感情シンタイプ   作:小沼高希

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3月上旬、自宅、一人で

目が覚めてしまう。窓から入ってくる光がない。

 

手探りでスマートフォンを見つける。四時三十三分。まだ起きるには早い。だからまだ眠らなくちゃいけない。あと八時間もある。

 

自分なら受かっているだろうという全く根拠のない感覚と、あんな適当にやって受かるわけがないだろうという反省がある。

 

眠れるとは思えない。自分の受験番号ははっきりと思い出せる。一応発表のサイトを確認しておく。もちろん更新はされていない。時間は四時三十六分。ほとんど経っていない。全体の百六十分の一。こういう計算だけは速くなってしまった。

 

スマホを消して、布団をかぶる。冷たい空気から自分を守るように、丸まるような姿勢になる。

 

心の中をできるだけ楽観的にしようとするけれども、それを自覚してしまった時点で悲観的なものが多くなってくる。

 

たかが毎日勉強した程度で、たかが一教科が得意な程度で、志望校に合格できるなら苦労はしないのだ。

 

浪人している人がいる。そこまでして学びたいものがあって、それに向けて努力をしていて、それでも届かないものがあるのだ。恋人と楽しんで、それなりに充実した高校生活を送って、その片手間で受験をして、それで合格しようだなんて甘い話があるものか。

 

脳内では確かに反論は浮かぶ。あくまで大学受験で問われているのは学べるかどうかの基礎知識であるとか、そもそも努力の多寡は点数とは関係ないとか。

 

なら一層のこと駄目だろう、と考えてしまう。僕には知識とまで呼べるようなものはない。ただの暗記だ。百科事典の項目を得意げに暗誦して天才だと言われているような子供とそう違いはない。

 

それに努力の量で決まらないとしたら、残るのは運か才能か環境ぐらいだ。どれも頼りないものだ。運はともかく、残りの二つは恵まれてないわけじゃないけど上には上がいる。とはいえそれは自分にはどうしようもないもので、ある程度は受け入れなくちゃいけないもので。

 

自分のできる限り頑張って、全力を尽くしたと胸を張っては言えない。色々と怠けた。手を抜いた。あと一回見直しを出来ていれば。過去問の解き直しをしっかりしていれば。

 

これは後悔なんだろうか。いまさらしたって意味がないのに。

 

思い悩んだって意味がないことぐらいはわかっている。もう採点は終わっているのかもしれない。そうでなくとも解答用紙を書き換えることはできない。

 

予備校が公開している解法を見た。僕には到底思いつかないような綺麗な導出だった。生物ですら、僕が見逃していた選択肢があった。

 

記憶力も、実力も、判断力も、発想力も、何もかもが足りない。これが思い込みかどうかもわからない。少しでも明るいことを考えようとしても黒い色々なものがそれを押しつぶしてしまう。

 

目をぎゅっと瞑って、できるだけ速く眠りに落ちようとする。暖房をつけたエアコンの音がする。遠くを通る車の音がする。自分のうるさい呼吸の音がする。わずかに震える身体と服と布団が擦れる音がする。

 

深く息を吐く。

 

耐えられない。布団を剥がして、身体の周りに冷たい空気を入れて、こもった熱を吐き出す。時間は四時四十一分。まだ起きてから十分も経っていない。

 

心を切り替えて、もう落ちた前提で動き出そうと思ってもそれはそれで楽観主義がそんな絶望するなよと言ってくる。いい加減にしろ、その楽観主義をもう少し早く出してくれ。

 

ああもう、何かしようにも頭はぼんやりとしている。眠いには眠いんだ。何かをしたら、たぶんすぐにあくびが出てしまう。心に抱えているものがなかったらすぐに眠れるのに。

 

何か楽しいことを考えたい。とはいえ、ここしばらくの僕の生活は受験ばっかりだった。趣味なんてないつまらない人間だし、一体何をすれば。

 

守森先生のことを少し思い出す。でもこれはいけない。この辛い記憶と先生を結びつけたくない。

 

小さく声を出す。あくびなのか眼精疲労なのか心の苦しさなのか良くわからない涙が滲む。寝返りをうっても安定しない。

 

どうしようもない。時間が経たないとこの心は落ち着かない。でも時間が経つのを待つには心が苦しすぎる。ネットでも見て時間を潰すと多分体調と生活リズムを崩す。

 

だから、眠れなくても身体を横にしておくだけでいいんだ、と自分を言い聞かせる。

 

うん。騙されてくれるほど僕の脳はいい加減にはできていない。受験のために詰め込んだ知識が色々な反論をしてくる。

 

まあそれらの反論は代替策を出してくるわけではないのだが。お前はもう悩んで苦しんで眠れない夜を過ごすのだ、という結論は変えようがない。

 

早く昼になってくれ。あるいはもう意識が落ちて目が覚めたら夕方ぐらいになってくれ。もう辛いのは嫌だ。何でもっと早く結果が出せないんだ。

 

自分じゃなくて他人の方に攻撃的な感情が向いていることに気がついて少し安心している自分がいる。まあ直接言ったり行動にしたりしなければ、個人の中で考える分には自由なはずだ。

 

それがいつか自分を変えてしまうかもしれないということとか、どうせ昨日が発表でもそうだったら昨日の夜にこうやって悩むんだろうなとかいうことは考えないようにして、時間が過ごすのをただ耐えていこう。

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