二日目の午後。今までは解いてからすぐに採点をしていたけど、今回は全部解き終えるまで確認をしないつもりだ。
最後の教科は化学。午前中にやっていた生物については九割ぐらい行けただろう。まあ毎回それぐらいの点数だから当然ではあるが。
休み時間は短いというわけでもないけれども、あまり出歩いたりはできないぐらいの時間だ。本番ではお弁当を食べて、少し背伸びをして、なんてしていたら集合時間になってしまうだろう。
化学はまあ、前半部分は暗記でどうにかなる。暗記と言っても守森先生直々の解説がついたこともあって、全体的な流れはしっかりと抑えられている。たぶん。
選択問題を解いて、計算問題は慣れた公式を使い、ひとまず取れる分だけを取っていく。少し疲れているな。いつもと違う環境だからだろうか。解いている問題量自体はいつもから三割少ないわけだし、たぶん精神的な問題が大きい。
原子の特徴。周期表を頭の中に入れておけば、細かい特徴を覚えるのも少しは楽になる。アルミニウム、蛍石、ホール・エルー法。うーん計算しなきゃいけないのか。ファラデー定数があるし、アルミナ内で三価のイオンなのであとは物質量を出せばいい。簡単ではないけれども、やってきた内容がちゃんと使えている。
とかなんとかやっていくと、最後まで来てしまった。終わりの方の問題は毎年酷い難易度だと有名なので後回し。つっかかった計算問題をやっていこう。
使うことのできる公式は実は案外少ない。基本的な法則とその法則が表す式を結びつけておけば、そこから知識を組み合わせて大抵は答えが出せるはずだ。見慣れた結晶構造の問題。ささっと図を描いて、単位格子の一辺の長さの比を求める。これは何度も解いているから答えはもうわかっているのだが、どうせ時間はしっかりあるので確認がてら実際に計算する。
多少変な問題設定されようが関係ない。これをどうやって測定するかとかみたいな話を先生が楽しそうに語ろうとして僕に物理の知識がないと思いだして苦しんでいたのを思い出す。X線を使うらしい。詳しいことは教えてもらえなかった。受験が終わったら色々聞きたいな。
そう。もう一ヶ月を切っている。点数の伸びは止まってしまった。今いるのは合格ラインよりちょっと先のあたり。何かあったら落ちてもおかしくない。まあ油断しなくてすむからいいのかもしれないが。
高分子の知識問題。なに、DNAとRNAの違いだって?こちとら生物選択だぞ。デオキシ、つまりヒドロキシ基がないということ。つまりヒドロキシ基のあるRNAのほうでは電気陰性度の低い酸素が電子を引き寄せて、なんやかんやで不安定になる。なので使い捨てられる
なんやかんやってなんだよと言われるかもしれないけど、正直聞いてもよくわからなかった。電子が引き寄せられるとリン酸エステルがなんか切れやすくなるとか。理由を聞いてもなんか矢印を書くとわかりやすいとかそんな話をされた。その矢印を操れれば欲しい化合物を手に入れられるとかなんとか。そういえば守森先生はその分野が専門だったな。
まあそういうわけで丁寧に解けるものを解き、嫌らしい間違いもちゃんと見つけ、大問の数字の横にマークを付けていく。解き終わったものには丸。時間かければ解けそうなものは三角。嫌な予感がするやつはバツ。
時間は半分が経過。調子はいい。今までやった過去問の平均超えられるんじゃないか?と少し調子に乗ってくる。いややっている人は過去問数十年とか普通に解いているらしいから勝てないんだけど。
自信はある。というか持たないとやっていられない。落ちる可能性のほうが高い受験とかだったら多分どこかで心が折れていただろう。
僕は生物が得意だ。そのおかげで、他の教科が多少危なくともこの大学に挑めるステージに立っている。
なんで生物が得意なのかって考えると、多分きっかけは守森先生なんだろうな。あの授業で色々と聞いたから、その上で初めて生物の分野が好きだって自信を持って言えるようになって、色々と自分でも読んで、そうして点数が取れるようになったわけで。
ある程度はうぬぼれもあります。だって偏差値七十なんてなかなか出せるものじゃないでしょう?納倉は物理でそれをやったのでまああれだけど、あの納倉と同じぐらいだって考えれば悪くない。
解けそうになかった問題を読み直したら、似たようなやつを思い出した。あれはちょっとマイナーな知識を使わないと解けなかったけど、こっちは似た性質とはいえ比較的有名だ。イオンと試薬の反応、参考書にあったカラフルな図を思い出す。この沈殿は確か左から三行目、下から四行目。黒色。
この年の過去問は、守森先生と納倉とで同じ時間に問いている。勝ってしまうかもしれないな。まあ生物選択する人は少ないのとあまり人気のない分野のせいで最低合格点は低い分負けた所でそこまでという話もあるのだけど、やはり負けるのは嫌だからね。
時計を見ると、時間が迫ってきている。久しぶりに最後まで全力を出し切れた。こういう時は、少し点数が高い気がするのだ。