元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する 作:俺っちは勝者の味方ー!
ん?……ジケイレツ?ナニソレ、オイシイノ?
体育祭。
それは、日夜学業に勤しむ学生たちがさまざまな競技・種目で勝ち負けを競うスポーツの祭典。チーム一丸となって闘うことを趣旨とするこの
加えて、今年の体育祭は過去に行われた競技が復活していたり、学年を超えての交流が求められていたりと、例年と比べ趣向が大きく変化している…らしい。生徒伝に聞いた限りだと。
内容の大幅な変更に伴い、実行委員が総出で動きこれだけ入念に企画を練ってくれたことには是非とも花丸を贈りたい。
…そして、教師である僕はあくまで脇役として、今日一日校庭という舞台で輝く生徒たちを応援するために頑張るつもりだ。勿論、出歯亀が分を超え過ぎないよう注意して。
☆
「な、渚先生! お願いです、私に借りさせて下さい!」
「望月さん!?」
「カードに書かれてた《借り人》のお題が
「ぐっ! うう……」
ま、まあ…
☆
『おおっと、ここで怒涛の追い上げだ! 1年B組の望月選手と潮田先生がすさまじい速さで他の選手たちを追い抜いていきます!』
「すっ〜ごい! はやいはやい! 穂波ちゃん、なぎちゃん先生、二人ともがんばれ〜!!」
「いや、穂波は知ってたけど渚先生も走るの速すぎでしょ…。ずるくない?」
「あはは…」
☆
競技終了後。
「一位ゴールおめでとう、望月さん!」
「はい! 私の方こそ、先生のおかげで勝つことができました。ありがとうございます」
「ううん…全部望月さんの実力あっての一位だもの。もっと自分の頑張りを褒めるべきだよ!」
「そ、そうですね//」
…あれ? “脇役” って意味、何だったっけ?
◆◇◆◇◆◇◆◇
一年生の借り人競走が終わってからというもの、潮田先生は今までのテンションが嘘のように塩らしくなっていた。
クラスメイトがその理由を問い質したところ、「望月さんが速すぎて調子乗った…。選手じゃないのにこんなに目立つの恥ずかしいって…」と弱々しい答えが返ってきたらしい。いつもしつこいくらい張り切って授業してる人が、今さら何言ってるんだろう。
「さあ! 次は《クラス別対抗リレー》よ。そこでいつまでもいじけてないで私たちと円陣組みましょう、渚先生!」
「僕と肩組むことへの抵抗はないの…?」
「「「「全くもって」」」」
「即答かよ!?」
次の種目…《クラス別対抗リレー》は学年毎クラス別に分かれて行う体育祭の恒例競技の一つ。だけど、去年と規定が少し変えられ、私たち生徒だけでなくクラスの担任も走者として好きな走順に交えるルールが加わっている。
これも体育祭実行委員が掲げる、『皆んなが笑顔になれる楽しい体育祭を』というスローガンのもとで施された変革の影響らしい。
(皆んなが、笑顔に……なんて叶うわけがない。笑い方のわからない私がいるっていうのに)
クラスで円陣を組みリレーへの意気込みが高まっているなか、私はそれと全く関係のない考えに至り、どれだけもがいても抜け出せないあの悲壮感に人知れず染まっていた。
K…奏が私を救う曲を作り続けると約束した瞬間から、確かに
(なんで、こんなに苦しいんだろう)
どうして苦しいのかすらもわからずに、私は胸に縛られるような痛みを孕んだままフィールドに降り立った。
普通トラックを半周しバトンパスするところを、アンカーを務める私は丸々一周走ってゴールする。皆んなよりも多く走って疲れれば、この痛みも紛れるかもしれない。
そんな淡い期待が浮かんだ瞬間、ピストルからスタートの合図が木霊したーーーーーーーー。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『さあ、一斉にスタートしました! 先程も解説しました通り、今年のクラス別対抗リレーは担任の先生方も交えて行う特別ルールです。一年生に続き、二年生は一体どんなレースを見せてくれるのでしょう!』
始まった…! おそらくこのリレーが、僕が黄組の優勝に貢献できる最後のチャンスになる。集中しなくちゃ。
………朝比奈さん。うまく隠してるけど、競技が始まる前後で纏ってる空気が全然違う。まっさらの白紙が一瞬で黒一色に染め上げられたような衝撃を感じた。
人当たりのいい人が浮かべる
『これはすごい! D組の桃井選手が脅威の追い上げを見せ、一気に最下位から二位へと食い下がりました!』
っ。正直煮え切らないけど、
今はリレーの真っ最中で、僕の走順は最後から二走目。つまり、アンカーである朝比奈さんにバトンを繋がなくてはならないから。
気持ちをしっかり切り替えて、これから自分がなすべきことに全力を出そう。
ーーーーと、僕にバトンを渡してくれる子を待ち構えていたその時。
「きゃあ!」
「! 石井さん!」
テイクオーバーゾーンまであと少しというところで、先頭を走っていた石井さんが躓き転倒してしまった。すると、そこそこの差がついていた他クラスの子たちに次々と追い抜かれ、僕たちB組はあっという間に最下位まで落ちてしまう。
「えうっ…ひっ、く」
それでも彼女は立ち上がった。悔しさで涙が溢れ、嗚咽を漏らしながらも決して諦めずに。
…こういうとき下手な慰めや労いの言葉なんてかけられない。それは彼女の頑張りを貶すことになる。
だから、極めて短くシンプルに、今の彼女を勇気づけられる言葉を送ろう。
「勝つよ、絶対に」
「…え?」
ーーーーだから、待っていて。バトンを受け取った瞬間、言葉に表しきれなかった言葉は目と目を通して訴えかけた。
つい先日の休みを、全速力で走る感覚を取り戻すために費やしておいて良かった。
かなり大人げないかもしれないが、久しく本気で勝ちを狙いにいきたくなった僕は、誰にも止められない勢いで校庭を駆け抜ける。
目指すは
『なっ、なんということでしょう!? 最下位だった2年B組の担任、潮田先生が徐々に巻き返してきました! 先頭集団に必死に食らいついています!』
「先生すごい…。もう二位まで上がりそうだよ!」
「頑張れ! 渚先生!」
くっ…だけど、僕に残された距離じゃ一位の選手はもう抜かせない。なんとか二位まで這い上がってこれた。それなら、後はーーーー
「朝比奈さん!」
「…!」
「任せたよ!」
「はい!」
朝比奈さんに全てを託す!
