感情シンタイプ   作:小沼高希

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11月上旬、ラーメン屋、二人で

「……悠?」

 

「っはっ」

 

目を開ける。呆れたような正面の納倉の顔。痛む首。開いている左隣の椅子。減速しつつある電車。

 

「……寝ぼけているのか?」

 

「そろそろ乗り換え?」

 

「そうなるな。もう時間がないぞ」

 

「もう少し早く……いや、起こしてくれてありがとう」

 

やっと回ってきた頭で思い出すと、椅子に座って以降の記憶がない。本当に真っ白だ。つまり相当ストレスがかかっていて、体力を消耗していたのだろう。

 

「いや、まあそれぐらいの愚痴は聞けるからいいけどさ」

 

そう言って納倉はあくびを一つ。なんだ、納倉だって眠いのか。なら一層僕がダメじゃん。

 

「……ほら、立って」

 

「うん」

 

まだ頭がしっかりとは回っていないな。後ろを確認、荷物の忘れなし。乗り換えのために電車を降りる。休日なのもあってあまり人がいない。ふらつく足取りで歩を進める。

 

「悠は夕飯の予定は?」

 

「親が出かけてるからどこかで適当に食べるつもりだったけど」

 

幸いにも今日の模試のための交通費に加えて晩ご飯代として津田梅子を貰っているのである。やったぁ。なお晩ご飯を抜いて本を買うという発想はない。ちゃんと食べないと本を読むための心の余裕がなくなってしまうのだ。

 

「ならウチと食べない?」

 

「いいけど?」

 

誰かと食べるという経験、実はあまりない。守森先生と前に食べたぐらいかな。先生の家でお昼一緒に食べたりとかはちょくちょくあるけど。

 

「よし」

 

「で、何食べるのさ」

 

「何か食べたいものは?」

 

そう返してきた納倉にふわふわの頭で少し考えるが、あまり浮かんでこない。

 

「んー、疲れたからしっかり食べたい」

 

「ラーメンとか?」

 

「しっかりなのかな……いいね」

 

あまりラーメンは食べないのでそういう機会でないと行くことはないだろう。経験値を高めるという点でもいい。

 

「いいお店がある」

 

「知ってるの?」

 

「たまにこのあたり来た時に食べるんだよ」

 

「へえ」

 

ということは納倉はこのあたりに来る、と。確かに乗換駅だし、都心に行くなら通る場所だよな。

 

「悠はそういうお店、ないの?」

 

「あまり一人で外で食べないから……」

 

「そうなんだ」

 

そう言う納倉に連れられて向かうは駅から少しだけ歩いたラーメン屋さん。すこしこってりめだけど、疲れた高校生の胃袋なら大丈夫だろう。というか納倉ってこういうの食べるんだ。ちょっとだけ意外。

 

という感じで流れるように納倉が注文する。僕は納倉よりあっさりめのやつで。トッピングも納倉に合わせる。こういうところは慣れている人を見るといい。

 

「反省会、する?」

 

机に肘を突いて、重ねた手の上に顎を置いたニヤニヤとする納倉が言う。

 

「採点は明日やるけど、ひとまず気になるところだけ話そうか」

 

「ちょっと脂つくと嫌だから思い出せる範囲でいい?」

 

「そうだね、紙広げるほど時間もないだろうし」

 

まあそんな感じで互いに記憶を頼りに問題を言い合う。共通しているのは英語、数学、化学。残り一つの科目は納倉が物理で僕が生物。

 

「英語の長文、なかなか良かったよな」

 

「ああいうSFを入試で読めるとは思わなかったな」

 

「終わった後少し調べたんだが、結構有名な作家らしい。和訳は少ないけど」

 

「あるんだ」

 

あまりフィクションは読まないのだが、ちょっと買ってみてもいいかもしれない。

 

「なんてタイトル?」

 

「えーと、ちょっと待って」

 

納倉がタブレットを叩いて出版社のウェブサイトを出す。名前を覚えておこう。短編集なのか。確かにあれは完結していたし、よくある抜き出されたような文章ではなかったよな。

 

「ウチは単語系がやっぱりダメだな……」

 

「僕だってわからないの、いくつかあったよ?」

 

とはいえ大半は他の単語との類推とか前後の文脈からなんとなく雰囲気自体は推察できた。和訳の意味が微妙に違うぐらいはあっても、真逆ってことはないだろう。

 

「それより数学。納倉は得意だったんじゃない?」

 

「一応全部の問題に最後まで答えっぽいもの書けたけど、どこまであってるか……」

 

「僕は大問の半分ぐらい捨てたのが二つあるからな……」

 

僕たちの志望校の問題は当然のことながらかなり難しいので、別に最後まで解く必要はない。数学がどれぐらい得意かにもよるが、解けるところだけ解いても他の教科が良ければ挽回できる程度の難易度だとされている。逆に言えばしっかり解ける納倉はここの点で有利ってことだ。

 

「化学は今回悠の得意そうなやつが出てたでしょ」

 

「あった?」

 

「金属イオンを分離するやつ」

 

「ああ、あれね」

 

特徴の暗記はちょっと面倒だけれども、それを頭に入れておけば挑めるタイプの問題だ。特定の条件でそのイオンは沈殿するのか、解けるのか、あるいはコロイドを作るのか。コロイドを作るやつなんて一個ぐらいしかないけど。あのちょっと教科書の歯切れが悪くなるやつが好きです。

 

「計算も多かったし、そこらへんは納倉がうまくできたんじゃない?」

 

「まあな、点数は悪くないはず」

 

とこんな感じで一通り感想を言いあった所で、頼んでいたものがやってきたので話は中断。ご飯の時間だ。

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