感情シンタイプ   作:小沼高希

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1月上旬、教室、納倉と

「……目の下、相当やばいぞ」

 

年明けの納倉は、かなり調子がよくなさそうだった。

 

「いや、わかってる。わかってるから」

 

「……納倉なら共テの内容ぐらい余裕だろ?」

 

「少し二次の方に手を出したんだよ。そうしたら全然解けなくなっていて」

 

一瞬だけ怖くなる。共通テストと二次試験は問題の方向性がかなり異なる。まあ基礎的な計算方法とか公式とかは共通だけどさ。

 

「……ねえ、それを解いたのっていつ?」

 

「昨日の夜……いや、今日か?」

 

「寝ろ」

 

理由がシンプルすぎた。

 

「……そう、だよな」

 

「そうだ」

 

ちょっと語気が強くなってしまう。前に納倉に寝不足を指摘されたのを思い出す。たぶん、あの時も外から見れば今の納倉と同じぐらい消耗していたのだろう。

 

「ところで、納倉はどうしてそんな思い詰めているのさ」

 

「……個人的な問題が一つ。これは別に悠には関係ないやつ」

 

「そう。いつでも聞くからね」

 

「ありがと。で、もう一つはあまり伸びない英語の点数」

 

「理由はわかる?」

 

「単語……」

 

「ああ……」

 

納倉は暗記というものが基本的に苦手だ。確かに色々な方面の知識はあるが、細かいところが曖昧だったりする。前にならどうやって物理の公式を覚えているんだと聞いたら単位を見ればわかるだろうと言われた。あとは用語の意味から思い出すらしい。なんだそりゃ。

 

「……わかっちゃいるけどさ、後悔しても意味ないなんてわかってるけどさ、それでも、やる気が抜けていって……」

 

「あと半月だろ」

 

「そういってごまかしてもあと一ヶ月伸びるわけで……」

 

そう。今の僕はなんとか眼の前の共通テストを終わらせることだけを考えているがその先もあるのである。なおそれを考えると心が折れるのでなんとか目をそらしていたが、限界があるらしい。

 

「……息抜きする?」

 

「悠は試験勉強をするべきだって」

 

「いや別に良く考えたら今の時点での成績でも滑り止めには受かるかなって」

 

共通テストだけで行けるここからそう遠くない大学を一つ出願してある。偏差値とかはともかく、守森先生が言うにはまあどうせ君は大学で人間関係あまり作らないだろうから問題ないよとか言われてしまった。ええそうですよ僕は高校でも友達一人しかいませんよ。

 

「……まあウチもそれはそうだけどさ、だからといって手を抜いて良いわけじゃないだろ」

 

「納倉を放置して自分だけいい大学受かるのは、ちょっと後々関係性に響きそうだなって」

 

「ウチがそういうの根に持つタイプに見えるか?」

 

「特に気にしてないけど定期的にネタにして僕の精神を削ってくるタイプ」

 

「……悠はさ、たぶんウチよりもウチのことを理解しているよ」

 

「あまり理解したくもないんだけどな……。それに数少ない友達だしね、つながりは大切にしておきたい」

 

「大学入ってまで友達作らずにウチとだけつるむのか?」

 

「いや、同じところ行くけど学科は別でしょう?」

 

納倉は物理。僕は生物。まあもっと細かい志望はあるけど、それを選ぶのは入学してからしばらく先だ。

 

「……そうだな。いや今の関係が楽で新しい場所が怖いのがある」

 

「どちらにしろ高校生活はもう終わるぞ、授業もあと数えるほどしかないし」

 

進学校らしく、新年になったらもう授業はほとんどない。共通テストの採点会とかがメイン。一応推薦とかで入学決まった人は今のうちに自動車免許取ったり第二次修学旅行行ったりしているらしいが、あまり関係ないな。

 

「……嫌だ、な」

 

ぽつりと、納倉がこぼす。

 

「嫌でも終わるんだよ」

 

「わかっているけど、それはそれとして愚痴を言うぐらいいいだろう?」

 

「……それは、そうだけどさ」

 

何を言ったって、時間が過ぎるのは変わらない。あと数分でチャイムが鳴って、あと数日で共通テストで、あと数週間で二次試験で、あと数ヶ月で大学生だ。なれるはず。

 

「……ウチはさ、後悔とかそういうのに弱いんだよ」

 

「納倉はあまりそういうこと気にしないかと」

 

「表に出さないだけ。まあ悩みみたいな定量化できないものを他の人と比較する意味はあまりないけどさ」

 

気がついていないだけで、他の人もかなり辛い可能性がある。あるいは、辛そうに見えるけど案外僕みたいに楽だったり。いや決して楽ではないけど他の人に比べたらちょっと心に余裕があるのは事実だし。

 

「……そう」

 

「悠はいいよな。抱いてくれる相手がいるもの」

 

「……言い方、それでいいの?」

 

「抱きしめてって言うような関係だろ?何の問題が?」

 

ニヤニヤと言う納倉。あ、いつもの調子が戻ってきたな。納倉にとって僕と守森先生の関係はいじるためのものなのだろうか。嫌じゃないけど。

 

「はいはい、そういう関係ですよ。……あまりこの話しないほうがいい?」

 

「いやウチが始めたし、そもそもそういうのはもう吹っ切ってるから別にいい。きっと大学入ったらいい出会いがあるに違いない」

 

「そうかなぁ……」

 

「高校でだって悠みたいないい人に出会えたし、なんとかなる!」

 

「まあその元気があればいいんじゃないの?」

 

「元気じゃ英語の点数は伸びないんだよな……翻訳機使わせろ……」

 

納倉はそっち系使うのが得意だから実際のコミュニケーションには問題がないはずなんだが、試験ではそこらへんを測定できないのはどうにも片手落ちだなぁと思いながら、僕は励ますために納倉の背中をぺちぺちと叩いた。

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