感情シンタイプ   作:小沼高希

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12月中旬、守森先生の家、二人で、つづき

触られて、温かい感覚が身体をぐるりと回る感覚。少しだけ意識が戻ってくる。眠っていたいのに。

 

「……動かないでくださいよ」

 

僕の唇からこぼれる息がなんとなくそんな形に動いて、少しだけ何かが物足りなくなる感じがして外の世界が僕を邪魔するのを止める。

 

ありがたい。これでまたゆっくりできる。ぼんやりしながら何の温かさだろうなだろうなとか考える。却下できるだけの思考が働かないので、怪しいものは全部可能性に入る。ふわふわ。守森先生とか。

 

「せんせ、いっ……」

 

一気に全身に血流が回る感覚。上体を起こして、変な音がして、痛みが少しだけ遅れてやってくる。

 

「えっどうした急に」

 

先生の心から驚いたような声が聞こえる。見える天井と覗き込むような先生から、今いる場所を少しづつ思い出していく。

 

いつもみたいに先生の家で過ごしていて、珍しくベッドで一緒に横になって、かなり本格的に寝ていたらしい。

 

「……いたい」

 

「いい音したものね」

 

先生は僕のぶつけたあたりを軽く撫でる。

 

「切れて血が出ているとかじゃない、触った感じでも大丈夫そう……一応しばらくは気をつけて」

 

「何に、ですか」

 

「くも膜下出血とか」

 

「血が頭の中で出るやつでしたっけ……」

 

「そ。いきなり変な痛みとか症状とか出るから誰かの近くにいてね」

 

「なにかあっても対応できるように、ですか」

 

「そういう感じ」

 

そう言って先生は僕の傷口のほうに口を近づけ、舌打ちのような音を鳴らす。

 

「……あの、あまりちゃんと毎日洗っていますけどあまり綺麗なものじゃないと思いますよ」

 

「いやそりゃ口の中は綺麗じゃないでしょ」

 

「傷口の清浄とかじゃなくて……血は出てないんですよね」

 

「うん。音だけが派手だった」

 

エネルギーの多くがそっちに流れたとかそういうふうに解釈しておこう。

 

「なら、いいです。あと……そういうこと、するんですね」

 

「そこまで変なことだった?嫌なら謝るけど……」

 

「僕がそういうの嫌がらないって知ってますよね」

 

「バレた?」

 

ちょっといたずらっぽく先生は微笑んで、僕の手と指を絡ませる。ほら、こう言うことされると僕は弱いんだ。

 

「……僕も先生にそういう事しますよ」

 

「あまり見える場所に皮下出血の痕作ってほしくはないから、そこは注意してね」

 

そう言いながら先生は指をぎゅっと締めてくる。熱が伝わってくる。動けない。逃げ出すこともできない。

 

「……っ」

 

多分僕は赤くなっているんだろう。毛細血管が開いている感覚ってこういうものだったんだろうか。知らない。勝てないと本能が言っている。

 

「ねえ、鹿染さん」

 

「……はい」

 

「ちょっと弱すぎない?」

 

「先生が、その、綺麗で、特別で、こういう格好で近くにいると……」

 

「嬉しいこと言ってくれるよね、君は」

 

こういう呼び方を先生はあまりしない。もしかしたら僕のことを恋人として見るときだけそういう呼び方を使ってくれているんじゃないかとか考えてしまう。一方僕の方は、まあ、あまりいい言葉がない。

 

「……ずるいです、あなたは」

 

ちょっとだけ、仕返しだ。前にこうやって呼んだ時に先生は思っていた以上に混乱していた。今回はどうだろうか。

 

「そういうこと言うんだ」

 

あ、ちゃんと認識してくれた。僕を見てくれていた。嬉しい。脚をばたつかせたいが、先生の下半身が絡んでいてうまく動かせない。ああ謎の圧迫感ってこれが原因か。

 

先生が 僕に見えるように舌を伸ばす。赤い。先生はあまり口紅をつけない。今もつけていない、はず。どうだろう。正直化粧はしているのかしていないのかわからない時でも結構念入りにしていることがあるとか聞くし、分からない人がとやかく言うべきじゃないな。

 

でも先生なら外出しなくていいならそういうことあまりしない気がする、ということには脳内であまり有効な反論が出てこなかった。

 

先生がシャツを引っ張っている。

 

軽く歯が喉に立てられる。

 

チスイコウモリはこうやって傷をつけて血を舐めるんだよな、とかいうどうでもいい知識が頭の中に巡る。せめてそれより先に吸血鬼の伝承の方が出てくるんじゃないのかな、普通は。確か噛まれた人は忠実な下僕になるとかだっけ。詳しくは知らないけど。

 

何箇所か、ゆっくりと軽く舐められていく。

 

痛くはない。傷も多分残らないだろう。ちょっと物足りない気がするけど、それ以上になんとなく幸せだ。多分こういうふうに血を吸われて死んでいくんだろうな。

 

「かわいい声だよね」

 

声とか出していたんだろうか。ぼんやりした頭ではあまりわからない。ああでも喉が震えてるってことは、そうか。色っぽいなとか思ったけど男子高校生のこういう声に需要があるんだろうか。

 

「……そう、ですか?」

 

「そうだよ。もっと聞かせて。我慢しなくていいから」

 

そう言われると、多分無意識下で絞っていた息の量が多くなってしまう。呼吸の頻度が上がる。先生と身体のいたるところが接している。舌が僕の動脈に沿ってつーっと走る。

 

「嫌じゃないよね?」

 

「……はい」

 

大丈夫。もし嫌なら僕はちゃんと逆らえる。自分でもちょっと怪しくなる言い訳をしながら、僕は先生に齧られ続けていた。

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