感情シンタイプ   作:小沼高希

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2月上旬、塾、一人で

昨日は第二志望の受験だった。手応えは悪くなかったが、第一志望へのチューンナップが強すぎたのかそこまでうまく噛み合った感じがない。というわけで今日は久しぶりの第一志望の過去問である。また来週に別大学の試験もあるが、こっちは特に対策しない。舐めていると言えばそう。

 

「……スタート」

 

実際の受験スケジュールと合わせて、今日解くのは二教科だけ。そして明日採点をする。これは納倉と守森先生と合わせているものだ。同じ問題を、同じ時間で、どれだけ解けるかというもの。どうやら守森先生はこれを仕事の一環扱いさせたらしい。古塞出版だっけ。いい会社だな。

 

最初は数学。比較的少ない問題数と、高い難易度。問題を俯瞰できる発想か、あるいは過去問をきちんと学んで答えへの糸口を見つけ出せるかどうかが問題になってくる。

 

最初に出てくるのはそう難しくない積分。$\tan \frac{x}{2}$ を $t$ と置換するシンプルな方法で解ける。あとは変数を動かして、範囲をグラフに書く。あっこれ虚数になりかねないやつだな?あとは分母が0になる時もあるし。なんとなく解いていると足をすくわれるような罠がいっぱいある。

 

丁寧に、確認を繰り返しながら展開を進めていく。時々 $t$ に0とか1とか2とかを代入して、ちゃんと計算が間違っていないか確認をする。これは納倉から教えてもらったテクニック。

 

計算に詰まったら、次の問題へ。別に全部解く必要はない。半分取れればいい。例年の配点から考えると、一つでいいから最後まで解き切って、それ以外は部分点をしっかり取ればいい。問題は一つ解き切るだけでも相当苦労しそうだってことだけど。

 

多面体とベクトル。確率と数列。シンプルな、教科書の章末に出てくるような問題に見える短い文章のように見えて実際に手を動かしてみると全然糸口がつかめない。

 

そうやって逃げて、次の問題に進んで、そして最後の問題になってしまう。時間は全体の四分の一が過ぎた所。集中力が一回切れることはわかっているから、一旦休憩しよう。

 

深呼吸をすると、今まで聞こえてこなかった周りの音が聞こえてきた。紙がガサガサと擦れる音。シャープペンシルが紙越しに机を叩く音が響いている。うるさい。理不尽な怒りがどこからか湧いてくるが、しばらくすると消えていく。

 

大丈夫。今ここでちゃんと点を取れていれば、本番でもきっと平常心で挑めるはずだ。だからって今手を抜いていいわけじゃないぞ。

 

根性論とか精神論とかはあまり好きじゃないけれども、辛くなった時にそういうものに頼れれば結果的に強くなれるのはわかる。納倉はそこらへんあまりうまく行かないらしい。

 

あまり話すことはしないけれども、たぶん名倉はそういうのに決して強くない。同じ大学を目指しているという点で、ある意味で助けになっていれば幸いなのだけれども。

 

僕たちが目指す大学のレベルは、僕たちの高校からは年に一人行くか行かないかといったところ。まあそういうのに強い高校だと年に十何人もって話もあるらしいけど、そうじゃないからまあある程度は自力でやるしかない。

 

とはいえあまりいい大学とか考えすぎると守森先生をどう捉えるかという問題になってしまう。学歴というかどの大学を出たかなんていうのは将来に全く影響を与えないなんてことはないけど他の不確定な要因に比べれば決して大きなものじゃないし。

 

「……戻ろう」

 

そういうことを考えていたら、また時間が過ぎていた。大丈夫。そもそも残りの数十分はどうやっても解けそうにない問題にかじりついて結局殆どできない時間なのだ。それなら最後まで楽しく解けるぐらいにペースを調整した方がいい。

 

改めて問題を見ると過去に解いたものを思い出す。ここらへんの方程式は注目する変数を変えるとシンプルになる。基本的なことを思い出せ。一応出題者側は基礎力を問うものだとか言っているんだ。受験生を始めとして誰も信じていない言葉であるが。あれを基礎だと言えるのは大学で本格的に数学をやる人だけなのではないだろうか。

 

あ、と気がつきが走る。それも今解いているやつじゃなくて次の問題のやつで。よくわからない誘導の(2)があったのだが、その意味がわかったのだ。というかわかってしまえば誘導としてはありがたいものだ。問題はその誘導自体がかなり面倒そうだって話なのだが。

 

落ち着け。時間はたっぷりある。解けそうなものだけを適当に解いていって、そこから引き返しても十分余裕がある。まずは取れるものをしっかりと取ろう。

 

シャーペンを動かしていく。展開した式が塊ごと消えていく。奇関数がありがたいな。正と負が綺麗に消えてくれて、求めたいものに近い形が残ってくれる。といはいえまだ上手く行かない。展開して変形すればそうなるのか、あるいは展開でどこか間違えているか。まずは後者を考えよう。少し考えて駄目だったら変形に挑戦する。

 

楽しくなってきた。休憩中に止まっていた脳のエンジンがやっと温まってきた。

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