感情シンタイプ   作:小沼高希

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8月下旬、遊園地、納倉と、さらに

疲れて嫌になる一歩手前ぐらい、少しだけ名残惜しいと思えるぐらいの時間で夜になる。夏の遅くまで残る日……ってほどじゃないな。8月は暑いから勘違いしそうになるけど、日が一番遅く沈む夏至は二ヶ月前になるのか。

 

「いやぁ、楽しかったなぁ」

 

ニコニコして言う納倉。こういう素直な笑顔はあまり見ないな。いつもはもっとニヤニヤした嫌な顔をしている。

 

「それは何よりで」

 

「詩明せんせとは、こういうふうに遊んだりしていないでしょ?」

 

「そういえば……」

 

いわゆるデートみたいなことを、僕はしたことがない。多分ぶらぶらと守森先生と歩くだけでもそれなりに楽しいんだろうけど、今日納倉と楽しんだようなことはあまり好きじゃなさそう。これは僕の勝手な偏見だけど。

 

「なあ、悠」

 

「なんだよ」

 

「詩明せんせのこと、好きか?」

 

「……納倉、今日は調子変じゃないか?」

 

「はぐらかすなよ」

 

少し強めの口調で納倉が言う。

 

「……好きだけど」

 

「ならいいが、詩明せんせが向けてくる好意が悠のものと同じだとは思うなよ」

 

「……どういうこと?」

 

「未成年に手を出す大人はまずまともじゃない。そういう意味では、詩明せんせは危ない人だ」

 

「そうだろうけど、あの人だってただの人だし」

 

「んなこたわかってるよ。でもな、どうしてもまだそこに一線はあるべきなんだよ」

 

「……そんなに、守森先生のことが嫌いなの?」

 

「……否定はしないさ。ウチの大切な友人を不幸にしようっていうなら、それなりの対応をしないと」

 

「いやこれは僕の問題なんだけど」

 

「……最終的にはそうだけどさ」

 

少し悔しそうな口調を滲ませて納倉が言う。

 

「恋とか愛が楽しいのはわかるが、それが相手にとって都合の良い存在としてしか見られていない、なんてことはよくあるからな」

 

「ある程度は、恋とかってそういうものでしょう?」

 

「かもな。それを決めるのはウチじゃなくて悠と、あとは詩明せんせになるからあくまでウチの言うことは参考までになってほしいが」

 

「……ありがとう、心配してくれて」

 

「……ウチが勝手にやってるだけだ」

 

「別に守森先生と過ごす時間が増えたからって納倉と遊んだり話す時間は減らすつもりないし」

 

「そいつは、まあ、ありがたいけど」

 

広義の嫉妬、なのかな。僕だって納倉が他の人と楽しそうに話しているのとかを見たら少しだけムッとするし。あ、そう考えると納倉が守森先生と色々話していたっていうのを聞いてなんとなく変な感じがしたのはそういうのもあるのかも。少しだけ理解できた気がする。

 

「だから、安心して」

 

「安心してって言っている人間、あまり信用できないんだよな……」

 

「わかる……」

 

「ただ、ある程度は自己責任になるからな。ウチだって手伝えるのは限界がある」

 

「……うん、後悔はしない、と、思う」

 

「話ぐらいは聞くし、直接言いにくいことなら伝えたりするし、頼っていいからな?」

 

「……納倉はどうしてそこまで、僕に手を貸してくれるの?」

 

「邪悪に言うなら、見ていて楽しいから」

 

「そこまで邪悪?」

 

「他人の事を見て笑ったりするのは、その相手が目の前にいるときなんかは特にやったら不味いことだろ」

 

「……誰かが幸せだと自分も嬉しい、みたいなものじゃなくて?」

 

「ウチは悠が多少苦しんでいてもそういうものとして楽しみそうだからな……手を差し伸べはするが」

 

「そこで突き落としたりしなければ、邪悪じゃないよ」

 

「……なら、いいか」

 

納倉は背を伸ばす。揺れるプロジェクションマッピングが始まった。これのためにわざわざ暗くなるまで待っていたのである。

 

「やっぱり生で見るのは面白いな」

 

「生でってことは、そうじゃないものは見るの?」

 

「けっこうARものだと色々あるからさ。悠はあまりそういうの興味ないでしょ?」

 

「あんまりね……」

 

最近は街中でつけている人も見るけど、ああいうのは事故とか起こしやすいみたいな話がニュースになるしそれなりの値段がするしというのもあって学生の僕には手が出せない。なお悠は旧世代のやつだけどそういうガジェットを親から譲ってもらったらしい。

 

「ま、こういうのを悠と見れてウチは満足だよ」

 

「……よかった。また、来る?」

 

「受験勉強しろよ、もう時間ないぞ」

 

「そう言う納倉はどうなのさ」

 

「まだ合格点に届かないところだな」

 

「ってことは、志望校が決まったの?」

 

「第一志望だけだがな」

 

そう言って納倉は大学名を言う。僕でも知っている、というか理系大学としては指折りのところだ。

 

「納倉の家から通うにはちょっと遠くない?」

 

「もし受かったら、っていい方は良くないか……受かった時には多分一人暮らしだな」

 

「準備も始めておくの?」

 

「親に頭下げて各種資金の提供をお願いする必要が……」

 

「大変だね」

 

僕も色々とお願いしなくてはいけないよな。昔に比べてこういうのに必要なお金はどんどん上がってきているし、だからこそ狙えるいい所にちゃんと行って、きちんと学んでおかないと無駄になってしまう。建物の凹凸を障害物のように使うアニメーションを見ながら、少なくとも今は楽しもうと眼の前のものに集中することにした。

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