感情シンタイプ   作:小沼高希

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10月上旬、自宅、一人で

目を開けて、部屋に差し込む日光を感じて、慌てて起き上がろうとしてなんで今日は目覚ましが鳴っていなかったかを思い出す。そうか。今日はズル休みすることにしたんだった。

 

いや、ズル休みって言い方はよくないよな。自分の体調管理を自分でしているだけです。時間は九時ちょっと過ぎ。ああ、もう授業は始まっているのか。

 

心がどうにもざわざわするのを感じて、やっぱり自分はこういうことに引け目を感じてしまう程度には真面目なんだなぁと考える。台風とかで高校が休みになるとかだったらもう少し心がウキウキするのに。

 

さて、今日はどうしよう。昨日親に明日学校を休むと言ったら普通に流されてしまった。あっけないぐらいだった。で、いざこうなると実はあまりやることがなかったりする。宿題とかも一旦忘れるように言われているので、考えない。

 

「……もう一回、寝よう」

 

少し寒くなってきた季節。温かい布団にくるまって、さっきまで見ていた夢のようななにかに戻るのもいいだろう。睡眠時間は十時間ぐらいだったが、もう少し寝たって誰も文句は言わない。

 

今日は家でゆっくりして、お皿とかお風呂とか洗っておこう。それぐらいはまあ、家にいるならするべきだし。あとは何やるかな。時間をつぶせるような趣味とかはないし。守森先生については、ちょっとあの人はあの人でストレスの原因になっているんじゃないかと思えるようになってきたし。

 

そう考えて、スマホを見る。いや、スマホを見たからそういう事を考えたのかな。寝ぼけた頭では因果関係がごちゃまぜになっている。

 

納倉さんから聞いたよ

 

大丈夫?

 

何かあったら相談には乗るから

 

私からも、最近一方的に構ってもらってばっかりだったことは謝っておく

 

意外なことに、先生は反省をしているようだ。まあ納倉あたりがそう言ったんだろう。あの人は、というか僕もだけどこういう客観視は苦手な気がする。主観を無理やり相手に当てはめるのが限度だから、そこで起きた食い違いを修正できないのだ。

 

「んー、返信どうしよ」

 

少し声を出してみる。この時間なら誰も家にはいないはずだ。確かにここでなんて言うべきかを考えるのは少し面倒だけれども、これはさすがに必要なことだってことぐらいはわかる。だからといってやりたいわけじゃないけどね。

 

いっぱい寝たので少し回復しました

 

今週は家でゆっくり過ごします

 

これで大丈夫だよな。先生の家行きたくないわけじゃないみたいなニュアンスは出せてるよな。もしダメだったら納倉にぶっちゃけてそっち経由でどうにかしてもらおう。

 

わかった

 

お大事に

 

そう言ってメッセージは止まる。さて、二度寝しよう。

 


 

布団の中でもぞもぞとするが、実は正直疲れ自体は取れていたりする。納倉に変なメッセージでも送ろうかと思ったがやめておく程度には僕にも良識があった。偉い。

 

そういえば、最近いろいろなものが嫌になっていたのを思い出す。守森先生とか。いや、確かに守森先生の全部が好きだなんてことはないですよ。恋みたいな変な感情も落ち着いて、あの人をちゃんと見れるようになっている気がしている。多分これは気がしているだけ。

 

「……僕は、先生のどこが好きなのかな」

 

寝返りを一つ。姿勢のせいで眠れないのか、そもそも眠気がないのかわからない。けれどもゆったりするのは間違いなく心とか身体とかにはいいはずだ。

 

あの人は、きっと大人としては多少問題を抱えているのだろう。それはまだ子供の僕だってわかる。けれどもその大人っていうのは、多分ほとんどの成人がなれていないものだ。妥協とか、ごまかしとか、そういうものを重ねて、体面をどうにかすることでみんな社会を回している。多分。詳しくは知らない。

 

一方の僕だって、どうせ誕生日が来たってその日から性格が変わるとは思えない。先生のためにデートコース考えたり、なにか喜んでくれるようなサプライズプレゼントを用意したり、なんてことはできない。やりたくない、のかな。面倒とか億劫とか、そういうものだろうか。

 

改めて、ここらへんのあまり考えたくなかった場所を考える。本当は休息時にやるべきことじゃないのかもしれないけど、こういう時でもないとしっかり考えられないからね。

 

「……好きって、言葉だけだよな」

 

言葉だけなら何だって言える。具体的な行動を考えた途端、身体と思考が固まってしまう。もちろん先生を喜ばせたくないわけじゃないけど、それの代償が何かみたいなところでどうしても引っかかる。

 

もしかして僕は先生が喜ぶこと自体にそこまでメリットを見出していないんじゃないか、みたいなことも考えてしまう。ただ言葉で何かする程度でならともかく、行動まではしたくないんじゃないかとか。それは多分、酷いやつの発想なんだろうな。

 

モテる人は、多分ここを勘定に入れていないんだろう。あるいは相手を喜ばせて、そこから自分が利益を得るための方法をちゃんと知っているとか。ああ嫌だ。それでも行動するだけ僕よりよっぽど上等じゃないか。

 

ふと守森先生もそういう人間なのかな、と考える。ここらへんは、一度ちゃんと聞いてみてもいいかもしれない。ああでも今はいいや。後回し。それは今すぐやらなくちゃいけないことではない。

 

都合よく意識が薄れてきた。もう少し別の、生物の分類の話でも考えながらぼんやりとしていこう。

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