元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する 作:俺っちは勝者の味方ー!
うまく書けないことによる焦りと色んな人から好評価を貰っている事実とのジレンマに陥って作業が全然進みませんでした。義務感とか期限に駆られてやるもんじゃないですね…。文章がいつもより拙いと感じられたらごめんなさい。あと今回はご都合主義的な要素も含まれてます。
教室のセカイ。
「〜〜〜♪ ─────!」
うん。少し尻すぼみになってたところ、ちゃんと演奏できてる。一歌の歌の調子も良好だ。
…ミクとルカに見守られながら、私はみんなが奏でる音色に耳を傾ける。聴く人の心を踊らせるような咲希のシンセ、優しさと芯の強さを併せ持った穂波のドラムも一歌の演奏に引けを取らない。
私も負けじとベースに意識を注ぐ。今いるステージからさらなる高みへと駆け上がっていくように。
「───!!」
そして大きなミスをすることも、今日一番の勢いを衰えさせることもなく演奏が終了した。やりきった
『みんな、今回の演奏すっごく良かったよ! 四人の想いがどんどん強く結びついてる証だね』
「ありがとうミク。…だけど、まだまだこれから。もっといい演奏ができるように頑張るから楽しみにしててよ」
『うん!』
ミクの言葉に、自分たちの確かな成長を実感する。一歌の言う通り改善の余地を残してはいるけど、次の演奏も頑張ろうと前向きになれる。気持ちいい形で終われた余韻も相まって、自然と頬が緩んだ。
「あっ! しほちゃんが笑ってる。か〜わいい♪」
「いやっ、別に笑ったりなんか………す、するし」
『あらあら』
咲希の可愛い冗談にちょっぴり困りながらも、私は首を縦に振った。すると、普段と違うリアクションが意外だったのか、みんなはびっくりした表情で私の顔を見つめ返している。…なにさ。せっかくノリに便乗したっていうのに。
「(失敬な)」と心の中で不満を垂れると、どこか納得した様子のルカさんが話しかけてきた。
『今日の演奏とその笑顔の柔らかさ、何か嬉しいことでもあったんじゃないかしら? ねえ志歩』
「///……はい。実はルカさんの言う通りで」
「『おお〜』」
「志歩ちゃんがそわそわしてたの、そういうわけだったんだね」
「え? そんなにわかりやすかった?」
『『「「「割とすごく」」」』』
「うっ…」
自分の顔がみるみる熱くなっていくのを感じる。けれど、私はすこぶる機嫌がいいからほとんど気になることはなかった。
そこでふと思う──みんな
「ねえ。折角だから今度のオフ、四人で
「「「( !? )」」」
「「「未成年飲酒はダメだよ!」」」
「断じて違うからっ…!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
後日 東京都某所。
私はあの後自身の説明不足を反省し、『一杯』という数え方が指すお店について詳しく教えることでみんなの誤解を解消した。加えて、今日は三人ともバイトのシフトが入っていないからと、私に同行してくれている。
急なお誘いだったし断られても仕方がないかと思ってたけど、全員が即答でオッケーしてくれた時はとても嬉しかった。ただ──
「志歩?」
「いや。なんだか無理に誘ったみたいで申し訳ないなって…」
「もう! しほちゃんってば今さらそんなことで心配してたの? 全くきな臭いな〜」
「それを言うなら “水臭い” でしょ」
「あはは…。でも、志歩ちゃんが見つけたっていう
穂波…。そっか、それなら別に遠慮なんてしなくてもいいかな。みんなのわくわくした表情を改めて見ることで心がすっと軽くなる。この後食べるラーメンが一層楽しみになってきた。
──今私たちがいるのは東京都
「! (見つけた…!)」
そして、最寄り駅から南に進み続けること早二十分。私たちはついにそのお店に到着した。
「(──ん?)」
けれど次の瞬間、私は足を止めて立ち尽くした。
よく見ると年季の入った看板はぼろぼろで、そこに刻まれる『松来軒』の文字もところどころ掠れていた。加えて、開店前にも関わらず店先に並ぶお客さんらしき姿は見当たらない。
ごくごく普通の個人経営店のようだけど、外観と相まってすごく寂しい感じがする…。
「…とりあえず待ってようか」
「「「う、うん」」」
一歌たちも同じことを思っていたのか、反応は少し薄かった。…無理もない。私も店と住所を間違えたんじゃないかと疑ったほどだし。
そんななんとも言えない空気が漂い始めた瞬間、扉の鍵が開く音がした。
すると中から、金髪で面長の男性が現れる。看板と同様、『松来軒』の名の書かれた暖簾を片手に。
「♪〜〜〜……って、うおっ!?」
口笛を吹いて気楽な様子だったその人は、私たちの存在に気がつくと露骨に驚いた。まるで幽霊にでも出くわしたかのようなその態度に対して、咲希は不満そうに抗議する。
「む〜! 初対面で、それもお客さんに向けて『うおっ!?』なんて、失礼なんじゃないですか?」プンプン!
