感情シンタイプ   作:小沼高希

76 / 100
1月中旬、駅、三人で

「お久しぶり」

 

後ろを振り返ると先生がいた。ここは先生の家の最寄駅の改札口。

 

「……遅い時間に、すみません」

 

「いいのいいの!ねぎらいだよ!」

 

六時ちょっと過ぎに試験会場を出て、そこからここまで一時間ちょっと。そうして、今年初めて先生と会う。

 

「納倉はもう少し経ってから来るようです」

 

そう。納倉も来るのである。というか三人で会うの、かなり久しぶりではないだろうか。半年とかそのくらいの。というか今まで一回しかなかったような。納倉とは学校で顔を合わせていて、週末に先生の家に行っていたから感覚が狂っているな。

 

「わかった。どこにしよっかな……」

 

「決めてなかったんですか?」

 

「納倉さんが来てからでもいいかなと」

 

「それもそうですね、それと何かありました?」

 

「あまりないよ、年末進行はあったけど」

 

「なんですか?」

 

「年末には印刷とかデザインとかが止まるから、それに合わせて色々と早回しになるの。まあ原稿が上がってこないと出版社側としても何もできないんだけどね!」

 

「……お疲れ様です」

 

「いいのいいの。高校と違って残業代も出るし」

 

「……出なかったんですか?」

 

「出なかったねぇ。一応手当はついていたし、昔に比べて仕事量は少なくなったらしいけどそれでもまああれだけ働いてあれだけの報酬と環境だと、さすがにね」

 

少なくとも、守森先生にとっては高校の先生というのは大変な職だったらしい。そう言うのに向いている人はいるらしいけれども。

 

まあそんな感じで話していると、電車が止まったのか人混みがやってきた。夕方のラッシュは過ぎているが、それでも人は多い。

 

「この電車?」

 

「だと思います」

 

「そうだよ」

 

守森先生と僕の横にぬるりと納倉が入ってくる。なんだその気配の隠し方が。正直かなり驚いたぞ。

 

「待たせた?」

 

「僕が来たのは一本前」

 

「私はどうせ散歩ついでだったし」

 

「もう少しタイミング合わせられればよかったんだけど」

 

そう言って納倉は笑う。

 

「……どこか食べに行こうって言われたけど、決まってるの?」

 

守森先生の方を向いて言う納倉と、首を振る先生。

 

「あれ、納倉って守森先生と会うの久しぶりじゃないの?」

 

「まあ一ヶ月ぐらいぶりだけど」

 

「えっ」

 

「あー……」

 

僕の驚いたような声にちょっとバツが悪そうな顔で先生が目を背ける。

 

「……どうせ深くない理由があるんでしょうけれども、聞いていいですか?」

 

「いやちょっと色々と相談を納倉さんにね……」

 

「納倉はどうして僕にその事を言ってなかったの?」

 

「必要がないからだが?」

 

なるほど。一旦落ち着こう。試験中のあのテンションがどこかにまだ残っていて、興奮気味のところがある。最近はずっとこうだ。なにか鎮静作用のある薬でも使ったほうがいいのかもしれない。具体的にどういう物があるかの最低限度の知識はあるが合法ではないししばらくそうなる予定もないので気にしなくていいか。

 

「その話はご飯食べたら聞く。いい?」

 

「いいよー」

 

僕のちょっと怒気混じりの視線を納倉はサラリと流す。

 

「で、どうせ決まってないんでしょう?まあ二人はそういう所あるけど」

 

よく先生と僕のことを納倉はわかっているじゃないか。

 

「まあそう。というわけで納倉さん、何かいい案無い?」

 

「ウチは今日はとんかつ食べたい」

 

先生が顎に手を当てる。多分今頭の中で財布の中身と高校生二人の食欲と今後の予算と共通テストの終わったお祝いとを色々勘案しているところだろう。

 

「いいよ、ただし今度出す本の相談に乗って」

 

「よっし」

 

嬉しそうな納倉。

 

「どういうことですか?」

 

「そうすれば経費になるからね、一応会社のお金で……」

 

僕の質問に守森先生が悪い笑顔で答えてくれる。なんと先生は自分ではなく務めている会社に奢らせるという方法を取るらしい。すごい。

 

「で、この近くにそういうお店があるの?」

 

「チェーンで良ければ案内しますよ」

 

そう言って納倉はタブレット端末に表示された地図を見せる。ここから歩いて十分ほどの場所だ。そう遠くない。

 

「……納倉って、このあたりにそんな詳しかったっけ」

 

「一応電車の中で調べたりしてあるんだよ、あと何回かオフ会したことあるし」

 

「オフ会?」

 

「ネットの知人と会うこと。オンラインじゃなくてオフラインだからって所から来ている」

 

解説してくれるのは先生。

 

「なるほど」

 

納得だ。納倉はそっち方面の知り合いはそれなりにいるらしいからな。僕はいないので、ちょっとだけ妬いてしまう。

 

「二人とも、お腹空いているの?」

 

「ウチはそれなりに」

 

「僕も」

 

「んー、大丈夫。私も今日はさっき起きた所だからいっぱい食べれる」

 

「……あの、先生?」

 

「なに?」

 

「もしかしなくても僕が来る時って、わざわざ起きたりしてます?」

 

「別に苦じゃないんだけどね。ああでもそれはそれとして寝るのは格別だな……」

 

まあ、確かに僕だって先生の家に行かないとなったらそれはそれで勉強とかするわけだし。それはそういうものだと割り切ってしまいたい。とはいえやっぱり、先生が僕と会っていない時間を楽しんでいたり僕以外の人と時間を過ごしていたりということを考えると嫌な気分になるな。避けられないものだっていうのはわかっているけれども。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。