感情シンタイプ   作:小沼高希

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11月上旬、大学、納倉と

週末。今日は守森先生の家には行かない。かわりに納倉と慣れない道を歩いている。

 

「そういえば電車の中で単語帳見てたよね」

 

納倉はそう言ってタブレット端末に表示させた地図を見ている。迷ってないよな?一応僕たちと同じぐらいの年齢層で理系っぽい風貌の人たちが歩いている方向に進んでいるので大丈夫だとは思うが。理系っぽい風貌って何だよ。ちょっと間違えるとまずい考えだなこれ。

 

「こういう事に慣れきっちゃってるから。精神統一みたいなもんだよ」

 

もうそれなりに覚えていて、知らない単語がないぐらいまでにはなってきた。もっと高レベルの単語帳使うべきなのかなとも思ったが、まあ今回の模試の様子見てでいいだろう。

 

そう。模試である。この時代になっても大学受験はマークシートとかであるので、会場に行って現場の雰囲気を感じてみたいな練習としての模試はまだ価値があるのだ、と守森先生が言っていた。なお今回の模試は特定の大学を対象とするやつ。僕の第一志望と納倉の第一志望が同じなので一緒に来ているというわけだ。

 

「納倉は情報取るんだっけ」

 

「一応ね。最近はそういうところも増えてきたから」

 

「いいなぁ」

 

僕は正直な所そっちのほうはあまり得意ではない。そりゃまあ赤点回避するぐらいはできるけどさ。なお納倉は上位ではあるが一位にはなれていない。一位が誰なのかは知らない。あまり知る必要もない。

 

「悠も本来はそういうのやるべきだろ」

 

「今どき情報使えないと研究やりにくいっていうのは聞くけどさ……」

 

そんな話をしながら道を進む。歩いて十分ぐらい。十一月の涼しい風ならともかく、夏とか冬とかはちょっと辛そうだ。そんな事を考えていると目指す大学に到着である。

 

「模試とかで何回か来てるはずだけど、やっぱり慣れないなぁ」

 

「毎日のように通うことになれば嫌でも日常になるぞ」

 

「そうかもしれないけどさ」

 

そう言って警備の人に挨拶して門をくぐる。会場になる建物は奥の方だが、納倉はふらりふらりと脇道にそれている。

 

「おい」

 

「いやちょっと面白そうなポスターが……」

 

そう言って納倉は自動ドアをくぐる。

 

「……立入禁止って書いてないから多少はいいんだろうけどさ」

 

「まあ何かあったら謝ればいいか。何か盗むわけではないだろうし、そもそも模試が始まるまではそれなりに時間あるし」

 

「余裕があるな……」

 

「今日は悠と来たからな。ウチの普段はもっとギリギリになるよ?」

 

「ギリギリって」

 

「春の模試とかは始まってから会場入ったからな」

 

「本番でやるなよ……?」

 

「ウチだってさすがに……断言はしないけど……」

 

「断言してよ」

 

そんなアホな話をしながらポスターを見ている。学会とか、シンポジウムとか。

 

「こういう狭い業界の集まりもあるんだ」

 

あまり聞かない分類の名前がある。虫とかなのかな。

 

「大学入ったらこういう所行くの、楽しそうなんだよな」

 

納倉は少し楽しそうに言う。

 

「別に今から行ってもいいのでは?」

 

「怖いし……」

 

「そういうところがあるんだ」

 

納倉はなんかいつでも僕よりを先に行っていて、失敗とかを気にしないタイプだと思っていたのでこういう弱音みたいなものを聞くと少しだけ変な気分になる。

 

「あとは今はさすがに受験に集中すべきだろ」

 

「まあそれはそう」

 

参加費は……まあ、払えなくはないけど交通費とか色々考えたらちょっとつらい額。やっぱり大学生になってからのほうが時間とかにも余裕が出るしいいのかもしれない。

 

「けどさ」

 

「ん?」

 

「納倉は今の時点でやりたい分野があるんでしょう?」

 

「物理系って方向が決まっているだけで、具体的に何かってのは決まってないよ」

 

「それでもさ、僕よりは進んでいるでしょう?」

 

「あれ、系統学の方面じゃなくて?」

 

「……好きだけどさ、実際に合うかどうかはまた別でしょ?」

 

「ま、それもそうか」

 

僕はスマホを取り出して時間を確認する。

 

「そろそろ行くべきでは?」

 

「まだもうちょい行ける」

 

「納倉がそう言う時はたいてい行けないから行くぞ」

 

そう言って僕は納倉の襟を後ろから掴む。

 

「うー……」

 

恨めしそうな声を出す納倉。僕はこんなことでは絆されたりしないぞ。

 

「で、教室はどこだって?」

 

「さあ。建物入ってからじゃないとわからないと思う」

 

時間が迫ってきたからか、僕たちが来たときほど歩いている人がいない。いや、電車とかの時間の問題かもな。まあそれはいい。

 

多分偶然だが、納倉と僕の受ける教室は同じだ。しかし番号が多少離れているから多分席の場所はちょっと違うのだろう。

 

「なるほどね、四桁の最初の二桁が階数なのか」

 

「まあ、これだけ高いとね」

 

入ってすぐの吹き抜けを見上げるとネットの向こうに扉の並んだ廊下がいっぱいある。もしストレスとかを感じて壊れそうになって飛び降りてもネットが救ってくれたりするのだろうか。救われたくないな。

 

「こういうものがあるってことは、そういことしようとした人がいたんだろうな」

 

「考えたくないなぁ」

 

そんな話をしながら階段を進む。会場は四階。ちょっとだけエレベーターを使いたくなるが、混んでいるやつを待つのと昇るのでは昇るほうがまだマシってぐらいの微妙な高さだった。

 

 

 

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