元暗殺者、宮益坂女子学園へ赴任する 作:俺っちは勝者の味方ー!
そして今回、渚くんは何も教えないし誰も導かないです()
「え? 今度の日曜空いてるかって? どうしたの急に?」
『うん、僕たち最近ずっと会えてないからさ。久しぶりに茅野と一緒に何処か遊びにいきたいなって思って』
「ああ、デートのお誘いね。渚からしてくれるなんてちょっと意外〜」
『デッ…!? 別にそんな邪な感情があるわけじゃ…』
「はいはい。純然たる善意なのはわかってるし、冗談だからそんなに慌てないの。先生ならもっと毅然としてなくちゃ」
『プライベートにまで先生らしい立ち居振る舞いを求めないでよ…』
よかった、渚すごく元気そう。勤務先の学校が変わったって聞いた時は環境の変化に伴うストレスでやられないか心配だったけど、無問題みたい。
最近はお互い忙しくて全然連絡取れなかったもんなあ。渚の声聞くだけでも懐かしいや。
「今勤めてるの女子校なんでしょ? 渚が女子高生たちにおもちゃにされてないか心配でさ」
『————』
「あれ? もしかしてもう…」
『すっかりいじられ放題です…』
「あー、案の定」
『案の定!?』
元の容姿が短髪の今でもアレなのに加えて、寛容で面倒見の良い『先生』の渚が女子高生にウケない訳がないんだよね。しかも、E組きっての年下キラーだし…無自覚に誰かをオトしてる可能性すらある。天然たらしって本当に怖い。
あ、今のでまた落ち込んでる。
「ごめんって渚。デートの話したいし、切り替えてこ!」
『もう、わかったよ』
次の日曜がオフであることを伝えると渚は機嫌を直してくれた。それから当日をどのように回りたいか、そこにはどんな面白さがあるかとか想像力を膨らませるようにわかりやすく話してくれたから、私も聞いていて楽しかった。
大好きな人と久しぶりにゆっくり話せた上に、渚は頑なに否定し続けたけど デートの約束までできちゃって……まだ胸がドキドキしてるよ。
「
渚に意識してもらえるようにとびっきりオシャレしてこう。本気で狙いにいかないと、あの
◆◇◆◇◆◇◆◇
一週間後。
「うーん…早く来すぎたかな」
待ちに待った茅野と遊園地で遊ぶ約束の日。大事な友達との再会が楽しみだからって、少し張り切りすぎたかな…。待ち合わせの時間にはまだかなり余裕がある。
茅野に「このことは他言無用ね。特に、渚の生徒たちには!」と釘を刺された通り、今日の予定に関しては誰にも口外していない。やっぱりお忍びで外出してるから、彼女としては極楽高に居た時みたいに
「なーぎさ!」
「あっ! 茅野、久しぶ——…」
それから待っていることほんの数分。明るく懐かしい響きのする声が背後からかけられ、僕は意気揚々と振り返る。けれど、いつものようにフランクに喋りかけたところで、思わず言葉を失ってしまった。
「えと、どうかな? 似合ってる?」
茅野は少し恥ずかしそうに訊ねる。
ブラウス、ニーハイ、ブーツが全て黒で揃えられているからか、首にかかるネックレスと真っ赤なミニ丈のフレアスカートがよく映える。簡素ながらも、着ている人の魅力がしっかりと伝わってくるとても可愛らしいコーデだと思う。
けれど、僕が何より衝撃を受けたのは彼女の
「それとこれ、ちょうど今の髪質と長さに合ってるウィッグなんだ。変装も兼ねて、昔の頃と同じ色と結び方にしてみたの」
緑色でツーサイドアップの髪型…少し伸びているけれど、E組でともに過ごした “茅野 カエデ” がそこにはいた。
「また染め直したかと思って驚いたよ…。でも、やっぱり茅野のその髪すごく似合うなあ。今の下ろしてる方も素敵だけど」
「すっ、素敵!?」
「うん。今着てるシックで可愛い服も魅力的だよ」
「〜〜〜〜////」
「? 茅野、顔赤くない? もしかして熱でもあるんじゃ…」
「ないないないから!? だから、これ以上純粋な眼差しで私を見つめないで!」
「ええ?」
そう言うと茅野は慌てて僕に背を向けてしまう。感じたままの言葉を伝えただけなのに、そこまで動揺されると正直少し凹むなあ…。
「ありがとね渚。その…す、素敵って言ってくれて」
「本当に? 急に動揺してたから、てっきり怒ってるんじゃないかと思ったんだけど…」
「まさか! ちょっと恥ずかしくなっちゃっただけだよ。大袈裟だな〜」
「あはは、そっか。なら良かった」
一瞬最悪の懸念が過ったけど、茅野はむしろ喜んでくれていたので思わず胸を撫で下ろす。すっかり笑顔だし、これ以上彼女の心配をするのは野暮だろう。
お互い誤解も解けてスッキリしたところで、僕たちはいよいよ本来の目的地であるフェニランへ向かうことに。今日のために人気のアトラクションだけじゃなくて開催予定のショーやイベントまでたくさん予習しておいたから、茅野が心ゆくまで楽しんでくれたら嬉しいな。
☆
フェニックスワンダーランド。
「♪〜〜〜」
「上機嫌だな、小豆沢。それほどショーが楽しみなのか?」
「もちろん! それに青柳くんこそ司さんの演技が見たくてたまらない、って顔に書いてあるよ」
「むっ。そ、そうか」
えへへ、かく言う私もショーの開演が待ち遠しくてたまらないよ。隣を歩く青柳くんは座長の司さんが目当てな感じだけど、私…小豆沢こはねと同じくワンダーランズ×ショウタイムの大ファンであることには間違いないから、ショーが始まる前のワクワクする気持ちはすごくよくわかるなあ。
「二人とも早歩きになってるよ! ちょっと待って!」
「…ったく、子供じゃねえんだからそこまで急ぐことないだろ」
もちろん練習もイベントもない完全オフである今日、フェニランへは《Vivid BAD SQUAD》の皆んなで遊びに来ている。
私たちの後ろで杏ちゃんと東雲くんが駆け足になりながら声をかけてくれるけど、甘い…! 甘いよ二人とも!
