感情シンタイプ   作:小沼高希

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8月中旬、守森先生の家、二人で

そろそろ、夏休みが半分終わってしまう。解いた問題は増えたし、多分ここしばらくでかなり力は短期的には伸びたと思う。

 

「ただまあ、基礎力はもう少し伸ばしたいところかな」

 

先生が見ているのは今までの僕の成績とか模試とかに関する資料一通り。

 

「単純な水準としてなら、まあどこかの大学に受かって学士を取るぐらいならいけるかな」

 

「……どうせなら、いい大学行きたいですけれども」

 

「まあ偏差値高いところは、比較的面白い人が多いからね」

 

ちょっとだけ、守森先生から偏差値が全てじゃないとか、本当に自分が行きたいところに行ったほうがいいみたいなふうに言われるんじゃないかと怯えてしまっていたので少しだけ緊張がほぐれる。

 

「そうなんですか?」

 

「だって、高校生なんて大学の良し悪しなんてわからないでしょ?私だってわからないんだから」

 

先生は自慢げに言うが、実際は何も言ってないも同然だよな。

 

「だから、偏差値っていうのは一つの目安になる。もちろんもし動かせない目標があるなら、それに合わせるのもいいよ?」

 

「医者になりたい、とかですか?」

 

医学部に行くのがどれだけ大変かは、なんとなくだけれども理解はしている。

 

「そうだね。あとは例えば南極に行きたいとか、火星に行きたいとかならそれ専用のルートを取った方がいい」

 

「あるんですか?」

 

「南極の方はそういう研究機関があって、そこに大学院生で行くとやりやすいからそれを見越して研究室選びをして、GPAを取って、ってしなくちゃいけない」

 

「GPAってなんですか?」

 

「Grade Point Average、大学版の評定平均みたいなもの。馬鹿馬鹿しいシステム」

 

「どうしてですか?」

 

「んー、ちゃんと説明しないとダメだね。ここらへんは」

 

そう言って先生はあぐらをかいて座っている椅子をくるりと回す。

 

「まず、大学ではかなり自由に授業を選べる。授業を取ると単位が手に入って、単位数を含む一定の条件を満たすと卒業できる。とはいえこれは高校と同じなんだけどね」

 

「単位……」

 

「さて。授業を好きに選べるなら、どういう授業を選ぶ?」

 

「面白そうなやつを……いや、評定平均が必要なんですよね」

 

「GPAね。つまり?」

 

「簡単な、いい成績を取りやすい授業を選ぶのがいい」

 

「正解。GPAが高いほど卒業研究をどの先生のところでするかとか奨学金とかのあたりで有利になるから基本的に取りやすいものだけを取るのが良くなってしまう。たとえそれが、面白くなくてもね」

 

「……つまらなさそうですね」

 

「まあ、それを無視できるようにしたいならあえて大学のレベルを落とすのも手だよ。何か勘違いした大人が大学の中でいい成績取っても自慢できないとか言ってくるかもしれないけど、無視していいから」

 

「言われたんですか?」

 

「まあね。……結局、その先生の言ってたことはある程度はあってたけど」

 

先生の気分が下がってしまった。他のことに話を移さないと。

 

「それで、先生から見て僕はどこくらいの大学がいいと思いますか?」

 

「んー、まあやりたいことはないんでしょう?」

 

「……ええ」

 

「なら場所選びから始めたほうがいいかな。家から通える範囲にするか、完全に一人暮らしにするか。学会とか出たい?」

 

「どういうものですか?」

 

「研究者が集まって酒を飲む前にみんなでスライドを見る会みたいなもの。三回に一回は首都圏かな。ならそういう範囲がいいかと」

 

「なるほど……」

 

守森先生の家も入るか。自宅はちょっと毎日通うには難しいかな。

 

「あとは家から近いと図書館を遅くまで使える。まあこれは近くに部屋借りればいいけど」

 

「守森先生もそういうことしていたんですか?」

 

「まあね、大学図書館の蔵書っていうのはかなり幅広いし……ああ、そういう意味なら学部学科も重要だよね。理学部にするか、工学部にするか、みたいな」

 

「どっちがいいですか?」

 

「趣味。まあ私は理学寄りの先生のところで卒業研究したけど、工業系の先生もいたから多少はわかるつもりだよ?」

 

「教育系の大学を出たって言ってましたよね」

 

「そうそう。もともと工業高校で教えていた先生が教授として教材の研究とかしていたから」

 

「そういうのもあるんですね」

 

「だから本当は入る前に調べておきたいけど、そんなにいっぱい情報があっても結局オーバーヒートしちゃうからね。だから入ってから決めてもいいよ」

 

「んー……」

 

全然参考になってない。いや、話すのは楽しいし色々と学ぶことはあるんだけれども、目の前の問題は何一つ解決していない。

 

「まあでも大きい大学で、比較的評判がいいところとなるともう狙える偏差値帯を見るのがいいんじゃないかな」

 

そう言って先生はプリンターから吐き出された紙を取る。

 

「ここらへんから、ここらへんまで」

 

そう言って先生は蛍光ペンを走らせる。

 

「詳しくは調べたほうがいいかな。なんとなく気になったものだけでいいから、ひとまず自分で手を動かしてみて」

 

「わかりました」

 

こういうアドバイスはちゃんと聞いておこう。スマホを取り出して、ひとまず一番上の大学名を入力した。

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