◆◇◆◇◆◇◆◇
潮田先生が強く押し出すバトンは私のスタートに勢いを授けてくれるように、綺麗に繋がった。
それに、アクシデントに見舞われながらもこうして私の元まで辿り着いたバトンを握りしめると、胸の奥が熱くなる。始めは、どの競技でもただ『
…だけど、なんでだろう。
(あれ…。 胸がとても熱いのに、全然苦しくない…?)
第一コーナーに差し掛かる時には苦しくて嫌な感じのするあの鈍い痛みは消えていた。おかげで自分の
そして、一位との距離を縮めるごとに身体はむしろ活発に、速く動くようになってゆく。本来蓄積される疲労はどこへ行ったのかと疑問に思うほど、今の私は兎に角速かった。
『距離は残り100m、A組とB組が接戦を繰り広げています。一体どちらが先にゴールするのでしょうか!』
実況のアナウンスが聞こえたのか、前にいるA組のアンカーの走りが変わった。私から逃げ切るために脚の回転がさらに速くなる。
私だってまだまだギアを上げられる。膂力も残ってる。だから、彼女を必ず追い抜くと決めた。
ーーーーーーーー《 任せたよ! 》
(
何より、私の心は勝利を渇望していた。理屈なんてわからないけど……その気持ちが一番の動力源となって、私を突き動かす。
『トップは残り30m!』
(もっと、もっと…!)
ここでA組と並ぶが、まだ向こうの方が若干速い。声援の騒がしさを忘れ、一心不乱に腕を振る。視界には、ゴールテープと追い越せそうで追い越せないA組のアンカーしか映らなかった。
そしてーーーーー
パンッ!
『……一位は、2年B組!
アンカーの朝比奈選手、A組と僅差でしたが、勝利しました!』
◆◇◆◇◆◇◆◇
朝比奈さんがゴールした瞬間、客席がどっと湧き上がった。あの見事なまでの逆転劇に、多くの生徒の心が鷲掴みにされたようだ。
空気が震えるような歓声が飛び交うなか、朝比奈さんの元へ駆け寄るB組の皆んなは思い思いの賞賛を彼女に送っている。
「まふゆ、すごいよ! 最後のあの粘りホントドキドキしちゃった!」
「最っ高にカッコいい勝ち方だったね!」
「あはは…そうかな?」
すっかりクラスメイトの注目の的となった朝比奈さんは、周囲の圧が強すぎるあまり困惑気味だ。僕も彼女と話したいんだけど、これじゃちょっと難しいかな。
「あ、渚せんせーもおっつー! せんせーもめちゃくちゃ速くて、マジびっくりしたわ」
「ね〜、いつもの小動物っぷりが嘘みたいに目ギラギラさせてたし」
うう、好き放題言ってくれる…。
「ありがとうございました、潮田先生。先生の走りもとても素晴らしかったです」
「うん、お疲れ様。朝比奈さんにそう言ってもらえるなら、僕も頑張った甲斐があるよ」
…て、手強い。波長が微かに揺らいでいたからもしかしたらと思ったけど、やっぱり彼女が “本当” の笑顔を取り戻す道のりはまだまだ長そうだ…。一応、初めて会った時よりかは良い意味で変われてるってことで、喜んでいいのかも。
そしてそれからはと言うと、石井さんが怪我をしていないか確認を取ったところで僕の役目は完全になくなり、体育祭が終わるまで大人しく本来の
けれど、当分鳴りを潜めていた『
朝比奈さんに関しては、もう少しだけ…今後の彼女の動向を見守ろうと思う。僕の考えている以上に複雑に、そして何重にも絡みついている朝比奈さんの鎖を無理に壊そうとすれば、朝比奈さん自身が潰れかねない。
焦ったいけど、朝比奈さんの細かな変化に気を配りつつ慎重に近づいていきたい。『本当』の朝比奈まふゆを殺してしまった
お気に入り件数の伸びがエグすぎて、自分の作品じゃないみたい。