感情シンタイプ   作:小沼高希

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12月中旬、教室、納倉と

ありがたいことに授業で共通テストの過去問を扱ってくれている。なお去年のうちにやってしまったのであまり面白くないんだよな。その時間を使って別の時代のものを解いていく。全体の時間配分よりも、今は細かい知識をすっと引き出せるかどうかにかかっている。

 

生物の分野は、まあそんなやらなくていいだろう。むしろ国語や社会のほうが問題だ。ちなみに僕が選んだのは倫理、政治・経済。お得パックだ。ひとまず一通り解いて覚えてしまえば似たような問題が多く出てくるので楽である。なお納倉は地理。暗記少なめだからとか。

 

「んー」

 

そういうわけで今日授業時間を使って解いた問題たちの採点。先生には少し失礼なことをしている気がするが、化学と生物の授業なら別にいいだろう。昔は進学クラスというのが上位だったこともあったらしい。本校ではなんか変なアルファベットでランク分けがされている。まあ三年一組だと覚えておけばいいのだが。

 

「調子は?」

 

「まあこの時期にしては悪くないかと」

 

こういう分野は何回かやっていくとコツを掴んで点数が伸びていくのが嬉しい。すぐ頭打ちになるけど、これは定着能力が高いということにしておこう。

 

「そうか、ウチはちょっとまずいな」

 

「どこらへんが?」

 

「現代文と古文と漢文」

 

「国語の全部か」

 

とはいえ僕だって国語がそこまでいい成績な訳ではない。古典単語帳を読み始めたけど実際の問題解かずに暗記だけというのもつらいしね。

 

言っておくが、僕は確かに暗記が得意だが好きというわけではない。覚えたことは使って初めて意味があるのだ、という考えの持ち主。納倉はそもそも何かを覚えるのが苦手だ。

 

「というか現代文なら行けるのでは?」

 

「常識を働かせつつ微妙な言葉遣いの違いを見分けなくちゃいけなくて……」

 

納倉が珍しく弱気だ。まあ僕だって自信があるわけではない。

 

「もう一ヶ月切ってしまったしね」

 

僕はそう言ってスマホを取り出して日付を確認する。そして共通テストが終わったら二次試験の準備だ。

 

「資料室で過去問印刷しておくか、腕鈍ってもあれだし」

 

納倉が言う。なお資料室というのは少子化で空いた教室に参考書とか過去問とか模試を詰めてプリンターが置かれた部屋のことだ。著作権の何かが危ない気がするが、個人利用の範囲とかのあれできっとどうにかなる。どうにかなってくれ。

 

「やるひとは過去問を数十年分やるらしいけど」

 

「そりゃそれだけやれば合格できるだろうけどさぁ」

 

別にそこまで背伸びしてまで第一志望に入らなくちゃいけないほど僕たちは追い詰められてはいない。もちろん学費だとかは安くなるかもしれないけど、それを言えば近くの大学の特待とかそういう方法もあるわけで。

 

「……疲れてきてない?」

 

僕は正面の納倉の顔を見上げて聞く。

 

「ま、あと二ヶ月ぐらいならなんとかなるでしょ、あとウチは天才だし」

 

納倉がこんな言い回しをするのは少し珍しい気がする。逆にい言えば、ここまで言葉で自己肯定感をか高めておかないと心が折れそうってことか。

 

「僕で聞ける話ならしていいからね」

 

「受験控えた高校三年生に重い話をするほどデリカシー無くしたつもりもないんだが、まあありがたく言葉だけでも受け取っておくよ」

 

「それはよかった」

 

僕だって一応守森先生に話をすることぐらいはできるし、それで気分はかなり楽になるけど先生のほうに負担がかからないか心配になる。

 

「……本当に来るんだね、受験」

 

今まで遠くにあったようなものが、あと二十九日という片手で数えられるほどに近づいてきたことを自覚してしまう。

 

「推薦にも逃げられない。ま、安全校があるだけウチらはマシだと思おうか」

 

「落ちた所で死ぬわけでもないしね」

 

まあ、世の中には特定の大学に入って大学院に行ってみたいなことをしないと認めないみたいな家庭もあると聞く。幸いにも僕も納倉もそういうところでは育っていない。

 

「……先生と会うのは、共テまでであと四回」

 

「毎週会うの?」

 

「いや別に会わない理由はないし」

 

「んー。ま、いっか。一応受験生相手だから少しは配慮するよう詩明せんせには伝えとくよ」

 

「……おせっかい焼きめ」

 

「楽しいからな」

 

正直に言えば、僕は受験という結構精神に負荷がかかるイベントを納倉と守森先生と共に経験できることをありがたく思っている。もちろんストレスを二人に押し付けようとかそういう意味じゃなくて。

 

それはそうと、僕は僕を信じてやる必要がある。落ちてもどうにかなるとかいう考え方は他の面倒な記憶とか考えとか想いとかが詰まった場所にしまっておこう。

 

大丈夫。残り時間は短いけれども、十分な点数を取って二次試験でもいい点を取れる。僕ならできる。夏休みの時から勉強しなかった日はないしな、と思いたいがあれを勉強カウントしていいのか怪しい時もある。

 

ま、いける。いけるはずだ。

 

「よし、見直しするか」

 

改めて手元の点数を見る。悪くはないと言える水準よりまだ下だ。もう少しこの教科はやり直してきちんと定着させておかないと。

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