「彰人、ワンダーライズ×ショウタイムは今やフェニランの宣伝大使…。そのおかげで観客数の伸びも凄まじく、最近は早めに座席を確保しておかなければ公演を間近で見ることができないんだ」
「そう! 老若男女を問わず大人気だから、皆んなで揃ってショーを見るためには早く行かなきゃなんだよ、杏ちゃん」
「おー、こはねすっごい気合い入ってる。…でも、なるほどね。二人が張り切ってたのはそういうわけか」
「ああ、そこまで言われたらしゃあねえな。とことん付き合ってやるよ」
「彰人は素直じゃないな〜」
「るっせ」
「ふふふ。……あれ?」
私たちの前に誰かいる。ワンダーステージへアクセスするための長い道を歩く二人組だ。話すのに夢中で全然気付かなかったな。
というか…うち一人の後ろ姿、どこかで見たことあるような?
「なあ、あの背丈と髪色、もしかして渚さんじゃないか?」
「え、…あ! 言われてみれば確かに」
「ホントだ。じゃあ隣にいる女の人、渚さんの彼女なのかな? 後ろ姿だけでもすっごい美人!」
「いや、そうとは限らねえだろ…。本人に確認しないで勝手に盛り上がんな」
あはは…。それでも杏ちゃんの言う通り、私も渚先生とその隣の女性がすごいお似合いのカップルだと思う。あのお互いの距離の近さ、どう考えてもお付き合いしてるようにしか見えないしね。
「後ろの方賑やかだね。私たち以外にもこんな早いうちから来るお客さんいるんだ」
「この時間帯は空いてるってアドバイスもらったんだけどな…。それにこの声どことなく聴き覚えが———って、小豆沢さん?」
「「「「あっ」」」」
「それに白石さん、東雲くん、青柳くんまで! そっか、ビビバスの皆んなもフェニランに遊びに来てたんだ」
「は、はい! こんにちは、渚先生」
「ご無沙汰してます」
「こんにちは」と、渚先生も笑顔を添えて丁寧に挨拶を返してくれる。するとそんな私たちのやり取りを見て不思議に感じたのか、先生と一緒にいた女の人が横で首をかしげている。
「渚、この子たちと知り合いなの?」
わあ…! 近くで見ると本当に綺麗。肌のキメも細かいし、まつ毛も長い…。
私とそう身長が変わらなさそうなのに、纏ってる雰囲気が完全に大人の人のそれと一緒だ。
「うん。行きつけのカフェで勉強を教えてあげたり、歌を聴かせてもらったりする間柄かな。…言葉で表すとちょっと不思議な縁かもしれないけど」
「へえ、そうなんだ」
「? 渚さんが勉強を教えてるのは基本彰人と白石だけですよね」
「「ちょっ…!? 冬弥/ァ!」」
青柳くん、今そのフォローを挟むのは蛇足な気がするよ…。
☆
「茅野 カエデだよ。気軽に “カエデ” って呼んでくれたら嬉しいな」
「はい! よろしくお願いしますね、カエデさん」
あれから茅野と小豆沢さんたちがお互いの自己紹介に移ったけど、どうやら茅野が『磨瀬 榛名』だとは気付かれていないようだ。間近で話すと正体バレしてしまう可能性があったから、思わずほっとする。
「それにしても驚いちゃった。まさか渚が勤めてる学校の生徒さんがこはねちゃんだけだなんて」
「あ、言われてみれば…」
「気にしたことなかったんだ…。ふふ、他校の生徒でも甲斐甲斐しく勉強を教えちゃうあたり、やっぱり渚だね」
僕たちの関係性を知った茅野からある意味当然とも言える指摘を受ける。確かに
「そう、だね……勉強がわからない子や苦手な子の力になりたいと思うのに、その子がどの学校に所属してるかなんて些細な問題だから深く考えたことは一度もないよ。
世間だと労力の無駄遣いなんて言葉で吐き捨てられるかもしれないけど、少しでも苦手なことに向き合ってもらえるようになるのなら…僕が “先生” として費やしてきた時間と努力は決して無駄なんかじゃないと思うんだ」
「「「「「………」」」」」
え? 何、この静かすぎる間。
「今の聞いたでしょ、みんな。この通り渚は生粋の《教育バカ》だから、息抜きのために勉強を中断したいと思ったら遠慮なく『止めたい』って言っていいからね!」
「「「「はーい」」」」
「いや、素直!?」
自分から語り出したこととはいえ、まさかの《教育バカ》扱い…。嬉しいのになんでだろう…文脈的に純粋な褒め言葉として受け取りづらいから腑に落ちないというか、締まらないなあ…。
茅野はすっかり小豆沢さんたちと打ち解けたようで、すでに僕そっちのけでワンダーステージの魅力について説かれている。
一連の流れでショーを一緒に見ようという運びにもなったし、これから始まるワンダーランズ×ショウタイムの公演がますます楽しみだ。
「ええ!? あんなにお互いのこと信頼し合ってる感じなのに、まだ恋人じゃないんですか!?」
「あ、杏ちゃん…」
「ううぅ…////」
プロセカの世界観に暗殺教室のノリをぶっこむのは、なかなかハードルが高いんだあ…。