「おおう…す、すまねぇ。開店早々に客がいることなんて滅多にないもんだから、思わずびっくりしちまってよ。──そうだなあ…詫びと言っちゃなんだが、後で4人ともサービスしてやっから」
『これで手打ちにしてくれねぇか』と彼は言外に許しを乞う。
見るからにお客が「サービス」という甘〜い言葉に弱いのをわかっている様子だ。女子高生となれば、この手の誘惑に殊更魅力を感じてしまうということも。
「やったー! ありがとう、お兄さん!」
「あいよ。今用意するから中に入って待っててくれ」
言わずもがな、咲希はその筆頭だった。とても純粋な彼女らしく喜びを前面に押し出し、店員であろうその人にお礼を言っている。彼もまた満更でもない表情を浮かべながら、私たちを店の中に通してくれた。
如何せん外観のイメージが先行してしまい内装への期待値は低かったが、意外にも店内が綺麗で驚いた。カウンター席のみが設けられた一般的な造りだけど、整備と整理と清掃の手がしっかりと行き届いているのが一目でわかる。
「注文は?」
「ラーメン四つお願いします。…あと、どんなサービスしてくれるのかも教えてください」
「おう。うちは学割の対象外だが、麺の大盛りとかデザートを追加してやるぐらいならお安い御用だ」
「ならラーメン大盛りと」
「「「デザートを四つで」」」
「……即決かよ。わかった、大盛り一つと
へぇ…確かアイスクリームはチェーン店でも一番人気のデザートだったはず。それをサービスしてくれるなんて気前のいい人だ。隣で咲希が歓喜の声を上げている。
そうして注文を承ると、彼──村松 拓哉さんはせっせと準備に取り掛かっていった。手際よく動き続ける彼以外に人影はなく、湯気でいっぱいの厨房はまさしく村松さんの独壇場だ。調理のキレとテンポの良さは他の職人と一線を画し、具材を切り刻む音は狂想曲が如く激しく奏でられる。完成された極上のラーメンの図が、自然と頭の中に思い浮かんだ。
…そこでふと疑問が生じる。これほどの腕前を持ちながら、どうして彼はこの小さな店を切り盛りしているのだろう──と。
「ちょっといいですか?」
「? なんだ。追加
「流石にそこまで食べないです。ただ、『松来軒』の実質的な総帥であるはずの村松さんがチェーン店の側で経営に携わらない理由を知りたくて」
「ああ〜〜……やっぱり不思議か?」
「はい」
私が思い切って疑問をぶつけると、まるでこの手の質問に聞き慣れたような反応を示す村松さん。作業の手を止め少しだけ考える素振りを見せた彼は、改めて口を開いて語り出した。
「確かに
…けど、それを相談したら親父は猛反対。『レシピを変えんのは
──だから、俺はここで働いてる。初心を忘れないためにもな」
「…!」
「実家から都内六つのチェーン店まで全ての経営を担わなきゃならんのがちとキツいが、まあ…それでも毎日楽しくやれてるよ。レシピの特許が俺の手元にあるだけでも万々歳だ」
そう話をする村松さんの表情はとても活き活きとしていて、今の自分の仕事に心から誇りを持っているようだった。他人にどう思われようと己の意志を一貫してみせるその姿勢は私も見習いたい。
「──かあーッ、気持ち
悪いな、変な身の上話聞かせちまって。すぐにラーメン作るからもう少し待っててくれ」
…なんて感心していると、彼は吐き捨てるようにそう言った。曰く、自惚れてるみたいで性に合わないらしい。全然自慢げな様子でもなかったし、むしろそのストイックな考え方に共感したことを伝えたら、村松さんは小さく「おう…」と返して作業に戻っていった。色白の頬が僅かに赤らんでいた姿からして、おそらく私の気持ちは伝わったと思う。
それから何分かたった頃───
「よっす村松。邪魔すんぞー」
「ラーメン二つだ。腹が空いてるから早く食わせろ」
「げっ」
今までピクリとも動かなかった引き戸が勢いよく開けられたかと思うと、二人の男性が入店してくる。一人はドレッドヘアー、もう一人は逆立った銀髪とかなり特徴的な見た目だ。
そんな二人に向けて、村松さんは心底面倒くさそうな表情を浮かべている。
「よりにもよって今来んのかよ…」
「おいおい、そんなげんなりすんな──って、なんだこの子たち」
「ほう。非日常的な体験に飢える余り、ついに勧誘に手を染め始めたか。…吉田、警察」
「もしもしポリスメン?」
「ちっげーよ! 純粋なお客さんだわ!」
「でもなあ…」
「村松だったらやりかねない」
「テメェらん中での俺の評価はどうなってやがるっ!」
………これ何の漫才?
