感情シンタイプ   作:小沼高希

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11月下旬、守森先生の家、二人で

今日は宿題をなんとか昼前に終わらせることができたので、のんびりと時間をかけて先生と食べる昼食を作ることができる。

 

「ピタカを作ります」

 

「なにそれ」

 

「そういう料理です。実際にできるものは一般的なピタカと違うかもしれませんが」

 

準備するのは鶏むね肉。丁寧に脂とか血の塊とかを取る。洗ったりすると汚染が広がるので、できる限り触れる場所を最小限にしたりしておく。

 

「……語源はイタリア語。各地で薄めの肉を焼く料理の総称として用いられる……」

 

「つまりはレモン風味の鶏肉焼きってことです」

 

むね肉にフォークで皮をぷすぷすとしておいて、塩と胡椒を振っておく。下味をつけておけば多分いいだろう。冷蔵庫の中に卵と粉チーズがあることは確認済みだ。ああでも汚染された手で取るのもあれかな。

 

「おいしそうだね」

 

「前に家で作ったことがあるんですが、けっこういい出来だったので」

 

レモン汁は買ってきた。小麦粉はストックがある。薄力粉だったかな。ゴミ箱に捨てられている袋とかの情報を見れば、案外先生の食生活の断片を見ている気がする。ここから判断するに先生は一品作って、追加でたまに惣菜を買ってくる感じ。場合によっては多めに炒め物とかを作って二日に分けて食べるとかもしている。

 

カレーを作る時はあまり量を作らないから冷蔵庫には半分だけ使われたルウがある。鍋は洗われるけどシンクのところにある水切りかごに放置されることが多い。生ゴミはちゃんと出されているらしい。

 

こうやって見ると、多分僕が一人暮らしをしても守森先生の水準になるまでにはそれなりに時間がかかるだろうなと思う。こういうのは長い経験と失敗を積み重ねてきて得られるものだ。

 

ボウルに卵と小麦粉とチーズを入れて混ぜ、大きめのフライパン一枚の全面を覆うような大きさに薄くされた鶏肉を漬ける。分量は問題なさそうだ。

 

「ピタカとご飯?」

 

「そのつもりですが」

 

「うーん野菜成分……冷凍庫にほうれん草があるから、適当にお湯沸かしてコンソメとそれいれてスープ作ってもらえる?」

 

「いいですよ」

 

コンロは二口ある。鶏肉一枚目を焼いて、火が通るまでの間にお湯を沸かして、いい感じになったら冷凍ご飯を温めておく。多分これでいいはず。

 

「それにしても手際が良くなったね」

 

「わかるんですか?」

 

「音で」

 

「そういうものですか」

 

「戸棚を何度も開けない。冷蔵庫を鳴らさない。火を強めたり弱めたりを頻繁にしない。そんなところ?」

 

「そう言われるともっと効率化したくなってきます」

 

「ほどほどにしなよ」

 

そんな話を聞きながらサラダ油を引いたフライパンににんにくの欠片を入れて火をつける。家だとIHなんだよな。

 

「あ、いい匂いがしてくる」

 

「換気扇回し忘れてました」

 

スイッチを押すと、静かな音がして熱気が抜けていく。少し色のついたにんにくは取り出して僕の分のピタカを乗せる皿に移し、熱くなったフライパンに鶏肉を投入。跳ねる油の音。後で拭いておかなくちゃな。

 

冷凍ご飯を電子レンジに投入。お湯が湧き始めたので冷凍されている塊のほうれん草を軽く砕いて投下。どうしてもまだどこかが効率化できるような気がするよな。例えば火をつけてから衣をつけても良かったかもしれない。ああでもそれだと一回手を洗わないといけないからな。面倒だ。

 

少し音が変わって、電子レンジが加熱終了を知らせる。多分まだ温まりきってないので、ラップを外して茶碗に入れて再加熱。そうしているとちょっと沸かしすぎたスープとフライパンとくっついている面の茶色が強くなった鶏肉が僕を急かす。

 

「手伝おうか?」

 

僕の手際が悪くなったのを感じたのか先生が声をかける。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「ならいいんだけど」

 

「ああでもそろそろできます」

 

「わかった」

 

ひっくり返してちょっと焼きすぎた気もするけど十分許容範囲の鶏肉を確認する。下味はまあ塩胡椒でつけてあるし、これとレモンだけでもけっこういけたのでそれでいいだろう。マヨネーズかけてもおいしいけど、それはちょっと色々と味を殺してしまう気がする。

 

「来たよ、んー、これならフォークがいいかな?」

 

「箸でもいいですよ、切りますので」

 

「……どのまな板使うの?」

 

「あっ」

 

「ま、皿の上でペティナイフ使えばいいよ。じゃ色々出しとくね」

 

そんな感じで、ご飯ができる。ちなみに先生が作ってくれたことはあまりない。別にいいんだけど。

 

「おいしそうだね」

 

「きっとそうですよ」

 

「……君の分は?」

 

「これから焼きます」

 

「待とうか?」

 

「温かいのを食べてほしいので」

 

「ならお先に」

 

ちょっと多くなったフライパン内の油をキッチンペーパーで拭いて、僕の分の鶏肉を投入。

 

少しだけ余裕が出てきたので、僕の方の焼き加減は目指す完璧な水準に持っていこう。時間とかちゃんと計測してもいいんだけれども、キッチンタイマーとかをセットするのも大変なので。

 

「おいしい!」

 

「ありがとうございます!」

 

少しだけ、先生が先に食べていることに変な苛立ちが出る。まあこれは多分お腹が空いているからだ。こういう時の変な気分は、どうせ食べたら消えるので問題ない。

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