感情シンタイプ   作:小沼高希

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9月上旬、レストラン、二人で、つづき

「先生っていっぱい食べますよね」

 

僕の手のひらぐらいの大きさの肉を楽しそうに切る先生に僕は声をかける。

 

「鹿染さんが少ないんじゃないの?」

 

そう言って守森先生が視線を向けるのは僕の前のお皿。そうかな。サラダとかついているし、お肉もそれなりにはあるように思うのだが。まあ先生のに比べれば小さい。

 

「……そうかもしれませんね」

 

ま、別にそこは論点ではないのでずらそう。こういうのは先生と話しているうちにつかめるようになってきた。

 

「私の場合だと、食べるのが好きだからかな」

 

「それにしてはあまり……太っていないですよね」

 

「ストレスかな。消化が悪いみたいで」

 

「なら脂ものとか食べないほうがいいのでは?」

 

脂身をナイフでもちもちしている先生にそう言うと、少し気まずそうな目をしてからフォークで刺した大きめに切り分けられた厚めの肉を口に頬ばった。

 

もきゅもきゅと食べる先生を見ると心が落ち着く。多分これが好きってものなんだろうな。本当か?まあ、僕もそれなりに食べよう。ペースを合わせるぐらいの甲斐性はありますとも。昔何かで読んだ。

 

「おいしいよね」

 

「ですね。先生はこのお店よく来るんですか?」

 

「んー、地元にいた時はたまに通っていたけど、この駅ビルのとこのは初めて」

 

「チェーンなんですね」

 

「そ。決してお店の数が多いわけじゃないけど」

 

そんな話をしながら、先生のお肉を分けてもらったり先生が僕のところから付け合せのポテトを一つ取ったりとかして食事は進む。ここはちょっとイラッとしたのでお肉をもう一切れもらった。ポテトは希少なんだぞ。

 

「……あまりこういう食事の経験がないので、何話したらいいのかわからなくて難しいですね」

 

「地学の話でもする?」

 

「するんですか?」

 

「最近の大気海洋相互作用の研究についての話をしてもいいけど……というか、他の人とご飯食べたりしないの?」

 

「しませんね」

 

「ほら、納倉さんとか」

 

「いやこういうところでは……」

 

少し前にチュロス食べたな。それぐらいかな?

 

「たまに、というか数えるぐらいですね」

 

「そうなんだ。……納倉さんとは相変わらず仲いいの?」

 

「最近まで夏休みでしたし」

 

「最近遊びに行ったでしょ?」

 

「……ええ」

 

なんで僕は変な罪悪感というか後ろめたさを持っているんだ?別に友達と遊びに行くぐらい、誰かと付き合っていようが自由だろ、と思ったがそういう話については守森先生とあまりしていないな。別に嫌だと思われるならそれは仕方がないことだけど、色々マシにできる可能性があるならそれを探るべきだ。

 

「守森先生は、僕が他の誰かと一緒にいたりするのが嫌ですか?」

 

「……嫉妬みたいな話?」

 

「ええ、まあ」

 

「……伝えない方がいいって私が考えている内容だから、言いたくないっていうのは通じる?」

 

「僕は聞いたほうがいいと思います」

 

「嫌だなぁ……」

 

こういう粘度の高いとでも言うべき声を先生が出す時は、たいてい本当に面倒な時だ。でもそれをやらなくちゃいけないってわかった上で、それはそれとして嫌だっていうのを主張している。これに対して僕にできるのは、同情ぐらいのものだ。

 

「わかりますが、そこで隠してもあまりいいことがない気がしますが」

 

「……そうだよ。鹿染さんの考えるように、私は君に嫉妬する。君が他の人と楽しんでいるとか考えるとなんで私じゃないんだろうなってなる。君が私以外から学んで欲しくないなっていうあまり直視したくない欲がある」

 

「そう、ですか」

 

「たぶんこれは君が思っているよりもっと面倒で、重くて、伝えないほうが二人の関係にはいい類の感情だよ。だから気にしないで。聞かなかったことにして」

 

「……はい」

 

僕は正直な所、そこまででもない。確かに先生のことは好きだし、大切だし、嫉妬みたいなこともするけど、そこまで強く言葉にするような感情は湧いてこない。

 

「そう言う鹿染さんは?」

 

「僕の方は、あまり」

 

「……嫉妬して、って言うのも、変な話かな」

 

「したほうがいいですか?」

 

「こんな感情持って生きるのはろくでもないからやめて」

 

「はい」

 

まあ、別に互いに同じ感情を向け合わなくちゃいけないというわけでもないし。もちろん一方的過ぎたりするのはよくないし、ある程度バランスは意識するべきだろうけど。

 

「……私は相当、面倒な人間だよ」

 

「知ってます」

 

「好意を向けても、それをちゃんと返せるかはわからないよ」

 

「僕も似たようなものですから」

 

「……まあ、私も君が好きだから別にいいか」

 

先生はそう言って、ライスが乗っていたお皿に残っている米粒を器用にフォークで取る。僕の方もそろそろ食べ終わる感じだ。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 

一瞬だけ引っかかる。僕にとってあそこはまだ訪れる場所なんだけど。とはいえ先生は特に詳しく考えているわけではないだろう。それに家族というほどではないが身内というかそういう感じの扱いをしてもらうのは嫌いじゃない。

 

「はい」

 

そう言って、僕は机の上の伝票を取った。先生の食べてたやつ、結構な値段がするんだな。

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