感情シンタイプ   作:小沼高希

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8月下旬、電車、納倉と

電車に揺られ、先生の家の最寄り駅を過ぎる。

 

「それにしても珍しいよな」

 

「何が?」

 

僕の隣に座る納倉が返す。

 

「いや、夏休み最後の週末だからって遊園地に誘われるとは思わなかった」

 

「……なんだよ、ウチがそういうのを楽しみそうにないって思ってたのか?」

 

「否定はしないけど」

 

納倉はなんというかそういう娯楽に対してはストイックな気がしていた。安くないお金を使って遊園地に行くというのはなんかこう、違う気がする。

 

「それで、行くのはいいんだけどなんで遊園地なんだ?」

 

「こういうのは一人で行くよりかは気心が知れた友人と回るほうがいいもんだろ」

 

「それはそうだろうけどさ」

 

やっぱりそういう感じはしないんだよな。まあつまりは僕の知らない納倉ということなのだろう。それはそれでいい。

 

「で、詩明せんせとの進展は?」

 

「……鍵をもらった」

 

「知ってる」

 

「守森先生とどこまで情報を共有してるの?」

 

「悠が毎週通っていることぐらいは」

 

僕もたまにこういう話を納倉にしていたからいいけど。嬉しいことがあった時に話ができる友人というのは貴重だからね。

 

「でも、楽しそうでいいこった」

 

「ごめんね、いつも変な話して」

 

「嫌ならちゃんと言うから、そこは安心して。で、実際のところ詩明せんせとどこまで行ったんだ?」

 

「いや、どこかに出かけるとかはしていないけど」

 

そうか、基本的に僕が先生の家に行ってばかりだからな。本当は一緒にでかけたりとかするべきなんだろうけど。となると今日の納倉との旅は浮気になるのか?まさか。

 

「……そういう意味じゃないが、そういうふうに聞こえるなら行ってないんだな」

 

「……もしかして、そういうこと?」

 

「それ以外にこういう迂遠な聞き方すると思うか?」

 

「……あったかかった」

 

「ほうほう」

 

僕の方に少し身体を傾ける納倉。

 

「守森先生って、多分僕より少し軽いんだよね」

 

「身長と体形を考えたらそうだろうな」

 

「……どうやって考えるんだ?」

 

「服のだぼつき具合とBMI。あれの次元はL/M2だから、五パーセント体重が低ければ同じ体重ならBMIの差は一割。そこまではない感じかな、と思って」

 

次元の話は昔守森先生がしてくれたので覚えている。これで式を推測することができるんだっけな。化学の計算でたまに使っている。BMIも保健の授業でやった。とはいえこれらを一瞬で組み合わせてこう言う説明ができるあたり、やっぱり納倉は頭の回転が速いんだよな。

 

「まさかいつも人間をそういうふうに見ているの?」

 

「んなわけあるか、興味あるときにしか観察しないから」

 

「……僕は?」

 

「……聞きたいか?」

 

納倉の声に少し不満みたいなものが混じったのを感じる。

 

「いや、いい」

 

「そっか」

 

少しだけ無言の時間が流れる。

 

「今日行く遊園地って、行ったことあるの?」

 

メジャーというほどではないが、名前は聞いたことがあるというぐらい。

 

「子供の頃、一回だけあるな」

 

「よくそういうところに行ったの?」

 

「いや、数えるほどしかそういう思い出はない」

 

「……そう」

 

僕の場合はどうだろう。あまりないな。小旅行みたいなものはあったけど、遊園地はもしかしたら初めてかもしれない。

 

「とはいえあの頃からは色々変わっているだろうし、しっかり楽しまないとこの後に潰れるから」

 

「潰れるって?」

 

「受験が、そろそろ本格的になってくるだろう?」

 

「そうだよな……」

 

夏休み明けに志望校を決めて、いろいろな手続をして、そうすると秋になって、来年になれば共通テストがやってくる。

 

「あれ、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

「僕が守森先生と再会したのって、いつぐらいだっけ?」

 

「ええと、四週間……六月の末じゃないか?」

 

「で、今は八月の終わり?」

 

「そうなるな」

 

「……もしかして、時間が過ぎるのっておもったより速い?」

 

「予言しよう。お前は来年の受験直前になって、ちょっと前まで夏だったのにとか言い出す」

 

「それは予言でも何でもないな、間違いなく言う」

 

こういう馬鹿話は楽しい。けど、やっぱり今日守森先生のところに行くのを断ったのが胸にちょっとだけ違和感として残っているな。なんなのだろう。しなくていいはずの緊張とか不安とか、そういうのはやめたいんだけれども。

 

「……納倉と話していると、やっぱりいいな」

 

「なんだよいきなり、ちょっと気持ち悪いぞ?」

 

「そこまで?」

 

「まあ、そういうのを気にしている関係っていうのは不自然じゃないか?」

 

「そう?」

 

ということは、納倉に言わせれば僕と守森先生の間の関係は不自然ってことか。いや、確かに特別だから自然ではないと言えばそうかもしれないけど。

 

「もちろん気にすることもあるだろうけど、気兼ねなく話せる関係っていうのはそれはそれで得難いものだから。ウチは悠とそういう間柄でいたいし」

 

「……納倉の言い方も、不自然じゃない?」

 

「まあ、あまり考えすぎてもいいことなんもないしな。それより遊園地で何楽しむか決めたか?」

 

そう言って納倉はいつものタブレット端末を取り出して、ダウンロードしていたらしい園内の地図を表示させた。

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