話せますか?
ちょいと待ってね
先生と会わないのは、ある意味では少し安心するけどどこか寂しいところがある。学校みたいなもんだな。ないならないで嬉しいが、別になくなってほしいわけではない、みたいな。
そう考えると、僕にとって守森先生は特別なものとかではなくて対処すべき日常の出来事の一つになっているのかもしれない。そんなことを考えているとスマホが鳴る。
もういいよ
メッセージが着たのを確認して、先生に発信をかける。
『はいはい、大丈夫?』
「元気になりました」
先生のいつもの声。これは落ち着くんだよな。では何が僕の精神に対してストレスになるのか、というのは少し確認しておきたいことである。
『……納倉さんから色々と聞いたよ。まず謝らせてもらっていい?』
「はい」
『正直、私は……なんだろう、鹿染さんのことを下に見ていたところがあって』
「年下ですよ?」
『そういう意味じゃない。確かに私は大人だけどさ、だからと言って嫌がられるようなことをできる理由はないわけで』
「……僕だって先生に奢らせていますし」
『ある程度は私も楽しんでいるから、それのお代だと思えば』
「なら僕だって先生と話すのが楽しいですから、触られるぐらいならいいですよ」
僕がそう言うと、スマートフォンの先からため息のような声が聞こえた。
『……あのね、鹿染さん』
「はい」
『それが私にとって、ちょっと……なんて言うのがいいかな、琴線に触れるというか……』
「……刺激的すぎます?」
『そういう言い方でもいいね』
「知りませんよ!僕は普通に言っているだけです!」
『わかっているから言葉濁してるんだよ!』
ちょっと互いに語気が強くなっている。まずは僕のほうが落ち着かないと良くないな。興奮させてしまっているみたいだし。深呼吸を一つ。
「まあわからなくはないですよ、僕だって先生に触れられるとちょっと変な気分になりますもん」
『高校生だから……っていうわけでもない?』
「たぶんあります」
思春期で、生物学的には第二次性徴がそろそろ終わろうかという頃だし、まあ異性の肉体に興味とかが出てしまうのは生理的な要素もあるだろう。だからと言って僕は別に異性との関係以外が自然に反しているとか言うつもりはないですけど。
「守森先生は、魅力的ですからね」
『んー、一般的にそういう目を向けられるのが嫌だっていうのはわかる?』
「さっき先生も似たこと言ったじゃないですか」
『まあね。ただ、鹿染さんからそういうふうに思われるのは、比較的マシで多分許容範囲になるよ』
「……はい」
『とはいえ私がやっぱ受け入れられないって言うことはあるだろうから、その時はごめんね』
「無理矢理は良くないことぐらいわかってますよ」
『それならまあ。あとは……どこまで普段触っていい?』
なんかおもったより直接的に聞かれてきた。
「どこまでって……ハグは、好きです。先生はあったかいですし」
『体温、あまり高くないはずなんだけど』
「そうなんですか?」
『ちょっと冷え性気味でね』
「そうは思えなかったんですが」
今までの何度かくっついた記憶を思い出して、ちょっと感情の行き場がなくなったので脚をバタバタとたせる。けっこう布越しとか腕に触れたとかなので、そこで熱が溜められたりとかあったのだろうか。熱力学とかわからないです。
『私からすれば、君も温かかったよ』
「……どうも」
『無断で抱きしめるのはやめる?』
「驚くので、できれば」
『顔とか手とか喉とか触るのは?』
「喉は……やっぱりくすぐったいですね」
『わかった。……やめたほうがいい?』
「もう少し力入れて触ってください」
『……うん』
返事までの間に微妙な間が入る。やっぱりこういう会話はいいな。うまく言葉にできないけど、心が楽になるのは間違いない。
『君も、私のこと触ってもいいんだからね』
「……はい」
前に先生に僕の方から触れたのは、確か手を触ったときだったっけ。あまり僕の方から先生を求めるようなことはしていない気がする。恥ずかしいというかもにょもにょした気分になってしまうので。
「先生は、触って欲しいんですか?」
『……ある程度は、ね。もちろん触って欲しくないタイミングとか場所はあるけど』
具体的にいつかとかどこかとかは、聞かなくていいか。具体的には直接でもいいだろうし。いや直接できるかな。文字とかのほうがマシなんじゃないだろうか。
「ハグは大丈夫ですか?」
『いつでも、とは言えないけどまず大丈夫だよ』
「わかりました。週末、しにいってもいいですか?」
『いいよ。来て。特に私の方から何か用意しておくとかは……ああでもそうか、誕生日だったよね』
「そうです」
週末の先の来週だったっけ?今は手元にカレンダーがないのでわからないけど。
『プレゼント、一緒に買いに行こうか』
「いいんですか?」
『家から歩いていける範囲にお店があるから』
「行きましょう」
心のなかでケチ、と思ってしまうがそもそも他人である僕にプレゼントをしてくれるのだ。なら、ここは好意だけをありがたくもらうのが一番いいのだろう。