元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する   作:俺っちは勝者の味方ー!

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《手入れ》の時間

 

 

「皆んな、さっきは本当にありがとう。この親子コウテイペンギンのマスコット、大事にするね」

 

「もう…すっかり骨抜きじゃない。まだ口元が弛んでるわよ、遥」

 

 

 私たち《MORE MORE JUMP!》は今日、雫の提案で練習の息抜きにと休日をのんびり満喫していた。カラオケに、アロマキャンドル作りに、ショッピングに…言い出しっぺの雫がいつもよりドジを踏むことが多かった気もするけど、そういうハプニングもひっくるめて思い出深く楽しい一日になったと思うわ。遥はまだペンギンカフェの余韻に浸ってるみたいだけどね。

 

 

「あら、大分日も落ちて暗くなってきちゃったわ」

 

「うわ…。よく見たらここ、人通りも少ないし、壁に落書きもされてるじゃない。早いとこ大通りに出ましょう」

 

「う、うん!」

 

 

 脇道を通って駅までの帰り道をショートカットするつもりだったんだけど、正直迂闊だったわ。路地裏じゃないから大丈夫だなんて高を括ってたら、まさかこんなにも物騒な雰囲気が漂っているなんて…。

 みのりの声もちょっと震えてるし、急いでここからーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとほんと、女だけでよくこんな人目が付きにくい場所通れるねぇ。お兄さん、心配しちまうよ」

 

「!」

 

「ま。そっちの方が俺らにとって好都合だがな」

 

 

 っ…最悪ね。私たちの前方、狭い路地の影から現れた学ラン姿の男が軽薄そうな声で喋りかけてくる。タチの悪い軟派って考えが一瞬頭を過ったけど、そいつの『格好の獲物』を見つけたような、下卑た視線を真っ向から浴びて悟ったわ。…こいつは救いようのないクズ野郎だって。

 

 

「くはは♪美人な姉ちゃんが四人もいらぁ、今日は最高についてるぜ」

 

「きゃっ…!」

 

 

 そいつに続いて、前だけでなく後方からも現れた下っ端らしい男たちに囲まれ、みのりが小さく悲鳴を上げる。…まずい、今ので完全に逃げ場が無くなった…。

 女子高生四人に対して、大柄な男子高校生が合計七人。既に絶望的な状況だけど、私は一握りの可能性を信じて賭けに出る。

 

 

「ちょっとアンタたち、寄ってたかってどういうつもりよ!返答次第じゃ今すぐ警察に通報してやるから!」

 

「あ?お前らこそ状況わかってんの?下手に逆らったらタダじゃ済まねえことくらい想像つくだろ」

 

「…っ!」

 

「はっ。なあに…大人しくしときゃすぐに済む。

 

 

 

 俺たちとほんの少し()()()()するだけさ」

 

 

 その瞬間、怒りで目の前が真っ赤に染まった。最低なことを口走った男の顔を思いっきりぶっ叩いてやろうと、考えるよりも先に体が動いていた。

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

 けれど、私が振り翳した手の勢いは殺された。いとも簡単に。強い力で手首を掴まれ心が折れかける。

 そうだ…いかにも喧嘩慣れしていそうな奴らに女の私が力勝負で勝てるわけがない。

 

 

 それでも諦めたくなくて、必死に抵抗した。

 

 

「はっ、離して!」

 

「愛莉ちゃん!」

 

「威勢だけは一丁前だな。だが、お前みたいな気の強え女ほど、屈服させる甲斐があるってもんだ。お楽しみの会場に連れてったら、すぐに逆らえなくしてやーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君たち、僕の生徒に何をしているのかな?

 

 

 

 

 周囲に響いたこの恐ろしく冷たい声には、何故か聴き覚えがあった。普段は優しさを全面に押し出したような声色しか聴いたことが無かったけれど、間違えるはずがない。誰もが驚きで固まっている中、遥がその声の主の名を一番に叫んでくれた。

 

 

「渚…先生!」

 

 

 宮女の英語教師こと潮田 渚先生。

 男性教師でありながら、女性顔負けの可愛らしさを併せ持ち、穏やかな笑顔が魅力のこの人の目は今、一切笑っていない。まるで親の仇でも見るような険しい表情のまま、先生は不良たちとの距離を狭めてゆく。至って自然に、堂々と歩いて。

 

 

「ああ?先公ダァ?ざけんじゃねえ…こんな女みてぇな野郎に邪魔されてたまるか!やれ!」

 

 

 ! ダメ…あんな一斉に囲まれたら、先生がっ!

 

 

「“ ふざけるな ”?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは僕のセリフだよ。

 

 

 ハエが止まるような汚い手で、大事な生徒に触れるな

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「な、ん…」

 

 

 すれ違いざまに、不届きな輩の一人に手刀を見舞う。間の抜けた声と共に、為す術なく崩れ落ちてゆくのを見て確信した。彼らは集団を成しているが、実際その間に戦略的連携は存在しないと。

 三人同時に襲い掛かってきたのに、結局僕の間合いに入り込んだのは一人だけ。つまりは、仲間での同士討ちを恐れていることに他ならない。

 

 彼らが振るうは個の力だ。極楽高での刺激的(?)な五年間を過ごした僕にとっては恐るるに足らず…そこから先は制圧作業にも等しかった。

 

 

「らあっ!」

 

「っ。」

 

 

