感情シンタイプ   作:小沼高希

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1月中旬、レストラン、三人で

「つまり先に全体を説明した上で、なんでそういうことをやるのかをやったほうがいいかと」

 

「そうすると高校の学習指導要領を見直さなきゃな……」

 

食べかけのとんかつを脇に、納倉と守森先生がかなり真剣な顔をして紙の上に色々と書き込んでいる。ところで納倉、気のせいかな、その使ってる紙って今日の共テの問題用紙じゃないか?油で汚れないかちょっと心配。

 

「詩明せんせって先生だったわけだよね?」

 

「もう細かいところは忘れてるし授業は教科書準拠だったから」

 

「えっ」

 

僕の言葉に二人が視線を向ける。

 

「なに?」

 

「いや、守森先生ってあまり教科書に沿っていなかったようなって」

 

「かなり教科書をなぞっていたような気がするんだが……」

 

首をかしげる納倉。ふむ。何か変なすれ違いが起きていそうな気配がする。

 

「守森先生はどうですか?」

 

「教科書はあまり使わなかったけど、基本的に教科書を読めるようにする授業をしていたよ」

 

「どういう意味です?」

 

「教科書ってさ、かなりよくできているんだよ。もしその分野をちゃんとわかっていれば、教科書を読むだけで体系的に学ぶことができる」

 

「最初にその分野をわかっていたら教科書いらないのでは……」

 

「そうなんだよね。だから授業でざっくりやって、後から教科書を読めばいいようにした」

 

「なるほど……」

 

「まあ詩明せんせは昔からそういう説明省略しがちだったし」

 

「反省しています」

 

しゅんとする守森先生。なんか悪いことをしてしまったような気がする。

 

「そういえば、納倉と先生ってそれなりの頻度で会ってたの?」

 

「そんなでもないよ、一月か二月に一回。連絡はそれなりにやり取りしていたけどね」

 

そう言って納倉は水を飲む。

 

「話していた内容は?」

 

「普通に理科とか、あとは悠のこと」

 

「まあそうか」

 

ええ、別に先生が浮気しているとか思っていませんでしたとも。そこまで甲斐性あるか怪しいし、そもそも元教え子に手を出すようなヤバい人じゃないって信じてますからね。

 

「……納倉さん、その話続けるつもり?」

 

「ウチは別に悠が聞きたいなら話してもいいかなと」

 

「やめて」

 

「えー」

 

「納倉、ほどほどにしろ」

 

「はいはい」

 

まあそんな感じである。どうせ僕が納倉に愚痴とか惚気吐いたみたいなやつを先生も納倉にやっていたのだろう。大変だな本当。

 

「で、共通テストはどうだったの?」

 

先生が少し冷めたとんかつの残りを食べながら言う。

 

「まあ、ウチは、なんとか」

 

「僕の方も、悪くはない、はず」

 

「……なにか追加で頼む?どうせ経費だからいっぱい食べな?」

 

「詩明せんせはウチらみたいな高校生のことをいっぱい食べれば悩みがなくなる年頃とか思ってません?」

 

「少なくとも私が学生服を着ていた頃はそうだったよ」

 

そうか、先生も高校生だった頃があるんだよな。なんというか、会った時には先生で、ずっと歳上なわけだから過去があるっていうことを考えるとワンテンポ遅れてしまう。

 

「ま、ならウチはお言葉に甘えさせていただきます。ちょっとこの鶏皮唐揚げってやつ食べてみたくて……」

 

納倉は食べる時には食べるんだよな。運動あまりしているところを見たことがないし体育の授業は僕と同じでサボリ気味だけど摂取したカロリーはどこに消えているんだろう。体型もすらりとして小柄だし、あまり脂肪がついているようには見えない。っと、他人のそういう事をとやかく言うのは野暮だよな。

 

「まあでも遅くなったけどお疲れ様!前期日程は来月末だよね?」

 

「そうですね、なのであと一ヶ月以上あるわけで」

 

そう言いながら、一ヶ月前のことを少し思い出そうとする。十二月の中頃というと、確か先生に首元のあたりを重点的に齧られたのがそのくらいじゃなかったかな。思わず着ているシャツの一番上のボタンを締めてしまう。

 

「ところでさ、こういう所がいいって言ってわかる?」

 

「否定はしませんね」

 

僕の喉に視線を向けて二人が言う。何か変な理解が二人の間で構築されつつあるようだ。

 

「……とはいえ、ウチと詩明せんせがあまり話しすぎるのも嫉妬を招くようで」

 

「わかるの?」

 

「悠はそういう時にちょっと顔の雰囲気変わるんですよ、ウチもまだうまく言語化できていないですけど」

 

「……私も自分が知らない鹿染さんの情報を第三者から聞くのはあまりいいものじゃないな」

 

「はいはい」

 

へえ、先生も納倉に嫉妬するんだ。なんか一番楽しそうなの、納倉じゃないか?気のせいだといいな。

 

「あと一ヶ月ちょっと、頑張れそう?」

 

「ウチはまあ、なんとかなるでしょ。悠は?」

 

「……正直、かなり怖いです」

 

まだ自己採点をしていないし、それなりにいい点だったとは思うが、それでも二次試験で去年まで取った点数をあと少し上回らないと合格ラインに乗らない。

 

「私も久しぶりに大学入試の問題解いてみるかな……」

 

「できるんですか?」

 

「一応大学で理科の全分野の成績がAプラスだったからね。現役の頃の勘は失くしちゃったけど、知識でカバーできるはず」

 

「比べてみますか?」

 

納倉が言う。

 

「いいよ。日程を決めてくれれば、それに合わせて解いておく」

 

そう言って先生は指をポキリと鳴らした。

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