試験二日目。生物。僕の一番の得意分野にして、これを失敗すると得点作戦の全てが失敗する教科。
目に入るのは骨格図。いくつかの動物の腕の形。相同器官。さて、問題はここからだ。ホメオティック遺伝子。また難しいものをテーマにしてきやがって。
落ち着いて問題を読んでいく。細胞の分裂。アポトーシス。系統樹。CRISPRを用いて導入された標識。いくつかの分野が組み合わさっている。
普通ならこれは難問になるのだろう。複雑な条件を一つ一つ整理していって、単語の意味をしっかりと理解していなければいけない。
ただまあ、僕なら行ける。似たような実験を読んだことがある。腕の発生過程についても。だからこれは、そう難しくはない。実際に大学で研究されているようなテーマに近いと考えてもいい。
時々、関連した基礎的知識を問う選択問題も混じってくる。一見怖いが、丁寧に単語を追っかけていけば答えることはできる。
過去問でも感じたが、生物の問題では一連の流れというのが強い気がする。様々な知識を、手法を、実験を用いて答えを導いていくスタイルが好きなのだろうか。
そして記述問題。ちゃんと基本的な概念を踏まえて、目の前の現象を理解できるだろうか。ここで未知の現象とか出てこない分優しいな、と感じる。
さて、全体の構成は確認できた。では解いていこう。
手を動かしていく。必要な単語を書き出して、言いたいことを整理していく。時計を確認。ペースは問題ない。
生物の過去問に出てきた色々なパターンを思い出す。たまに問題不備とかあったけれども。今回の内容は比較的難しい気もするけれど、部分部分であれば見たことがある。
知っている範囲に分割して、やっていこう。
選択問題はそう難しくなかったので、一旦休憩。だいたい解き終えた、と言っていいだろう。細かいところはまだだけど、ここらへんは実は最後まで解ききれない問題が混じっていたりする。適度に後に回したりしておこう。
他の問題にも目を通す。最初の大問と違って、どれも見たことのあるパターンだ。ある程度以上昔のものは解く時間が足りないと思って解説を読んだだけだが、それでもかなり助けになる。
そう考えて、自分の中の衝動性みたいなものが高くなっていることを自覚する。あまりいいことではない。
手を上げて、担当の人にトイレに行きたいことを知らせる。解答用紙を裏返し、できるだけ周囲を見ないように教室を出る。こっそりスマホを取り出そうにも、きちんとトイレまでの道も監視の人がいてやりにくいな。しないけど。
背筋を伸ばし、手を洗い、鏡の中の自分を見る。不敵に笑う少年がいる。大丈夫だ。僕がどれだけ頑張ってきたと思っている。僕がどれだけ生物が得意だと思っている。
まあ、本当に知っているのは僕だけだ。達成感も、恐怖も、緊張も、全部僕だけのものだ。試験という形だから一応席の奪い合いではあるが、ある目標点を超えればいいという点では僕だけの戦いだ。
一見矛盾しているように見えるけど、それは僕以外の受験者たちを集団として見るか、あるいは一人ひとりとして見るかの違いだ。前者なら、ある得点分布を持った人たちになる。後者なら、ある程度倒せばいい人たちの集まりになる。
まあいいや、今はそういうことを考えるほど余裕があるわけではない。ならこんなところで軽い体操してるんじゃないよと言いたくなるが、血流を良くするのは大切だよ。
というわけで戻ってくる。首をしっかりと回して、改めて問題文を見る。あ、さっき解いた問題に間違いがある。こういうのをちゃんと見つけられたから得点が上がって結局得になるのだ。どうせ時間が余ってもぼんやりしてしまうし。
鉛筆を動かしていく。最初見た時は引っ掛かりそうだなと感じたものも、案外簡単に解けていく。どこに間違いがあるかわからなかった選択肢も、ひっかけになる場所が見えてくる。
調子がいい。ここまで調子がいいことは今までに数えるほどしかなかった。そしてそういう時はいい点数だった。ちゃんとデータ取ってるんですよ。そうすると自信になる。
解答用紙がどんどん埋まっていく。開いている部分は難しい計算だったり、ちょっと手間がかかりそうなものだったり、まあ難問と呼ばれるもの。そのうちの半分でも正解すればいい。
今が本番だというのを忘れてしまいそうになる。色々と出てくる選択肢を面白く感じてしまう。ここでそういう分野の問題につなげてくるかという驚きがある。良くできた文章の出来に満足感がある。
緊張していないのはいいことだ。なら、このまま行ってしまおう。残しておいた問題に挑む。とはいえ調子のいい僕にとって、それらは諦めるほど難しい問題でもない。
三回ほど見直して、まあ今できるところまでは終わったと息を吐く。ほぼ同じタイミングで試験終了となった。
さて、残るは化学だけである。いやまだあるんだ。結構体力を使い切った気がするので、休み時間の間に温かいものを飲んで甘いものを舐めて心を落ち着けよう。次が最後だ。