私たちを話のタネにして、怒号にも似た壮絶なツッコミが店内を飛び交う。けれども、すごく険悪な雰囲気になっているわけではなさそうだ。その砕けた口調と憎まれ口を叩き合う様子からして、村松さんと目の前の二人が親しい間柄であるのがわかる。
ただ──
「すいません。友達がびっくりして固まってます」
「「あ、悪い…」」
唐突に響いた大声は流石の私でもうるさいと感じたほどだ。もう少しボリュームは抑えて欲しい。
「すまん。このバカ二人には後でよく言い聞かせておく。隣いいか?」
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
「「おい。誰がバカだって?」」
再び一悶着起きそうになるも、村松さんとドレッドヘアーの男性は私たちを一瞥して思いとどまり、事なきを得た。すっごい形相で銀髪さんを睨んではいたけど…。
それから村松さんが調理の手を再開させると、手持ち無沙汰になった彼の友人二人に軽快に話しかけられる。
「俺は吉田 大成だ。すぐそこにある『吉田モーターズ』ってバイク店の跡取り息子。よろしくな」
「堀部
村松さんを含む三人は中学時代からの付き合いで、大学を卒業したり実家を継いだりしてもなおこの店を拠点に経営に関する相談・助言をし合っているのだとか。
たまの休日ということで、今日は本当は
「そうだ、
「ああ…それなんだが」
「寺坂なら秘書として強制的に駆り出された。電話越しに怒鳴り散らかしてたぞ」
「…………なるほど、
イトナさんからの説明に、呆れと諦めの感情を孕んだ溜め息をつく村松さん。どんな人かは全くわからないけど、 “寺坂” という名の三人の友人がかなり大変な目に遭っているのだけはひしひしと伝わってきた。
また吉田さんたちとの他愛もない会話が始まる。時々村松さんもカウンター越しに相槌を打ってくれるから、話しているのがとても楽しく落ち着いた気分になれた。
──そうして談笑している
「できたぜ。ラーメン四つお待ちどお」
「わあぁ…! おいしそ〜!」
ごとり、と重量感ある音を立て目の前に置かれた丼を覗き込む。見た目こそ普通のラーメンだけど、醸し出す香りは見て呉れ以上にインパクトがある。嗅覚を駆使するだけでお腹がいっぱいになってしまいそうなほどに。
「(チェーン店のそれとは何かが違うような…)」
レシピ自体同じなのはわかっている。けれど、そう考えずにはいられない。
チャーシュー、ネギ、メンマにワカメに卵……鶏ガラスープに浸る何度も見てきたはずの
「いただきます! ──ん〜〜、美味しい! これすっごく美味しい!」
「! ほんとだ。うまく言えないけど、
「たりめえよ。このレシピの生みの親である俺が直々に作ったんだ。美味くないわけがねぇ」
「よく言う。五年前までずっと不味いラーメンしか作れなかったくせに」
「ちげーわ。単に
「どっちも同じだろ」
もぐもぐもぐもぐ。
「意外…昔は不味かったって本当なんですか?」
「ああ。今はすげー息巻いてっけど、当時は経営難も相まって冗談抜きで酷かった。あんな
もぐもぐ。──よし、具材の次はスープと一緒に麺を頂こう。
スープの表面に漂う旨み成分と太麺をじっくり絡めたら、あとは噛み切らないように…一気に啜る!
ズズズズズッ!
「(これ、は…!?)」
もちもちで弾力のある麺は食べ応えがあり、なおかつ咀嚼するたびに芯まで染み込んだスープの旨みが解き放たれる。鼻腔に到達した風味はもちろん、麺の食感も極上なことこの上ない。チェーン店で出されているラーメンが霞んでしまうレベルの美味しさに、私は衝撃を受けた。
これぞまさしく神の御技…! 至高の領域…!
「…………なあ。さっきからずっと険しい表情のままなんだけど、これ大丈夫か?」
「はい。志歩ちゃんラーメンを食べる時はつい真剣になっちゃうだけで、きっと今は美味しさをじっくり堪能してるんだと思いますよ」
「! ちょっ、穂波っ…///」ゴホッゴホッ
横から飛び出た不意打ちに思わず咽せてしまう。
言ってることは正しいんだけど、私の胸中を丸々代弁されると流石に恥ずかしい。なんとか話を遮ろうとするも、口内に残るスープの残り香に気を取られていたせいでもう手遅れだった。
「へへっ、そうか。そいつは職人として冥利に尽きるってもんだな」
村松さんは一瞬驚き、次いで屈託のない笑顔を浮かべながらそう言った。
なんだか悪いことをした気がする…。集中の余りつい寡黙になってしまったけど、お客がキツイ
……やっぱり恩を仇で返したままというのはよくない。
「あの、伝えるのが遅くなってごめんなさい。
──ラーメン、すごく美味しいです。今まで食べてきた中で最高の味でした」
「っはは、 “最高” とはまた大きく出たなあ。…嬉しい言葉だが、まだまだこんなもんじゃ終わらねェ。その “最高” の味も俺が近いうちにきっと塗り替えてみせるから楽しみに待っててくれな」
「! もちろんです」
現状に甘んじず、さらなる高みを目指そうとする姿が
固い決意を胸に、まだ少し残っている麺を啜りスープを飲み干す。完食しきったその時には、お腹いっぱいの幸せな気持ちと暖かい真心が身体の芯まで染み渡っていた。
まだ続きあるけど、ここで一旦区切ります。