 攻撃のほとんどが馬鹿正直で短絡的。より鋭い第二撃の警戒をしていても、そういった追撃は現状一度も繰り出されずにいた。脇も甘く隙だらけな拳はわざわざ捌いてやるまでもない。

 

 そして、油断した・疲弊したところへアイアンクローや搦め手を仕掛けるだけで、いつの間にか相手の戦力は半壊していた。

 

 

「ちくしょう!当たらねえ!」

 

 

 そんな烏合の衆の中でも、武道を心得ていそうな輩はやはりいた。力も(わざ)もあり、()()()()()()()()()

 

 

「……ふんっ!」

 

「ごっ…!」

 

 

 けれど、女性に手を上げるような未熟者よりも()()()()長生きしている僕の方が、()()()()()()

 十二年間で積み上げてきた経験と技術と度胸を以て、半端な業にそれ以上に洗練された業で返す。学校で生徒に《手本》を見せるのと同じように。

 

 

「か、踵落とし…!

 

 

 (あのチビ、タダモンじゃねえ…)」

 

 

 残るは桃井さんを乱暴に扱おうとした主犯格ただ一人。肝心の桃井さんは呆然とする彼の拘束から難なく逃れ、日野森さんたちに匿われながら物陰に身を潜めている。…ああ、無事で良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで心置きなく……()れる。

 

 

 

 

 この時点で、彼の中で“ 逃げ ”という選択肢は消えていたんだろう。初めて目にする本物の殺意に縛られ、いかに動くべきか正解がわからなくなっている。意識の波長が全て教えてくれた。

 

 たった今芽生えたばかりでも、そこに《殺される恐怖》があるのなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  パアァン

 

 

 

 僕の《暗殺(手入れ)》は完璧に事を運べる。

 

 

…が……

 

 

もしまた彼女たちにその汚い顔を見せたらどうなるか、わかるよね?

 

 

……ひえっ…

 

 

 ナイフを抜く感覚でペン先を頸部に突き付けると、男は口から泡を吹いて気絶した。

 

 もうこんな人たちを気にしていられない。僕はすぐさま桃井さんたちの元へ駆け寄っていった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「桃井さん、みんな、怪我はない?」

 

 

 って、渚先生が心配してくれてるけど……いやいや、安心よりも驚きの方が(まさ)っちゃうわよ、これ!?

 草食系男子が巨漢どもを圧倒しちゃう絵面だけでもすごいのに、その張本人が私たちのよく知る宮女の英語教師ってのもあって数倍衝撃的ね。

 

 

「ひゃ、ひゃい!おかげでなんともなかったです。ありがとうございます、渚先生!」

 

「「「あ、ありがとうございます!」」」

 

 

 そう…まだ少し心ここに在らずって感じだけど、助けてくれたお礼は誠心誠意しなくちゃ。本当に先生がいなかったら、どうなっていたかわからないもの…。

 

 

「顔を上げてよ、皆んな。僕は教師として当然のことをしただけだから」

 

「で、でもでも…!」

 

「大丈夫、君たちの気持ちはしっかり受け取ったよ。それに…申し訳なく思ってくれてるなら、今日のことは僕たちだけの秘密ってことで手打ちにしようよ」

 

「? どうしてですか?」

 

「僕みたいな『暴力教師』が宮女に勤めてるーーーなんて噂が立つと学校を経営してくれてる色んな人に迷惑がかかっちゃうかもだし…」

 

 

 「ああ、でも!?四人ともすごくいい子だから、決して信用してないわけじゃないからね!?」と焦りながら補足を挟んでくる先生は、とても不良集団を圧倒した人には見えなかった。

 どこまでも優しくて…生徒思いなこの先生を、私は彼の言う『暴力教師』だとは認めない。

 

 

「…わかりました。私たちを助けてくれた()()()()()先生のことは秘密にしておきます。それでいい?皆んな」

 

「ええ、もちろんよ。愛莉ちゃんと()()()()()渚先生がそう言うのなら誰にも言わないわ」

 

「そうだね。誰にだって隠しておきたい秘密の一つや二つはあるものだし」

 

「私も賛成だよ!」

 

「ありがとう。すごくありがたいんだけど、…その()()()()()って認識は僕が恥ずかしくなるからやめようか…?」

 

「そういえば渚先生はどうしてこんなところに?

 私みたく迷子にでもなっちゃったのかしら?」

 

「ちがうよ!? しかも、スルー!?」

 

 

 そこから駅までの帰り道にも付き添ってくれた先生と別れて、改めて思う。…ああ、あんなことがあった後なのにこんなにも笑えてるって。

 それもこれも全部渚先生のおかげね。感謝の気持ちを忘れずに、アイドルも勉強も、両方頑張らなくっちゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

 

「なぎちゃん先生!先生が不良をばったばったと薙ぎ倒したっていう噂は本当なんですかー!」

 

「何故にその噂が!?」

 

「ごめんなさい。うちのお姉ちゃんが…」

 

「雫さん!!??」

 

 

 


 

 

 

 オマケ;あの時渚がいたワケ。

 

 

『渚さん。まもなく目的地の《松来軒 シブヤ支店》です』

 

「ありがとう。律」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー「は、離して!」

 

 

「ん? この声…」

 

『どうかしましたか?』

 

「…律、悪いけどナビは一旦ストップ。ちょっと野暮用ができたみたいだ」

 

『了解しました。……お気をつけて』

 

「うん、行ってくるよ」

 

 




誰かと恋愛フラグを立てようとかそんな気はない。
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