紙をめくる。まず最初に確認するは引用の出典を示す部分。タイトルを見れば内容はわかる。へえ、環境問題について。勝ったな。バイオマスかな。窒素循環かな。食物網かな。ちょっと抽象的でわかりにくい。
というわけで目を下に動かしていく。単語説明を確認して、そこから問題に入る。あまり難しい単語はない。和訳、選択、記述、英訳、和訳、選択。出題傾向に変化なし。いつもの通りだ。今まで十回以上も解いてきたんだ。大丈夫。
よし、問われている内容は理解できた。問題文の中にわからない単語はなかった。とはいえ選択肢を読んだだけで全部を理解できるほど簡単ではない。
最初に戻る。長めの文章だが、きちんと整理されているもののはずだ。段落の最初の文章だけ読めば、大体の意味は通じるぐらいには。
接続詞に丸をする。下線部の付近に注意する。このthatがかかっている範囲はどこだろうか。等位接続詞であるこのorの直後に来ているanalysedと対応する過去分詞はどこか。
わからない単語も出てくる。しかしなんとなくはわかる。少しづつ全体の流れが見えてくる。
序論、本論、結論の流れ。下線が引かれているのは中盤での重要な部分。ここで少し引っかかる表現をして、その後に説明するという方式。とはいえその直後の文章ではない。そこはあくまで前提条件の解説。言いたいことはその後だ。
ああ、と理解する。それを言うために、今までの文章があったのか。面倒なやつだ。直後の文章を直訳しただけなら部分点。全体を踏まえて書けばいい。
まあ問題はそれが理解できたところでしっかりと英語を読めているわけではないというところなんだけれども。
まあいい、選択問題をやっていこう。といってもかなりの量の選択肢に、いくつあるかわからない正解。これは心をすり減らす。ひとまず重要そうな単語をマーク。
こういうのは納倉が苛立つ部分だろうな、と思ってしまう。長い文章を要約したり、特定のワードに関連しそうな部分をまとめるようなプロンプトを作るのはできても実際にやるのは別だ。まあ僕だってさっきの数学でせめて電卓ぐらい使わせてくれと思ったけど。
一呼吸。改めて文章全体を読み通していく。とはいえ選択肢の時点でわかっていることぐらいはある。何だよ、環境を第一に優先することが技術者の責務である、って。さっき通しで読んだ時にあからさまに否定する部分があったはずだし、常識的に考えてもおかしい。
いやもちろんそういう思想があることは知っていますけどね、ここは理系の大学ですよ。つまりは環境を調査する人も、活用する人も、場合によっては破壊する人もいるってことだ。そういうメッセージでもあるのかな。問題のテーマは環境問題を他の問題とどうやって折り合いをつけながら解決していくかというもの。
まあ、あまり詳しく考えても実はなにもなかったなんてこともあるのだ。それに出題意図は公開されないし。
実際の所、書かなくちゃいけない文章はそう長いものではない。何文字以内で、と言われればそれに収まる文の情報量しか問われていないし、解答欄の大きさを見ればどれぐらいのものかもわかる。というか英訳とか和訳とかなら元になる文章の長さを見れば見当もつくし。
選択問題を倒したので、次は記述に。さっき理解していた流れと矛盾する情報は出てこなかった。必要になりそうなワードに線を引いて、丸をつけた関係代名詞とそれが示す部分を結ぶように鉛筆を動かす。とはいえ最終的な答えはあまり面白いものではない。文章だけ見れば常識的。
まあ、あまり無茶苦茶なことを言うってこともないからな。数年前は思想的にちょっと偏ったものが出ていたが、あれはあれで面白かったし。
一旦肩を回す。時計を見ると、予定していた時間配分より少し早いぐらい。緊張している分、ミスが起こらないようには気をつけないと。書き上がった文章を唇だけを動かして声帯を震わせないように読み上げる。違和感はない。なら、ある程度は大丈夫なのだろう。
英訳に目を移す。この文章なら前にやったな。基本的な骨格を作って、そこに単語を足していく。怪しい単語は使わないで、必要であれば置き換える。意味はあまり変わらないはずだ。
これがもし小説みたいなものなら、もっと難しいのだろう。幸いにもこの大学が出してくるのは論説文だけだが、共通テストではそういう問題も出る。
なにかを論じるだけなら、あまり難しいことは考えなくてもいい。細かいニュアンスがあるかもしれないけれども、それで無から生命が生まれるみたいになることはない。小説は違う。微妙な言葉遣い一つで変わるのだ、と守森先生が言っていた。
海外のSF小説とかを読む時に困るらしい。先生の勤める古塞出版ではやっていないけれども、中には理工系の本とSFの両方を出しているところもあるという。同業者の集まりで、そういう情報も集めるのだとか。
というわけでひとまず解答欄は全部埋まる。過ぎた時間は半分弱。ま、これは前半の大問なのでまだ後半がある。気を抜かずにやっていこう。