元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する 作:俺っちは勝者の味方ー!
※今話にクロスオーバー要素はありません。ほとんど暗殺教室サイドのストーリーとなります。
※原作に連載されている番外編の読了推奨。
椚ヶ丘市 居酒屋あずさ。
「グッグッ……ぷはぁ!
「わかりました」スタスタ
「今日は随分頑張るじゃん、渚。いつもならここいらでギブアップしてるのに」
「カルマに無理やり飲ませられるのと違って、ここなら自分のペースで飲めるから。そう簡単に潰れるつもりはないよ」
「ははっ、言うねぇ」
休日の夜、僕は椚ヶ丘に佇むとある居酒屋でカルマと共にお酒を呷いでいた。店主の
殺せんせーや腕利きの殺し屋たちが、ここへ心の傷を癒しに来ていた気持ちもよく分かる(僕らは卒業後にそれを知った)。
「はい。ほろよいと、サービスのおつまみです。あんまり飲みすぎちゃダメですよ」
「あはは…蛍ちゃんにそう言われると敵わないなあ。どうもありがとう」
ニコリと静かに微笑む
「カルマは――まだ全然余裕そうだね」
「俺も今日はとことん飲むつもり〜。この日のためにプロジェクトの準備は万端にしてきたし」
「記憶無くすから安心してグチれる」と、サシで飲む度に僕を潰してくるカルマは流石に強い。この場合 “酒豪として” だけど、実は社会的にも相当高い地位を確立しているのだとか。
派閥争いの多い経産省において、理想に固執し過ぎることは自己の破滅を意味する。そんな状況下でも、カルマは『災害時に役に立つ官僚になりたい』と我を貫いてきた。同期の裏切りで一度は瀬戸際に立たされたそうだが、今では彼に逆らえる者はいないらしい。
「で。茅野ちゃんとのデートはどうだったの?」
「いや唐突! 話的に何の脈略も無かったよね!?」
隙あらば弄り倒そうとする辺りホントいい性格してるよ、この男は。仕事に熱心に取り組む姿勢は尊敬できるのに、こういう意地の悪い一面のせいで全部帳消しになってるんだよなあ…。カルマらしいと言えばらしいけど。
「まあ…ちゃんとエスコートはできたかな。茅野も楽しんでくれてたし」
「ふ〜ん。他には?」
「他? 偶然会った僕の教え子と茅野が仲良くなったり、再来週茅野が出演するドラマの撮影現場に行く約束したり、とか」
「夕陽をバックに熱烈なキスを…」
「してないから!!」
「え〜、つまんないの」
もはや何度目かもわからない
「ま。二人の進展具合はさておいて、そろそろゲロってもらおうか」
「?」
「……思い詰めた顔してさ、何に悩んでんの?」
カルマは真剣に、しかし優しげな声色でそう問いかける。表情に出してたつもりはなかったけど、カルマの目には全て見透かされていて心臓が飛び跳ねそうになった。
…彼の言う通り、確かに気に病んでいることはある。とはいえ、この難題ばかりは教師である僕が自力で解決しなければならないことだ。
変な心配をかけさせたくなくて話してみるか否か僕が躊躇っていると、焦れったそうにカルマは口を開いた。
「その道のプロでなきゃどうにもできない悩み事だとしても、正直に吐き出せば少しは気が楽になるんじゃない? もしかすれば別の視点からのアドバイスだって、できるかもしれないよ」
「! …うん」
その言葉を聞いて気づかされた。
大人になっていくにつれ、自然と我慢したり、抱え込んだりする場面が増えてすっかり頭が固くなっていたのだと。おかげで視野も狭まり、友達に相談する・話すといったストレス解消法を思いつくことができなかった。
それならば、(もう既に勘付かれているし)ここで下手にうやむやにするより、この苦悩を
僕は意を決して語り出す。
「…教員生活自体は大方順調なんだ。生徒との関係も悪くはないし、みんなの長所を飛躍的に伸ばすための
だからこそ、なのかな。教師個人で出来ることへの限界を感じるようになって…」
四月に初めて出会ってからというものの、未だ “本当の”
自分に何かできることはないか、模索し続けていること。
彼女が何故貼り付けたような笑顔を作っているのか、その理由さえもわからないこと。
そして、偽物の笑顔の裏で時折全てを諦めたような表情を浮かべていること…。
本人の名前を伏せて、全てをカルマに明かした。
「なるほど。渚が気にかけてるその子…ベクトルは違うけど、まるで昔の茅野ちゃんみたいだねぇ」
「カルマもそう思う?」
「聞く限りの印象としては。…それに憶測だけど、演技の経験がない割に周囲の人間を欺けてるってことは、渚が担任になるよりも前からずっと演じてたんじゃない? 誰もが羨むほど完璧で、隙のない優等生をさぁ」
「! 確かに…」
“今年に入ってから” とは思えないほど、朝比奈さんの振る舞いは自然だった。恐らく、ここ数年に渡り『良い子』を演じ続けているからに違いないだろう…。
なら、彼女を優等生たらしめている直接的な原因は学校や生徒ではなく、もっと近い場所にあるってこと? まさか―――
「あと、これだけは聞いておきたいんだけど」
「な、何」
僕がそこまで思考を巡らせたところで、カルマはさらに続ける。
「結局のところ、
う〜ん、それを聞かれるか…。一応自分なりの答えを持ってはいるが、友達に…ましてやカルマに話すとなると正直恥ずかしい。
大抵は教師としての責任や義務があるから、彼女の境遇を憐れみ同情しているからだと思われるだろう。
しかし僕の場合、そのどちらにも当てはまらない。
「
殺せんせーが僕たちに授けてくれた絆と笑顔を、僕も繋いでいけたらって…そう思ってる」
いかにシンプルで幼稚だろうが、あの教室で得た贈り物は僕にとってはかけがえのないものだ。だからこそ、この『想い』を大事にして今まで “先生” を頑張ってきた。例え朝比奈さんが相手だとしても、それは揺るがない。
カルマは僅かに息を呑んでから、こんな質問を投げかけた。
「もし、その生徒が渚を拒絶した時は?」
「そうなったらもちろんショックだけど……、それでも根気強く話しかけ続けるよ。嫌われるのも覚悟の上で」
「そっ、か。ほ〜んと健気な男だね…」
「私は――」
「「 ? 」」
「私は、渚さんの想いはその子にちゃんと伝わると思います。確たる保証は全然ないんですけど、あのタコさんの背中を見て育った渚さんならきっとできる気がするんです」
「蛍ちゃん…」
殺せんせーのプライベートを知っているからこそできる蛍ちゃんの応援に、胸がじんわりと熱くなる。
ああ、本当に…今日は飲みに来て良かった。
朝比奈さんがあまりに手強くて少し自信を失いかけていたけど、カルマや蛍ちゃんのおかげで僕が先生としてどう頑張るべきかを再認識できた。二人の何気ない優しさが五臓六腑に染み渡り、疲労とストレスがみるみる浄化されていくみたいだ。
「ほらほら〜、見惚れてないでもっと飲みなって。悩んでる時こそイッキだよイッキ」
「んぐっっ!? ちょっ、記憶が飛んだら困るんですけど!!」
「あ、あはは…」
見守ってて、殺せんせー。まだまだ未完成で迷いの多い僕だけど、絶対に…せんせーのような “先生” になってみせるから。
蛍ちゃんや梓さん、腕利きの殺し屋たちの詳細が気になるアニメ勢は原作を要チェック!
(ここで深掘りしすぎるとネタバレになりかねないので)