感情シンタイプ   作:小沼高希

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12月下旬、自宅、一人で

『あのなぁ』

 

電話口の納倉の声は呆れ混じりだった。

 

『言いたいことがええと、三つか?』

 

「はい」

 

電話をかけたことを今になって後悔し始めている。ああ、だから素直に寝ておけばよかったんだ。

 

『まず一つ、先にメッセージを送って許可を取っているとはいえ深夜にこういうのかけてくるのは普通に良くないと思うが?』

 

「高校生が親しい友人と寝るまで話すの、そう珍しいことではないのでは?」

 

『……まあいいか。一応それについてはウチもいいよって言ったわけだし。二つ、勉強はどうした』

 

「一応それなりに解けたよ。なんとか合格圏内には入れそう」

 

『ならいいんだが、記憶定着とかを考えると早く寝るべきだぞ』

 

「……わかってはいるけどさ」

 

『どうせ頭が冷めきってないんだろ。普通なら今から外行って来いって話なんだが、まあいいか』

 

「気分悪い?」

 

『蕎麦を食いすぎてちょっと吐きそう』

 

「馬鹿?」

 

『真実は必ずしも人を幸せにしないぞ』

 

なんだかんだ、納倉は変わらない。こういうちょっと危ないところのある馬鹿な話をできるだけの関係性を築けているのは、僕にとって納倉だけだ。守森先生とはちょっと微妙なところがある。そういうのじゃない、と言えばいいだろうか。

 

「これで二つだよね、あと一つは?」

 

『年越し会話とかは本来恋人とするべきものだろうがよ!』

 

「守森先生が寝ちゃったんだから仕方ないでしょ!」

 

そう。納倉に話す前しばらく守森先生と話していたのだが、静かになったと思ったら静かな寝息が聞こえてきたので切った。それでもまだ目が冴えてきて寝る気にはなれなかったのもあって納倉にメッセージを送ったのである。

 

『……なら仕方がないか』

 

納倉は納得したようです。よかったよかった。

 

「まあもし眠いなら切ってくれてもいいから」

 

『いやいいよ。……調子は?』

 

「さっきも言ったけど、悪くないよ」

 

『点数はともかく、精神の方は色々とあれだろ。熱とか出してないか?ちゃんと睡眠時間取れているか?悠は比較的思い詰めるタイプだけれども、詩明せんせとちゃんと話しできているか?』

 

「心配性だなぁ。納倉は僕の親か恋人か何か?」

 

『……友人だよ』

 

「そうだった」

 

『……ウチは、ちょっと辛いな』

 

「どういうこと?」

 

『どうしても受験して大学行った所で何になるんだとかとか、どうせウチの実力だと受からないから今からとっとと諦めろとか』

 

「……それは辛い」

 

納倉は僕と違って、かなり自由な発想ができる人間だ。僕でさえ苦しむのに、その思考力が自責とか負の方向に向いたらそれはかなりキツいだろう。なおこの話を聞きながら僕もダメージを受けています。ちょっと数字を持って考えています。正直まずいです。

 

『けどさ、まあ悠だって頑張っているんだしウチなら余裕かとも思えて』

 

「納倉にとって僕って何なのさ」

 

『悠がウチの事をどう思っているかと同じ答えでいいよ』

 

なら素直に言えば悪友かな。それ以上はちょっとこの深夜の心情では考えたくない。特に本人と話している最中には。

 

「正直、納倉が僕の事心配しているのはわかるけど僕もそれなりに納倉が大丈夫かなって思うことはあるからな」

 

『……言い方が少し引っかかるけど、ありがとな』

 

「心配するだけで、何もできないけど」

 

『話ができるだけで相当気が楽になるものさ。っと、そろそろ時間だな』

 

「ああ、確かに」

 

時計を見る。もうすぐ年が終わって、年が始まる。別にこの日が天文学的に特別な意味を持つわけじゃないけど。

 

「ねえ、納倉」

 

『何だよいきなり名前を呼ぶなびっくりするだろ』

 

「納倉はさ、今年良かったことってある?」

 

『……あんまないな。色々あったのは覚えているけど、良い悪いを今の時点で言うのは避けたい』

 

「そう」

 

『悠はどうだ?』

 

「まあ守森先生との話かな」

 

『なるほどね。もう半年になるのか』

 

「……まだ半年、なのかな」

 

『ま、べつに別れても同意さえあればいいんじゃないの?』

 

「いやそうだけどさ……」

 

別れたいわけではないけど、そういうことを考えてしまう時ぐらいはある。でもまあ、不干渉に留めるとか鍵を返すとかすればいいわけで、そんな一気に関係を無にする必要はないはず。向こうがそれでいいって言ってくれれば、だけれども。

 

『ま、受験期に余計なことで悩むなという話ではあるが』

 

「それができたら僕も納倉も苦労しないでしょ」

 

『そうなんだよな……』

 

スマホの向こうから溜息が聞こえてくる。思春期のこの手の問題は面倒で、きっと時間が経ったらなんであんなどうでもいいものに思い詰めていたのかとなるのだろう。今の僕にとって小学生の頃の悩みが馬鹿らしく見えるように。

 

「あ、もう過ぎてた」

 

『何が?』

 

「時間」

 

アナログ時計を見ると、長針が短針を少し前に追い越していた。

 

『早く寝ろ』

 

「はいはい」

 

そう言って電話が切れる。確かに心が落ち着いて、身体に疲れがやってきた。一年の最初ぐらいはゆっくり寝よう。なんか昨日も一昨日もちょっと起きるの遅かった気がするけど。

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