。

 

『まあでも、何をしてほしいかはちゃんと言えよ?もうちょっとやそっとじゃ崩れない関係なんだからさ』

 

「本当かなぁ?」

 

『ウチの言葉を信じられないのかい?』

 

「……例えばさ、もし僕が守森先生から酷いこと言われても、守森先生のこと嫌いにならない自信があるかと言えばないのよ」

 

『……そうだな』

 

「それなのにさ、相手に何言っても大丈夫だとは思いたくないし、それに、もしそう思ってしまったらとても失礼なことする気がして」

 

『そういうのを自覚しているうちはまあまず大丈夫なんだが、それでも致命的なすれ違いっていうのは起こりうるからな』

 

「でしょう?」

 

『ただ、それはやりすぎると杞憂にならないか?』

 

前に守森先生とそんな話をしたな。あれは哲学の話だっけ。

 

「……そうだとしてもさ、怖いものはどうしようもないよ」

 

『ま、時間が多少は解決するだろうな。で、詩明せんせを想うのは楽しいか?』

 

「……うん」

 

守森先生の熱とか、囁かれた声とか、次の約束の日とか、そういう事を考えるだけで楽しくなるし、時間が過ぎ去っていく。もちろん受験生なのであまり速く過ぎていっても困るのだけれども。

 

『ま、いいことだ。そういうのは最初のうちしか楽しめないからな』

 

「そういうもんなの?」

 

『……らしいな。あくまで聞いた話だが』

 

本当かなぁ。納倉も片思いの一つや二つするんじゃないだろうか。あまりこういうのは邪推しすぎると友人関係がめんどくさくなるので程々にするし口調には出さないように気をつけるが。

 

「……だとしたら、ちゃんと楽しむよ」

 

『それがいい。あとはまあ、やりたいこととかできることとかのすり合わせはしっかりしておけよ』

 

「すり合わせ?」

 

『例えば一気に距離を詰めたい人と、ゆっくり関係を築きたい人が付き合うことになったら面倒事が起こる可能性が高いだろう?』

 

「ああ、片方が無理に迫っても、もう片方が受け入れる準備ができていない、とか」

 

『そうそう。あとはどれだけのことを言葉にして伝えるかとか、嫌な話題をどこまで扱うかとか』

 

「嫌な話題って?」

 

そう聞き返して、しまったなと思う。

 

『……別れ話とか、将来とか』

 

少し重めの納倉の声。あまり聞かない。

 

「それは、困るね」

 

『だろ?まあ詩明せんせはそういうのちゃんと言葉にしてもらうほうが好みらしいから』

 

「守秘義務はどうしたの?」

 

『このぐらいなら問題ないだろ、それにこういうところですれ違いが起きたところで誰も得しない』

 

「それならいいんだけれども」

 

得をしない、と言えば納倉はどうなんだろうな。

 

「……あと、ありがとね」

 

『何だ?』

 

「こういう話、聞いてて楽しい?」

 

『かなり』

 

「それでも、やっぱり僕の心を楽にしてくれているとかあるからさ、そこはちゃんとお礼をしないと」

 

『いいって、友達だろ?』

 

「……そういうもんなのかね、友達って」

 

『さぁな、ウチには友達が少ないからわからん』

 

僕も実際のところそうなので、何も言えない。今度守森先生に聞いておこう。

 

『ただ、ずるずると関係を続けるのは程々にしておけよ』

 

今のまま、というと多分友達の延長線上にぎりぎり乗るぐらいの関係、ということだろうか。友達だってハグするし、一緒に買物行くことぐらいはあるよね。あるはず。

 

「……わかってるよ、甘えたくないし」

 

『それが甘えだってわかってるなら、いいさ。失敗するなよ』

 

その先は、とか想像はできるし最低限の知識はあるけど、それをどこまで守森先生が望んでいるのかは正直わからない。相手の心がわかれば便利なんだけど、それができないから言葉をかわすしかないというのはもどかしいし、でも楽しい。

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