感情シンタイプ   作:小沼高希

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11月中旬、教室、納倉と

「詩明せんせへのお礼か……」

 

そう言って悩んでいる納倉は少し珍しい気がする。

 

「誕生日プレゼントにでもすれば?」

 

「それもなぁ。どうせウチが聞いても今度食べる時奢れぐらいだろうし」

 

「よくわかったね」

 

「あれ、実際にそういうふうに詩明せんせが言ってたの?」

 

「うん」

 

「ならそれでいいかな。で結局、悠はどうするのさ」

 

「何を?」

 

「詩明せんせに送るもの」

 

「……考え中」

 

「ま、十八になったしそれでもいいけどさ」

 

そう言って僕をじっと見る納倉。

 

「……どういう意味?」

 

「法律」

 

「……理解した。殴っていい?」

 

「もう少年法の適応される年齢じゃないから重くなるよ?」

 

「跡を残さないならいいか」

 

両手の手のひらの付け根あたりで納倉のこめかみをぐりぐりとする。

 

「……思ったより気持ちいいな」

 

「やっぱやめた」

 

「ま、それはともかくそういうのは考えてもいい関係なんじゃない?」

 

「……やめろ、とは言いにくいんだよなぁ」

 

僕も納倉も一応十八になっているから話をする分には問題ないし、校則にもそういうものを禁止するものもない以上いわゆる守森先生と身体の関係みたいなことになるやつの問題は特にないわけで。

 

「一応暴行とか脅迫を手段としてわいせつな行為を行ったらダメだからね」

 

「できるだけそういう言葉使わないように伏せてたんですが?」

 

「ただの法律用語だが……」

 

「解剖学用語なら何言ってもいいみたいなもんじゃないんだぞ」

 

一応この手のトークは納倉となら何回かしたことあるので別に嫌ってほどではないんだけどね。

 

「でもさ、別れるというか関係が途切れる前にそういう経験はあったほうがいいよ」

 

「生々しいアドバイスをどうも。……納倉は?」

 

「ウチが何か?」

 

「そういう経験があるのか、っていう」

 

「さぁねぇ」

 

ニヤリと笑う納倉。ちょっと嫌な感じがするな。これは本能的な変なやつで多分理性的に考えたら別に何でもないだろうけれども。

 

「ま、少なくとも言えるのは今のウチにはそういうことできる相手もしたい相手もいないってことぐらい」

 

「……ちょっとちょっかい出していい?」

 

「どうぞ」

 

「昔はいたの?」

 

「……いた。これ以上はちょっと、ね」

 

「……わかった。アドバイスとして受け取っておく」

 

納倉はまあ顔も悪くないし、僕とは違ってそういう相手がいてもおかしくないような風貌なのだがいないんだな。理由としては人付き合いが悪くて主に僕なんかとつるんでいるからとか、話す内容が相当偏っているからだとか、あるいは性格が悪いか。多分これら全てに加えて僕が意識していない何かが更に問題としてあるのだろう。

 

「いや、そう考えると守森先生も多分問題があるんだよな……」

 

「何からそう考えたかを聞いていいか?」

 

「っ……ダメ」

 

いやこれはまずいって。納倉にも守森先生にもちょっと良くないやつだし。

 

「ちょっかい出されたんだけどなぁ、ウチは」

 

さっきやけにあっさり承諾したと思ったらこのためかよ。いや意図的かどうかはわからないけどさ。少なくとも貸しの一つをさっさと返してもらおうという考え方はあるだろう。こういう貸借は忘れがちだしね。

 

「……ほら、納倉と守森先生を比べてさ、といっても並列にはしにくいけど」

 

僕にとっては半ば腐れ縁みたいなものになりつつある納倉と、再開してから一気に距離が短くなった先生と。もちろん向けている感情も、向けられている感情も別のものだし、そもそも同級生とかつての先生だし、他にも大きく違う点はあるけど。

 

「それで?ウチと詩明せんせが?」

 

「……守森先生の嫌いな所に目を向けたら、多分納倉と同じぐらいあるんだろうなって」

 

「詩明せんせとウチだと……ウチのほうがまだマシだと思いたいところだけど……」

 

「マシって程度なんだ」

 

「ウチは自分の心の色々どす黒い部分からは目をそらしているけど、それでもまあある程度はあるから」

 

「じゃあ、守森先生のよくない所って?」

 

「悠の事を子供扱いしている所、かな。もちろん年齢差はあるし、かつての関係もあるし、稼いでいるのは詩明せんせだけれども、本来そういう関係にあるべき二人が持つべき対等性っていうんが欠けてる気がする」

 

「……そうかな、そういう対等性ってそんなよくあるものかな」

 

「あーこれはウチの思想。そういう人たちはそうであるべきっていう、ある種の独りよがりだから」

 

わからなくはない。色々と価値観が変わってきているとは言え、よくある男女交際でも男性がこうあるべき女性がこうあるべきみたいなのは聞く。同性でさえそういうのがあるらしいのだ。僕は原則好きになるのは女性だからあまり詳しくないけど。ああでも納倉は例外ってしておこう。

 

「……背伸びするべき、かな」

 

「できる範囲でいい気もするけどな。あ、プレゼント代が必要なら貸すぞ」

 

「利息は?」

 

「法定利率マックスでいいよ。連帯保証人もいらない。ただ、あまり何回もそういうことはしないからな」

 

「何回もっていうのは?」

 

「そうすると仕事になって手続きしなくちゃいけないからな」

 

「……納倉ってそういうこと詳しいよね」

 

「調べてるだけだし、大半はこいつの受け売り」

 

そう言って、納倉はタブレット端末をぺちぺちと叩いた。

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